第22話-隠したい幸運の正体

ヨゼが何故祈吏の言葉を信じ、彼女に託したのか。

それはただ祈吏の自信と度胸に感心したのではなく、ヨゼにとって『確認したい』事柄があったからだ。


「自分は、52でお願いします」


――カードが並べられ、参加者の中で最後に答えた祈吏の声に、場はしんと静まり返った。


「っぷ、わはははは! 52ィ!? 冗談言うな、オールKキングじゃねえとありえねえ数字だ!」

「嬢ちゃんにカード賭けごとはまだ早かったんじゃないか」


周りが囃し立てる中、唯一ヨゼとディーラー役は笑わない。


「ここでカード賭けをやっていて一度だけ見たことはあるが……こほん。それじゃあ、めくるぞ」


ディーラー役は揶揄する輩を横目に、順にカードをめくっていく。


1枚目、クラブのKキング

「ここまではビギナーズラックってとこだな」

2枚目、スペードのKキング

「おお、意外といい線言ってんじゃん」

3枚目、ダイヤのKキング

「……おいおい」


いつの間にか嘲笑は消え、辺りには固唾を呑む音と、じわじわと高揚感が這い寄り始める。

その中で祈吏だけは、今にも泣きだしそうな顔で最後のカードを見つめていた。


(お願いします――――!!当たってくださいぃ……!!)


「……ハートのKキングだ」


ディーラー役の言葉に酒場は湧き上がり、ビリビリと空気が震えるほどの喝采が飛び交う。


それを聞いた祈吏はほっと胸を撫でおろし、へなへなの笑みを浮かべた。


「よかったあーっ!!間違ってたらどうしようかと思いました!!」


祈吏は頬を上気させ、満面の笑みでガッツポーズをする。

内心、ドキドキしていたが勝てる、という根拠のない自信があった。

その自信が現実となった瞬間の高揚感は、何度味わっても足りないほど癖になる。


(た、たまらない……!)


誰もが祈吏を称えるなか、神妙な面持ちで凝視をしたのはヨゼひとり。

ヨゼの胸中にあったとある疑惑が、確信に変わった瞬間だった。


「祈吏くん、お手柄だね。これには僕も驚いたよ」

「あはは、ありがとうございます。昔から……えーと、運がちょっとばかし良い方で」

「君が自信満々で名乗り出た時はどうしたものかと思ったが、君にお願いして正解だった」

「いえいえ!でも、この回だけで終わるのちょっと物足りないですね。もういっかいします……?」


そんなやり取りをする2人の向こう側で、ジョンがどこか恥ずかし気に肘を付いた。


「ったく、こればっかりは完敗だよ……んで、何が聞きてーの? この際だから全部話してやるよ」

「ご協力感謝します。では、手始めに――」

「あ、ヨゼさん待ってください!」


祈吏が声を上げ、ヨゼの外套を制止するように掴んだ。


「自分から、聞きたいことがあるんです。ここではそれだけ聞きましょう」

「なるほど?ふふ。それではこの場は勝者の祈吏くんに任せようか」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、すみません。 フーゴさんについて、教えていただきたいことですが――……」


………………


熱気がこもる酒場の扉を開き、2人は鍋とバスケットを抱えて夜の街へと出る。

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