第14話-宇宙と魂の境界
「え、あ。はい」
祈吏はヨゼに導かれるまま、一緒に丸いベッドに入り――2人並んで仰向けに寝転び、丸い天井を見上げた。
(何故自分はここでパジャマを着て、初対面の男の娘(?)と同じベッドで眠る状況にいるんだろう)
謎過ぎる。何も理解できていない。
(思えば競馬場でパンクな男の子に会ってから今まで、怒涛の展開だったな。これから何が起きるのか……)
「祈吏くん、どうだね!ここまでとんでもなく胡散臭いだろう!」
「え!?えっと、いやあ、そんなことは決してない、ですよ!」
「ふふ……気を遣わなくて大丈夫だよ」
サングラス越しではない、ヨゼの長いまつ毛が祈吏の方へ向く。
カウンセリング中の堂々とした態度や振る舞いからは男性らしさを感じていたが、今のふわふわのお人形さんのような姿だと、どう見ても儚い少女のようで。
のんきに欠伸をするさまも愛らしく、張り詰めていた祈吏の緊張は解される。
「ヨゼさん……これから何が起きるんですか」
「福田さんは今、ちょうど真下の階で眠ってるんだ」
「その福田さんの、前世の魂の記憶に入る。夢を介してね」
「え……ええ?そんなこと、できるんですか」
今までの非科学的な話の流れから月並みな反応しか出てこなかった。
けれどヨゼの話は嘘ではないと、ここにきてようやく薄々感じていた直感が明確になる。
でなければ、祈吏は寝巻きに着替えて今この場にいないだろう。
さっき、前世の魂の話をしただろう。前世の未練を解放し、そして今世の魂と融解させる。それが吾輩のも……仕事だ」
その時、ふわりと心地のよい香りが漂った。
(あ……マテオさんがアロマを焚いてくれてる。いい匂いだなあ……)
柑橘系の、心が穏やかになる香りが室内を包み、部屋はだんだんと暗くなる。
そして天井には星々が瞬きはじめ、丸いベッドは反時計周りに回転し始めた。
それと同時に、祈吏の手をヨゼがきゅっと握った。
「夢を介して辿る他者の前世を『夢前世』と呼んでいる」
「けれど、祈吏くん。夢だからと言って決して死んではいけないよ」
ヨゼが祈吏に微笑み、瞼を上げる。
瞼の向こうから覗いたのは虹色の瞳。その虹彩に吸い込まれるかように――祈吏の視界は真っ暗になった。
…………
――次に気が付いた時には、身体は無重力に包まれていた。
(……ここは、どこだろう)
浮遊感があり、目をそおっと開ける。
そこは、大宇宙だった。
彼方まで広がる暗黒の世界。
瞬く星々は遠く、音は聴こえない。
上も下も分からない空間。
その中でも一際目立っているのは、祈吏の100mほど先に光る巨大な環。
(な、なにあれ……!? え、なんだか勝手に身体が吸い寄せられてる!?)
宇宙なのに引力がある。その環にどんどん吸い寄せられる。
(これ、もしかして夢……?だとしても、あの大きい輪っかなに!?)
「祈吏くん」
「あ……ヨゼさん!」
手を繋がれる感触に、振り返るとヨゼがいた。
服装はパジャマになる前の白衣だ。その様子から察するに、ここは既に夢の中なんだろう。
「あ、あの!もう夢の中なんですか!?だけどどうして、自分の夢にヨゼさんが……?」
「説明はあとだ。さあ、福田さんの夢前世へ行こう」
「あ……はい!」
祈吏はヨゼに手を引かれ、環の中へ吸い込まれて行き、閃光に包まれる。
(眩しい……!)
だんだんと光が和らいでいき、多くの人の気配が辺りに広がり始める。
古ぼけた布の香りと爽やかな空気を感じ、目を開くと――大きな歓声の中心にいた。
「国王陛下、万歳!国王陛下、万歳!」
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