腕で隠す机の傷

(アックマ)

第1話 はじまり

キーンコーンカーンコーン

キーンコーンカーンコーン...


授業おわりの鐘が鳴り

廊下を歩く音、走る音が聞こえて来る。


最前列の窓際の席に座っていた少年は机を背にしてその音の正体に、今までの出来事から何をされるのか知っていたが、少年は震えながらも立ち塞がる。


ドアがガラッと強く開くと、

4人の目つきの悪い少年が入って来る。


「コウキ〜今日こそは机見せろよ!」

「何隠してんだよ!」


「ダメだって言ったろ!来るなよ!」

コウキと呼ばれた少年が出す、必死の制止の声なんて聞かずに目つきの悪い少年達は手を伸ばして来る。


「うるさいぞー」

そんな風に周りから無関心に言われる

明らかに悪人側の少年達は周りの静かな視線を感じて、机に伸びていた手が止まる。


目つきの悪い少年たちはバツが悪そうに頭を掻く、その中一人の少年が

他の目つきの悪い少年たちに指示を出す。


「黙ってろよ、お前ら抑えとけ。」


コウキは2人の少年に

体を押さえつけられ。


「放せ!触んなよ!」

暴れて抵抗しても椅子を倒すだけ、コウキの細い身体では数人に体を抑えられびくともしない。


少年たちは机に手を伸ばし、

中を見ると入ってた物を取り出し、

目ぼしいものがないと適当に捨てた。


「...なんか普通だな〜」

「つまんね〜のなんで隠したんだよ!」

少年たちは逆上して責めてくるが。


「何だコレ、傷?」

1人、机にガラスのヒビのような

傷が机にあることに気づいて

触れようと手を伸ばす。


「ッ触んな!」

掴まれて動けないようにされてたが逆上したはずみに腕が緩んだ時、腕に爪を立てて振り払う。

「イッテェ!」

「オイ、何逃してんだよ」


「どけ!」

机から少し離れた距離コウキは全力で走って

傷を触ろうとした少年にその勢いのまま

打つかる。


ドン.....ガッシャ!パンッ!!

押された少年は背中から窓際の壁にぶつかり頭が窓の枠に当たると共に異質な音が鳴った。


コウキだけは直感で分かった。


(あ やりすぎた...)


