魔術師のロボット~技術革新によって世界で数人しか使えないロボットのパイロットになった俺は成り上がりを決意する~
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第一章 舞い降りた天使
第1話 舞い降りる天使(1)
「次、ミュラー訓練兵!」
「はい!」
八月、カンカン照りの外の中、レオ・ミュラーはシミュレータの中に入る。
電球が無い箱の中では代わりにパーテーションのように大きいモニターが光っている。
その明かりを頼りに、彼は中心部にあるマッサージチェアのような椅子に座る。
圧力素子が彼が座ったことを確認すると、モニターには『Ready』という文字が表示される。
『よし、ミュラー訓練兵、これよりシミュレーションを開始する。始め!』
スピーカーから教官の言葉が聞こえるとともに『Start』と表示され一気に砂漠のような風景が広がった。
その中心にポツンと彼がこれからシミュレータ上で操る人型二足歩行兵器、デヴァイン・アームが立っていた。
「砂漠ステージか。」
遮蔽物があまりなく、戦いにくそうだなと思いながら彼は足元にあるペダルを踏みこむ。
その瞬間、彼の体に加速によって生じるGを再現するような力がかかる。その力はとても強く、一瞬でも気を抜けば意識を失いそうになるものであった。
それでも彼はペダルを踏み続けていた。例え敵が現れても一発目は回避できるようにという考えで動かす。
これがこのシミュレーションの常識であった
しかし、そんな彼の前に急にシミュレーション上の敵機が出現する。
「え? 嘘! ちょ! まっ!」
そしてそんな展開を予想していなかった彼は、敵を回避できず、激突した。
*
「アハハハハハ!」
士官学校の食堂でレオの同期であるマーヤ・クラウゼは大笑いしていた。彼女とは今いるベルム帝国幼年学校時代からの同期であり、二人とも年齢は18だった。
「そんなに笑うなよ、マーヤ。」
「だって、だって。」
マーヤは笑いすぎたあまり苦しそうに次の言葉を選ぼうとするも再び笑い出す。
レオは不機嫌そうに彼女を睨むが彼女は長い黒髪を揺らしながら大笑いするのを辞めなかった。
「あんなの不幸な事故だろ。シミュレーションを開始して数秒後に機体が生成されるのは分かる。だけどその場所があんな機体の真正面とか普通思わないだろ。」
彼はシミュレータへの不満を吐き出すが、彼女はまだ笑っていた。
「というか移動している機体の十メートル先に生成するとかもはやバグだろ! その挙句激突して大破。判定は衝突したから撃墜数ゼロ! しかもその上戦闘時間もゼロ秒! 挙句機体の操作もほぼゼロ! ゼロ尽くしで教官から怒鳴られるわ、周りの奴らは笑うわで!」
「本当にレオってこういうところだけは持っているわよね。」
彼女は笑いすぎて目尻に浮いた涙を指で拭き取る。
「いい加減笑うの辞めてくれ。というかもう今から配属が嫌なんだが……。今日のシミュレーションとかもろに影響するだろうし。」
「でしょうね。一応これが卒業試験も兼ねているからね。」
彼女の言葉にレオは頭を抱える。彼の目の前にある食事はさっきから一口も進んではいなかった。
「ねぇ、レオ。そろそろご飯食べないと間に合わないわよ?」
彼女のその言葉にレオは顔を上げると食堂の時計を見た。
「もうこんな時間か。」
彼はそれだけ言うと急いで目の前にあった食事を掻き込む。その様子はまるで急いでどんぐりを食べるリスのようであった。それを見てマーヤは再び笑ってしまった。
*
「クラウゼ訓練兵、イレスコ基地配属!」
「はい!」
最終訓練から一週間後、士官学校では全員の配属先が発表されていた。
「次、ミュラー訓練兵。イルキア基地配属!」
「はい!」
隣の席に座っているレオ・ミュラーが彼女の次に配属先を発表される。
その配属先は彼女にとっても予想できていたものの、あまりよくないものであった。
「ありがとうございます。」
実際、レオもその配属先を聞いて落ち込んでいるのが雰囲気からなんとなく察する。しかし彼はしっかりと返事をしていた。
続けざまに全員の配属先が発表されると休憩時間に入る。
その瞬間、レオは座っていたパイプ椅子の上で大きくため息をついた。
「大丈夫? レオ?」
かなり落ち込んでいることは雰囲気から分かっていたのでマーヤは不安そうにレオに話かける。
以前はあれだけ笑っていても特に落ち込んだ様子は無かったのに、今日はかなり肩をガックリと落としていた。
「まぁなんとか。最悪軍を辞めれば……。」
「そんなこと言わないで、もう少しだけ頑張らない?」
彼の肩に手を置いて慰める。
「流石にそんなすぐには辞めないよ。」
「そう? それならいいけど……。」
ただ彼の声にはいつものような元気さは無かった。
「そういえばそっちはマックスと同じ配属先だったか。良かったじゃないか。」
「ありがとう。そっちは……一人だものね。」
一応知り合いがいるあたりマシだと言える。ただ彼女も割と仲のいい同期とは離れ離れになってしまったのは残念であった。
