魔法講義と捜し物-2

 授業が終わり、昼食をとるシーナ達三人。食堂でランチを注文しお盆を四人机へ運ぶ。マグとノリアが隣、シーナがマグの反対側という形で席につく。

 これから食べ始めるといったタイミングで、再び声がかかった。


「俺も同席していいか?」


 声の主はオニであるエルムだ。視線はやや下を向いており、表情にも強ばりがある。どことなく心境を察したのか、シーナは端に寄って席を空けた。


「ええ、いいわよ」

「それでは失礼」


 一人分空いた席にエルムは着席。それに対して眉を顰めるマグ。隣では文句の言葉が出なかったことに胸を撫で下ろすノリアの姿があった。


「三人は不殺の魔王の弟子と聞いた。どうか不殺の魔王、華の精について教えてはくれないか?」

「え?」


 突然の話題にシーナは素っ頓狂な声をあげる。なぜ魔王についてではなく『不殺の魔王』についての質問なのか。

 固まった表情を察してなのかエルムは言葉を続けた。


「……俺の父親はこの辺の貴族なんだが、ある時魔王に助けられた商人の話を聞いたらしいんだ。それで親父は華の精とやらに興味津々なんだよ」


 それからエルムは「まあ俺も不殺の魔王に興味津々なわけだが」と付け足す。

 合点したシーナは両手を叩き、顔色がぱっと明るくなる。


「それならシニカさんの素晴らしさをとくと説明してあげようじゃない。二時間くらいかかるけど良いわね?」

「に、二時間ッ!? それならまた後日、お願いしたいね……」


 ぱくぱくと皿の上を平らげると、エルムはそのままどこかへ行ってしまった。その間もマグの様子は当然のごとく不機嫌だったという。



 それから暫く談笑していると、ノリアはシーナへ話を切り出す。


「シーナさん、良く追い払えたね」

「ええ。三人でご飯を食べていたのに、急に話に割り込むなんて失礼よ!」


 憤慨するシーナにぽかんと口を開けるマグ。


「……え? どういうこと?」


 状況理解の追いついていないマグにノリアは説明する。


「お兄ちゃんいい? シーナさんはね、お兄ちゃんと一緒にご飯が食べたかったの! だからあの人を上手いこと追い払ったの! これで分かった? だから不機嫌そうにしないで」

「……おう」


 赤面しながら頷くマグ。そして赤面しながら顔を俯かせているシーナ。

 二人の様子に一瞬の笑みを浮かべるノリアだったが、すぐに溜め息へと変わった。



 それから午後の講義は滞りなく終わりを迎える。空は茜色に染まり、大烏が鳴き声をあげてそうな頃合だ。

 煉瓦れんがに反射した夕陽に目が眩む。マグが完全に油断したところで、ふとシーナは呟いた。


「ところでさマグ、それにノリアも」

「なんだ?」

「シノメ先生の故郷が滅んだって話、二人がスラムで生活していたことと何か関係があるの?」

「「ッ!?」」


 二人の目の色が変わる。

 シノメは明らかにマグとノリアを知っている様子で、マグはシノメを若干避けている。シーナから見て、二人の様子は一目瞭然だった。

 そしてシノメが打ち明けた『故郷』について。国が滅び、生き延びたのならばスラム街出身というのにも説明がつくのである。

 なによりシーナが不可解だったのは、スラム出身にしては学が十二分にあることだった。策を練るにしてもマグは要領に長けている。そのためシーナは幾度となくマグに助けられてきた。


 故にシーナは、マグの過去が気になるのである。

 家の前まで到着するとマグは立ち止まった。先を歩くシーナも足を止め、後ろを振り返る。

 深呼吸、そして口を大きく開いた。


「ああ、話すよ。帰ったら少し時間をもらえないか?」


 マグの返答にシーナは口角を持ち上げる。自分の胸に手を当ててふっと息を吐き出した。


「ええ、もちろん。マグ、貴方のことを教えて」


 笑顔でマグを見つめるシーナ。

 この時シーナはノリア曰く、今まで見た事もない穏やかな笑顔だったという。

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