第十四話 記憶

「でも、この世界って妙だよね」


 ユキヤがそう呟く。ユキヤは椅子に座っていて、俺は机に座っている。


 俺の姿を担任の先生が見たら、真っ先に説教されそうだが、俺とユキヤ以外に人の気配はない。


「だよなぁ。チョコがない世界だなんて、おかしいだろ」


 俺はそう投げやりに呟いた。


「あ、あとこの世界の謎だよね。異世界なのかな、ここは」


 ユキヤが顎に手を当てて考える。

しかし、異世界という割にはこの世界は、現実の世界とあまりにも似過ぎている気がする。


「うーん、異世界っていうのはもうちょっとこう……エルフとか、ドワーフとかがいてさ、ドラゴンとかが闊歩してる世界なんじゃないのか?」


 俺はユキヤに言う。俺のイメージする異世界というのは、今言ったようなイメージが大きい。


「まぁ確かにね。アニメとか漫画とかで目にする異世界のイメージも、あんたが今言ったイメージが強いけど……」


 ユキヤがそう言った。


「なるほど。ユキヤも異世界のイメージは大体俺と似たような感じなんだな」


 俺も頷いて、ユキヤに言う。


「ここは、異世界って感じがしないし、この世界に名前をつけるなら––––並行世界パラレルワールドってところかな」


 ユキヤが淡々とそう言う。

並行世界か……。俺もこの世界に来た最初の頃はそんなこと考えてたな。


「あぁ、確かに、チョコがなくてあんこのお菓子だけがある世界って、なんとなく並行世界っぽいもんな。特定の物だけがない感じ」


 俺は少し考えながら呟く。


「限りなく現実世界に近いのに、どこかがおかしい……っていう展開は、漫画とかでもよくある展開だよね。ホラー漫画とか、映画とかでよく目にするし」


 ユキヤがそう言った。こいつも、ホラー漫画とか映画とか観るんだな。あんまり興味なさそうなのに。


「そういえば、僕一個引っかかることがあるんだけど……」


 ユキヤが言う。

引っかかる事? なんだろう。


「引っかかることってなんだ? 何か重要なことかもしれないし、試しに話してみろよ」


 俺は試しに聞いてみた。何か有益な情報が掴めるかもしれない。


「あのね、僕はこの世界に来る前の記憶があるんだ」


 ユキヤがそう言った。


 今……なんて言った……?


……?


 そんな有益な情報を今まで黙っていたのかと、俺は驚きが隠せなかった。


「今、この世界に来る前の記憶があるって言ったか⁉︎」


 俺は確認のため、もう一度ユキヤに聞き返した。


「うん、そう言ったよ」


 ユキヤはさらりと俺に言う。


「なんでそんな重要なことを今まで黙ってたんだよ!」


 俺がそうユキヤに叫ぶと、ユキヤは


「え、だって今日がこの世界についての理解を深めたり、情報共有する日でしょ?

今までこのことを言うタイミング逃してたし、せっかくだから今言おうかなって

思ったんだ」


 と、驚いた表情で言った。


 ……本当に、こいつはなんなんだ。全く掴みどころのない奴だ。

俺はため息をつきながら、今後のことを考えた。







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