「頑張れよ。俺も程々に頑張るから。」
「えぇ。」
それが士官学校での彼との最後の会話になった。
*
「ようやく、今日の仕事終わったぁ〜。」
レオ・ミュラーはそう言うと休憩室のパイプ椅子にドカッと座ると大きくため息をつく。
このとき士官学校卒業から一年の月日が経っていた。
イルキア基地に配属されたレオ・ミュラーはパイロットとしての素質が全く無かったため、前線に出ることはなかった。その代わり基地での哨戒任務を行っていた。
彼は椅子に座ると自分の携帯端末を開く。それはイルキア基地にいる兵士全員に配られたものでロックを解除すると男性型の支援型AIが画面に現れる。
《夜勤、お疲れ様でした。なにか御用ですか?》
支援AI――ズーヘン、検索者と名付けられたAIはその名の通りマニュアルなどを探すときにとても便利なものであった。
「まず今日の戦況教えて。」
《はい。エルウィン共和国との戦闘ですが、ベルム帝国のが戦況は有利です。》
「どこの基地が一番戦闘が激しかった?」
《現時点だとイレスコ基地に近いハレント基地です。また撃墜数で言うとマーヤ・クラウゼ中尉が10機を撃墜しました。》
「彼女は無事なのか?」
《はい。無事帰還しています。》
「そうか。それならいい。」
一瞬マーヤが激戦の最中で怪我とかをしていないか不安になる。ただズーヘンからの回答が思ったよりも大丈夫なものだったのでとりあえず安心する。
「あぁ、そうだ。それと今朝の食堂のメニュー教えて、というか選んで。」
《了解しました。今朝のおすすめのメニューは……。》
その瞬間ズーヘンの言葉が止まった。
「おい、ズーヘン、どうした? 壊れたのか?」
そうやって携帯端末を振ったりして壊れていないか確認をする。すると突如大音量のサイレンが部屋に鳴り響く。
『敵部隊が出現、パイロットは直ちに出撃の用意をしろ。』
「折角飯が食えると思ったのに敵襲か。」
またいつもの威力偵察かと彼は不機嫌そうに立ち上がると、自分の機体に向かった。
*
イルキア基地攻撃部隊に編入されていたシャレティ・アニクウェスは奇襲が成功したことに喜びよりも安心感があった。
「ファーストフェーズの敵通信施設と思われる施設の破壊に成功。次のフェーズに移行する。」
エルウィン共和国のエースパイロットでもある彼は自身専用機のデヴァイン・アームであるトゥール・ヴィヨンでイルキア基地への攻撃を上空でホバリングしながら実行する。
イルキア基地から迎撃のためデヴァイン・アームが出撃する。しかしそれを彼は次々と破壊していく。
『調子はどうだ、アニクウェス中尉。』
「予定通り進んでいます。ここまでいけば問題ないでしょう。」
『了解した。いくら弱小国のベルム帝国とはいえ、油断はするなよ。敵の新型機、性能が未知数なのたからな。大したことはないとは思うが。』
「了解です。」
まだ続々と出てくる敵機が地上からライフルで攻撃をしてくる。
「所詮は旧型機、こんな攻撃など。」
正面から攻撃を受けても彼の機体は何ひとつダメージを受けていなかった。
そして上空から見下ろすように悠々とターゲットを絞ると砲撃する。それによって一機、また一機と動きを止めた後に爆発する。
「こうも数が多いと……。」
ただ流石にその攻撃に飽きてきたため、なにかもっと効率良く撃破できないかと模索する。そのとき敵部隊が出てくる通路が目につく。
「あそこに地下通路があるということは……。」
ライフルの銃身下部に付いているグレネードランチャーを数発発砲する。一発一発が従来のものとは一線を画しており、燃料気化爆弾に匹敵する威力であった。
それはどれも敵機が展開していた滑走路に直撃する。大きな光が光ると地面が次々と崩れていく。
そこに何機もの敵機が巻き込まれて落下していく。
「よし。これで粗方片付いた。」
彼は満足気に言うと次の目標施設へと向かった。
*
「いっつ……。」
ベルム帝国の主力機のデヴァイン・アームであるガイアに乗っていたレオは、崩落した滑走路に巻き込まれていた。
「クソ、周囲はどうなって……。」
周囲を確認しようとするも既に機体のシステムが落ちていたため周りの状況は全く分からなかった。
「どうするべきか。」
彼はそう思いながらふと携帯端末を開く。
「どうすればいいと思う、ズーヘン。」
そういつも通りAIに頼ってしまう。
このとき彼は答えを期待していなかった。
ただズーヘンはそれに対して答える。
《一回外に出てこのルートに従って歩いてください。そうすればあなたは強大な力を手に入れるでしょう。》
「なんだと? それはどういう意味だ?」
一瞬だけ光っていた携帯端末の明かりが消える。
「クソ! 通信が途切れたか。」
しかし、携帯端末にはルートが表示されていた。
「仕方無い。この状況ではこれに従う以外無いか。」
コックピットハッチを開けると外に出る。
思わず鼻を覆ってしまう異臭に耐えながらも彼は地下通路を歩み進める。
これが全ての始まりであった。
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