独立傭兵だった頃を思い出せ

 小説の創作とはアーマードコアである。至言。

 至言は言い過ぎだった。

 だが、それくらい他者に通じない例えを語ろうと思っている。


 つまり、物語を組む行程が、アーマードコアにおけるアセンブルという行為に通づるということである。


 あらゆる人間がアーマードコアを知っているものとして話してしまうのは、ゲーム好きならポケモンのどれかを通っているだろうと考えるような間違い(筆者はポケモンを遊んだことがない……)であるため、軽く説明する。


 アーマードコアは90年代のゲームハード、プレイステーションの頃から続いてきたロボットアクションゲームである。特徴は「パーツのアセンブル」。人型ロボットの五体を取っ替え引っ替えしながらオリジナルの機体を作りだし、そいつを操って刹那的で不道徳な依頼を果たし、得た報酬でまた機体を組み替える。


 操縦技術と、機体組み替え知識の二つを身に着けてゆく、というわけだ。

 この機体組み替え行為、「パーツのアセンブル」が創作に役立つ。


 プロット単位で切り分けられた物語、登場人物、小道具……全てはアセンブル可能なパーツである。整合性を持たせて配置しなければならない。整合性というのは、どのパーツにも役立つ機会があり、物語を盛り上げるということである。


 入りそうだから入れておいたような、とりあえずのパーツは、使わなければ「何故そこにあったのか?」という疑問を残すことになるため、外してしまう。


 組み立てると不整合を起こすことも多々ある。そういう時は物語のプロット単位を前後させたり、別のものに入れ替えたり、登場人物の出現タイミングを移したり、そもそも登場人物を消してしまったり、増やしたり。


 ああでもない、こうでもないと唸る、こうした物語の骨組みを組み立てる創作行為は、「パーツのアセンブル」そのものではないか。


 大事な要素が抜けていると思うだろう。感情だ。

 物語という機体は、読む者の感情を揺り動かすために機能する。ここまでの説明には、誰かに伝えるべき、込められるべき感情が省かれている。


 この点は別に問題ない。


 物語という機体のあらゆる箇所から、感情は注ぎ込めるからだ。常に感情マシマシでパーツアセンブルをして頂いて構わない。入れ過ぎて液漏れするくらいが丁度良く、泣きながらかき混ぜて組んでいこう。


 ここまでの話をまとめると、物語のパーツ(各要素)は全てが活きるように配置することを心がけている、という話になる。ほとんど一言で済んでしまうが、自分としてはどうしてもアーマードコアを絡めて話したかった。


 現実の世界は、身の回りの全てが活きるとは限らない。人物は不慮の事故や病気で退場するかもしれないし、役立たないものもあり、全ての要素が活きる世界というのはまるでリアルではない。物語と現実は、違うのである。


 小説(もとい、創作全般)は、就職面接でパイプ椅子に座らされた瞬間に思い知らされるような現実とは違い、“死にスキル”というものが無い。


 機械室の裏で寝袋を被って寝た経験も、エアコンが効いたオフィスに憧れながら雪の降る路上を見張り続けた経験も、場所を変えたら役立たない……、などということはない。常に「Join Us」のボタンが光っている。身の回りの全てが活きるし、そのように作れるのである。


 そこが良いところだと思う。


 書いている筆者の頭の中は、あと重量8足せばFCSを横長に換えられるとか、47あればジェネレータを換えられるとか、そんな無駄知識でいっぱいである。アーマードコアの無駄アセンブル知識も、やはり小説(創作)のノウハウとして何処かで活きている。


 最後に言いたいのは、別にアーマードコアで小説の修行をする必要は無いということである。筆者はアーマードコアをやりすぎてこういう脳になってしまったのであって、読んでいる貴方は、自身の人生から独自の物語の組み方を掴んでゆくことになるだろうし、既に始めているなら言われなくてもそうしていると思う。なんにせよ、無駄はないというのが素晴らしい所である。

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