第4話 舞い降りる天使(4)

「敵部隊は撒けたか。」


 レベッカ・ラッツは自身に新しく配備された機体、ラグエルのコックピットで周囲の様子を確認していた。


 この機体もエンゲロス同様支援AIズーヘンが開発したもので性能としては帝国軍主力機のガイアを遥かに上回る性能であった。


「味方生存部隊はゼロか。これはかなり不味いな。」


 中々に衝撃的な数字だと思う。自分達を除いて今朝話していた同僚や司令官も全滅、いや殲滅されたという状態である。


 彼女も仲間意識はそこそこある方ではあったので気落ちしないと言えば嘘になる状態であった。

 ただそれ以上に新兵に近いレオの状態のが心配ではあった。後輩がいるだけで彼女自身まだ気丈に立ち振る舞うことができた。


「ミュラー少尉、大丈夫か?」

『はい。問題ありません。』


 レオの声が少し涙交じりではあるものの、しっかりと回答をしていた。これなら上出来かと思いながらも今度はイレスコ基地への連絡を入れる。


「イルキア基地所属、レベッカ・ラッツ中尉です。イルキア基地の壊滅に伴いレオ・ミュラー少尉の機体とともに着陸及び補給をしていただきたいです。」

『イルキア基地の生存者か?』

「はい。」


 まだデータベースに登録していない新型機に搭乗しているため、まず味方かの確認が取られる。

 そのため彼女はすぐに自分のIDとレオのIDをイレスコ基地の管制に送る。


『IDの照合が完了した。B滑走路に着陸せよ。』

「了解です。」


 レベッカは通信を切るとため息をついた。

 そして次に彼女はどうレオのケアをしていくべきかと、とても配属されて数年しか経っていないと思えない仕事を考えるのであった。



「すみません。通してもらってもいいですか?」


 マーヤ・シュタイナーはイレスコ基地のB滑走路に着陸した機体のもとに駆け寄っていた。

 イルキア基地壊滅で生存者が2名だけという知らせはイレスコ基地全域に広まっていた。

 そして彼女はもしかしたらレオが無事なんじゃないかという淡い期待を持っていた。それがあまりにも可能性が低いものだと彼女はわかっていたが、確認しようとする思いは止められなかった。


 すみません、すみませんと謝りながらも機体の前へと進もうとするも人でごった返しててあまり進めなかった。ただそれでもパイロットの姿は確認できる。


 まず目についたのが立っているパイロットだが、そちらはスーツ姿が女性なので明らかに違った。なのでもう一人、座り込んでいるパイロットを見る。

 帝国ではパイロットスーツでも階級が分かるようになっており、少尉となっていた。


「もしかして……。」


 女性パイロットがヘルメットを脱ぐ。その美貌は遠目からでも分かるほどで、もし彼女が男性であればレベッカの方に目が行っていただろう。


 ただ今のマーヤにとって気になるのは少尉の方であった。

 イルキア基地に少尉は何人もいる。一方で逃げてくることができたのはこの二人だけ。確率でいうならレオではない確率のが高かった。


 そうやって待っていると少尉の方もヘルメットを外す。そして彼の風貌を見ると彼女と同じように黒い髪を短く切った青年であった。


「レオ!」


 そう叫ぶものの彼女の声は離れていたため彼の耳には届かない。そして彼はレベッカの方に歩こうとするが、急に電池が切れたかのように片膝をついてうずくまった。


 マーヤはそんな彼を見て、人混みの間をうまくすり抜けると彼の傍へ移動する。


「大丈夫? ミュラー少尉。」


 レベッカはレオに対して状態の確認をしながらも立たせようと彼に肩を貸して立たせようとする。しかしまだ足に力が入っていないのか中々苦戦していた。


「手伝います。」


 マーヤはレオの反対側に立つとレベッカにそう伝える。


「マーヤ……。」

「久しぶりね、レオ。」


 そう答えるとレオは力尽きたかのように目を閉じる。


「二人は知り合い?」

「はい。幼年学校、士官学校の両方で同期でした。」

「そうなの。」


 レベッカの声が少し安堵したものになったことに彼女は気づく。


「イルキア基地でなにがあったのですか?」

「敵艦隊に叩かれたわ。元々敵に目をつけられていたのか一回目はデヴァイン・アームによる部隊で基地にあった機体の大半が叩かれたの。それだけでも結構不味いんだけど、敵はもう一回、しかも艦隊で攻撃してきて基地の防衛設備や司令室は全滅。助かったのは私達二人だけ。後は全員逃げ切れずに敵に撃墜されたりして死んでいったわ。」


 言葉で聞くぶんには凄惨なものでは無いが、実際にはかなりのものだということをマーヤは感じる。


「だとしたらレオは大分強くなったんですね。」

「どうして?」

「昔はかなり弱かったので。敵から攻撃されたら真っ先に撃墜されるくらいに。」

「そうなんだ。全く知らなかったわ。」

「まだ彼と組んで日が浅いんですか?」


 少し驚いたような声を出すレベッカにマーヤはそう聞く。


「今日というか6時間くらい前に組んだばかりだからね。まだミュラー少尉のあまりよく分かってないわ。」

「そうなんですね。」


 レベッカの言葉にマーヤは次になにを話したらいいかなと考える。ただ次の話を出す前にイレスコ基地の司令部に着いていた。


「レオ、起きて。着いたわよ。」

「もう少し寝かせて。」

「少尉!」

「はい!」


 レベッカが大声を出すと彼はすぐさま目を開けて直立する。


「起きた、レオ?」

「あれ? マーヤ? なんでいるの?」


 その言葉にマーヤは笑いながらも苛立っている雰囲気を出す。それに彼は彼女にかけていた腕を外した。


「まぁ、また後でいいわ。話す時間ならいくらでもあるでしょうし。」


 レオは頷くといつものようにじゃあまたと片手を上げて基地司令塔の中に入っていた。そんな二人をマーヤは姿が見えなくなるまで見送った。

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