他人行儀な隣のあなた
青原凛
冬の尻尾
いつの間にか、外は雨が降っていた。
薄暗いベランダの手すりをつたっては、はたりと雫が落ちる。仄かに部屋を照らすディスプレイを閉じれば、部屋は思った以上に暗くなっていた。
立ち上がって軽く体を伸ばしながら窓際へ近づきその戸を細く開ける。冷たい空気が肌を撫で、耐えきれずに再び戸を閉めた。凍える真冬を過ぎ、季節は芽吹きの春へと向かっているもののまだまだ寒さばかりが目立つ。
灰色の空をガラス越しにぼんやりと眺めていれば、布の擦れる音が耳に届いた。
「ん……今、何時ですか?」
「あ、と、何時だろう。待ってくださいね」
机に伏せて置いてあった携帯を手に取り画面を一瞬つけて、また消し元に戻す。
「もうすぐ6時です」
「そっか、ありがとう。すみません、大分眠ってしまいました」
影ばかりの部屋で起き上がった人影が目元を数秒おさえてから、立ち上がった。
「いえ、まだ寝ててもいいですよ。夕飯作っていませんし」
「や、流石にもう。夜寝れなくなっちゃう」
表情の見え辛い暗くなった部屋で、少しだけいつもより多く声に含まれた息がその表情を伝える。自分の隣に立った人と、二人でまだ完全に夜になりきる前の雨空を見上げた。
特に言葉を交わすことはなく、ただ夜に変わる瞬間を探すように外を見ている。ふと、その肩に何もかかっていないことに気がついて椅子にかけてあった上着をかければ、また息がたっぷり混ざったありがとうが返ってきた。
「冷えますよね、あったかいものでも入れましょうか」
「いいですね、でももうちょっとだけ見てから……それにもう、息、白くないので平気です」
そう言われて吐いた息に色がつかないことがいつの間にか季節の変化を告げていたことに気がつく。緩やかに、それでも確かに冬は春へと向かって変わりはじめていた。
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