「オイ!大丈夫かよコウキに押されて倒れてんじゃん、ダセーの」

ヘラヘラしながらリーダーが

押された子をバカにする。


その頭からツーっと赤い液体が垂れる、

少年はピクリともしない。

「..ハハハ、え?お前血が!」

ヘラヘラしていた顔が

さっきまでイキイキしていた顔が

一気に青白くなっていく。


「キャーー!」

一人が悲鳴をあげて、同様の波が広がる。

「何してんだよー怪我人出てんじゃん」

「オイコウキ!テメーの所為だぞ!」

「先生ー!あの子達が!」


懐かしい、みんなの声が聞こえる、


そうあの時、

こんなことに気づきさえしなければもっと良い・・だったのかな。


「ーーって事で、授業を終わります。

起立、気をつけ、礼、」

「「ありがとうございました」」


鐘の音が鳴り終わる前にいつも通りの友達に顔を向ける。友達も同時に振り返り目が合う。


友達は椅子を押し除けてきて机を囲む、

皆んなが遊びにさそって来る。


「遊びいこーぜコウキ」

ツンツン頭の強気な少年

カツキがサッカーボールを手に持って言う。


「あそぼ、コウキくん」

クラス一人気の瞬足少女

マドナは手にバトンを持って来る。


「コウキこの本面白いぞ」

頭の良いメガネ少年

デタオは手に「本の虫」と言う分厚い本を持ち勧めて来る。


「オイオイ流石に俺でも、

一度に一気は無理だよ。」

俺はコウキ

勉強も運動もそこそこできるか普通な中学生


で悩みも普通でいつも通りの規制だらけの勉強や体育、学校生活に飽きている。


でもいつも通り皆んなが居てさえくれれば、

何も怖くない、何も辛くない。


「みんな!それじゃ、コウキが疲れちゃうよ。」


隣りの席の女子が立ち上がる。


赤ん坊の時から家が隣りで幼馴染の女子

サラ、短い茶髪で見た目通り

正義感が強くていじめを見つけたら何でも突っ込んでいっちゃう、だからいつも皆んなで止めに入る、

絶対手を出したりはしない、させない、

優しい俺の大親友。


「サラ...大丈夫だよ!全員で全部やるぞ!」


中学2年生の夏

校庭のコートでサッカーをしている。

「デタオくんパス!」

「うわ取れねえ!頼んだコウキ!」


マドナの瞬足でボールを前まで運び、

デタオにパスをするが、ゴール前のボールに触れられず、デタオスルー。


「よし来た」


そこに走り込みシュートフォームに入る

コウキ。


「こーーい!」

「シュート!」


バシンッ

「弾いたぜ!」

「うわ〜ごめん」

ボールは、ゴールの右上に向かったが、

カツキの手が弾きコロコロとゴールの前に転がる。


そこを狙っていたサラがボールを蹴る。

「おりゃ〜」


ボールはゴールの左上にパスッと入る。



「...うわーやられた」

カツキはわざとらしく、仰向けに倒れ土だらけの体をまた土で汚す。


「やったー!」


「サラよくこれたな」

「デタオが言ってたんだよ、真ん中に来いって。」


「フッ計算通り」

サラに集まって居た皆んなが

サラとデタオを取り囲む、

デタオに肩を組んだりして褒めまくる。


初めはデタオも鼻を伸ばしてのけぞって居たが、流石に恥ずかしそうに顔を赤らめて居た。


「よーし次はリレーで勝負だ!」

いつのまにか立ち上がって居たカツキが、

懲りずにまた勝負を挑む。


「コウキ、チームはそれで良いの?」


校庭を一周する様に白線で描かれたトラック。

みんなは準備体操をして居た。


「大丈夫だよ、まあマドナを取られたのはかなり痛いけど...サラは走らないのか?」

「私はさっきので疲れちゃったし、」

そこに、変顔をしながら近寄って来る、

カツキ。

「何だよ〜言い訳か?」

カチンとして睨む、その視線に睨み返す、

2人の間には火花が散っていた、

「フン!負けるか!」

「絶対勝つ!カツキなだけに。」

呆れ顔のサラを挟みながら。


スターターが反対側のトラックまで行き、

アンカーが反対のラインで待つ。

ひとりゴールラインに立ち笛を咥える、サラ。


「...いくよーよーい」

ピーー!

笛の音が響き、2人は走り始める。

スタートダッシュで離れた距離が、またグングン引き離されていくデタオ。

「デタオ!頑張れー!」

「いけー!デタオを引き離せ!」


「デタオくんもマドナちゃんも頑張ってー」

応援も聞こえて居たが、

クラスでも1番早い瞬足のマドナに運動はそこまでできない、デタオ。

デタオが走ると、マドナはその倍は走っていた。

それでもデタオは歯を食いしばり、

全力でついていく。


半分まで到達した時

デタオは、体を前後にガックンガックンさせながらも走っていた。


一方マドナは、息を強く吸う吐くを繰り返す、

全身を連動させて、顔は前を向き

中学生のその体を震わせ美しいフォームで走る、ゴールラインまで走り切り、

カツキにバトンを渡している時だった。

「コレはさすがに貰ったぞ!」

バトンを受け取りカツキは走り出す。


「デタオ!この後図書室行くから走れ!」


その一声でデタオは覚醒した。


メガネが光ったかと思うと、

機械のような動きだが、マドナにも負けない走りを見せた。


ゴールラインに入った時

「ごめ」

「頑張ったデタオ。」

その瞬間、聞こえるか分からない位の時間2人は話しあった。


コウキとカツキが走る、

距離は半分までは行かなくとも、

もうかなり離されていた。


それでもコウキは走る。

少し余裕そうにしていたカツキに少しずつ追いついて行った。



「追いついたぞ!」

突然の一言を聞き急いで後ろを向く。

「そんなわけ...いないぞ」

最後の直線前だった、

後ろを振り向くと、

コウキは後ろには居ない、

でも決定的な減速、コウキはカツキの真横にいた。

「かかったな」

「おま!」

カツキもすぐに前を向き、走り出す。


ゴールラインまでの直線、2人は肩を打つける位の接戦だった。


デタオは項垂れていたが、

全員がその瞬間を見逃さないように、見ていた。


ダダン

最後の足が地面を叩く。


「「どっちが勝った!?」」

息を整えもせずサラに2人が迫る。

少し迷ったようにしたが、サラが指さす。

「マドナちゃんカツキチーム!」


「おっしゃー!」

「負けたー!」


「よかった〜」

「本...本...」


全員がチームメイトと、

喜びや悲しみを表していた。


本を求めてる1人を除いて。


「悔しいけど、次々!行くぞ!」

「漫画読もうぜ!」


「疲れちゃったよサラちゃん。」

「まあ私は走ってないから疲れてないからね」

「本...本..本」

元気そうで楽しそうなグループが校庭から、学校に戻って行く。

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