聖域に、なるべくだったら引きこもりたい

ゆう/月森ゆう

平民編

普通のスキルも十分目立つのに引きこもり何て無理でした!1 改


ユニ



    ーク

  

 スキル


スキ

              ル


 頭の中で文字が踊る踊る踊る。

 バラバラと砕け散っているものが、降り積もるように文 字が意味を成していく。


 ユニークスキル、スキル、選択をしてください。だそうだ。

 一体なんだと頭を抱えて被りを振る。

 頭痛がひどい、何だってまたこんな目にあってるのか?

 大体今は何時で俺は何をしているんだ?


 んんん?と喉奥から絞り出すように音が発される。


「ここは………?」


「えー、っと、古峯さん?古峯祐司さん?私の声は聞こえますか?今まで何を話していたか覚えてますか?説明 を聞き取れていましたか?」


「い、いいえ………今まで何かの説明を受けていたんですか?」


 そう訊ねればそうですよと声が返ってくる。


 兎も角俺は何も、何故か覚えておらず、記憶がないということに震えがきた。

 さっきまでは平気だったのに、だ。


 存外自分が何者かすら分からない状態というのは恐ろしいものであり、恐怖心から目の前の声をかけてきた男性 の肩を掴み、お願いだから教えてくれと懇願した。


 俺は誰で、どこのどいつなのかと。



「お兄さんは古峯さんです。ただしこれは生前のお名前 なので今はナナシさんですねー。そのままナナシだと呼 びかけにくいので、私は名前を呼ばせていただいている、だけです。つまりはナナシの権兵衛。それが今のあな たです」


「俺はナナシなのか………生前って………」


「そう、あなたは死んでいる。死んだあなたはここ、      にて、来世に行くための手続きをしているというわけです」


 お判りでしょうか?と言われ、曖昧に頷いて見せた。

 俺は、つまりここで新しい生を受けるという事だろうか ?とぼんやりと思う。

 俺は一体どういう人間?だったのだろうか?


「あなたは生前――」


 どういう人間であるか考えた途端に言われた言葉にはっ とする。


 俺は実際に相当善行を積んだ良き人間だったらしい。

 だからこそ次は新しい魂のステージである、上位世界に行けるとのことだった。


 そこでは人のステータスを数値化しており、それを可視 化することができるとのことだった。

 しかもそれを今決めるところだった、というのだから驚きである。


 そんなゲームみたいな世界に行けると言われても、嬉しいか悲しいかで言われると分からない。


「まあ、大半の人はここで喜ぶんですけどね?」


「そうなんですか………」


 徐々に落ち着いて来た自身に、ほっとする。


 胸を押さえて目の前の男性に問いかけた。


「今決めるところだったというのは、何をでしょうか?

ステータスが見れるというのだからその数値ですか?」


「いえ、持っていけるスキルです。ただ、これは善行を積んだからこそ上に行けるのだから、特典と思っていた だければいいかと思いますよ」


「とく、てん………?」


 何を持っていけるのだと言われてもチンプンカンプンで 、恐らく俺という人間は、生前、そう言ったゲームなどをしない人間だったのだろうと思う。


 はてさて、と言いながら目の前の彼は困った様子。


「ここまで楽しい嬉しいと騒がれないと、むしろ喜ばせたくなるものですね」


「というと?」


「ユニークスキルを一つ選ばせて、その後スキルを3つ 選んでもらうのですが、先ほど送り出した方が、ユニー クスキルを得ていないんです。善行度は高いのですが、 そこまでではないと判断されたのですね。ですからあなたに二つ与えては?という審議が行われたのですが―― それもあなた、嬉しいと思えないんでしょう?」


「嬉しいかと言われると、 いまいちよく分かってなくて、驚けず済みません」


「なんだか二つ渡すの惜しく感じられるから嫌ですねえ・・・・ですが決まりは決まりです。相当な善行を積ん でいるあなたの為に、二つユニークスキルを提供します 。どのようなものをお望みでしょうか?――次の世界での生活で何が必要だとかありますか? 冒険がしたい?それとも安穏と生きていける静かな生活をお好みだとか、色々とあると思いますが」


「え?冒険は、いいです。私はゆっくりと生活を楽しみたいのです」


「ああ、確かあなた、前回の生では、医師をやっていた んですね。そこで沢山の命を救ったと………なるほど 、それはきっと休む暇も無かったことでしょう」


「はあ………」


 医者、医者だったんですかとぽつりとつぶやくと、にこりと音がしそうなほどの――目の前の男が満面の笑みを 浮かべる。


「ではこうしましょう、ユニークスキルを二つ、それは どちらも戦闘系ではなくします。スキルはどうされます か?後から魔法はあちらに行ってから学ぶことも出来ま すから、外しましょうかね………三つ選べますけれど、これは医者だったなら、それこそ研究は好きでした かね?」


「研究………ええ、理科や化学などは好きな方だっ た、かと」


 思う。


 頭を抱える。

 俺は何が好きで、何が嫌いだったんだろう?

 分からない、分からない、分からない。


「では、この中から選んでみてください、ユニークスキルです」


「ええと、最上位テイム・自由貿易・異空間通路????」


 色々と聞いて見ると分かるのが、自由度の高さだった。

 一つ手に入れれば相当に助かるのは分かった。

 だが二つ私は手に入れられるという。

 そこで迷ったのが自由貿易と異空間通路だった。


 これは自由貿易がインターネット通販が生前のインターネットで固定されており、その時間軸から何でも持って これるということだった。

 それこそ貨幣を払えば何でも。


 だが異空間通路は違う。

 それはあちらの――生前の俺――いや、生前俺は私と言っていた。

 私の住んでいた世界と繋ぐというのだ。


 どちらがいいか迷いに迷ったが、私は決めた。


「聖域と、自由貿易で」


 次の世界がどのような世界か分からないけれど、私が生活するうえで困るのは、慣れた味、慣れた生活だ――そ れが異なり生活苦にあえぐことにならなければいいと思 ったのだ。


 生まれてすぐに冒険をしなくて済むようにスキルも選ぶつもりであるが、こればかりは譲れない。


「正解と言っておきましょう。次の世界は、地球で言うところのローマ時代のようなところから、となっています。といっても生活水準的なものがですよ?しかも平民だけはそれってところですから、混乱はするやもしれませんね」


「? それは、良かった」


 ローマと言えば湯殿は有るはずだ。

 それは重畳と笑えば、目の前の男は次はスキルを選択してくださいという。


「じゃあ、錬金と工作と農業だ」


「ほう、農業だけ異質ですねもっとも、他も異質は異質ですが・・・ね」


 他は全て貴族お抱えか、貴族しか使えないスキルだとい う。

 おっと、これはまずったのか?と思うが、自分で傷を治せる薬を創れて、更には武器でも工具でもなんでも作れ る魔導具師になりたいならこの組み合わせだと言ったのは、目の前の男である。


 意地の悪いと思ってしまうが、まあいいだろう。


 農業はただたんに、持っていれば食事に困らないだろうということでとった。

 それは悪い事ではないと思うが、気に入らないのか、鼻にしわが寄っている男に、どうにも居心地が悪かった。

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