第94話 2代目『メモ係』✿と図書館
いくぞぉ~! おお! きゃははは!
リンデンの決意が虚しくなるほど、天真爛漫に昇格試験という祭りの始まりを楽しみだした彼女達が「いつもの通り」と聞いて向かった先は……。
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『みんな大好き、ギルド図書館!』
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「たのもー! ミルちゃん。今日は南にある『砂漠』? に試験で行かないとだから、その辺の情報ちょーだい!」
エヴァ達は、新人時代からの日課でもある「先に調べる」のため、図書館に入り、司書のウサギの獣人ミルちゃんに関係書籍のオーダーを入れる。
「ぴょ! エヴァちゃん達試験に向かわないでいいの?」
今日が昇格試験と聞いていたミルはびっくりしてエヴァに聞く。
「んとね。「砂漠でサソリやっつけろ、解散!」ってだけ言われたから、調べに来たの。」
「場所も名前も知らない、何とかっていう砂漠?」
「今日中に『砂漠』に設置される納品場所にサソリの尻尾? を納品すればいいので、何も知らないで急いで行って失敗するより、先に調べた方が効率がいいですわ。」
エヴァとフリージアの言葉には『?』となっていたミルも、マーガレットの言葉に納得をしたようだ。
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「成る程ぴょ。今日中に着く……なら、『この国』のラセール砂漠でいいぴょね? ん? あれ、そっちは確か?」
影薄く……というよりは、まさかエヴァ達が図書館で調べて出発するとは思ってもみなかったリンデンの呆けた顔を、ミルが見つける。
◇
「こちらは、リンデンさん。わたくしたちのチームのリーダーですわ。(多分)」
「そう! とっても物知りのリーダー! (多分)」
「役に立つときはすごく頼りになる! (多分)」
「そのボソッと言っている多分……多分って! みなさん酷いですよお~!」
神妙な顔から、呆けた顔になり、最後はぷんぷんしているリンデンの表情を見て、ミルは吹き出してしまう。
「ぷっ! あははは―――。リンデン君、エヴァちゃん達と組んだんだね。驚いたぴょ。でも、いい組み合わせかもぴょん。でも、君がいるなら「砂漠のことなんて調べなくても」いいんじゃないぴょん?」
「え、いえ。皆さんに着いてきたらここに来て驚いてしまっていて、『場所が分かる』と言い出せませんでした。」
「はぁ? 知ってるなら言え! しかもミルと知り合い!?」
背の低いフリージアが眉毛をㇵの字にしてリンデンを見上げる。
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「いえ、それでも、知っているのは砂漠がここから『南の町アサールム』の奥にあるということ、確か王都から定期便の馬車が出ていること、そして『ダンジョン』があるということくらいですので、調べるのは『あり』かと思います。」
「え? ダンジョンがあるの?」
エヴァが少しびっくりした顔でリンデンを見る。
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「あ、あるのです。あるのですよ。通称『アリ穴』と呼ばれるダンジョンが。」
そのやり取りを見ていたミルが「ふむ」と閉架書庫に入って行き、5分ほどして1冊の本を持って帰ってくる。
◇
「ぴょい。これがいいかもね。」
差し出す本の名は……。
「ラセール砂漠の歩き方?」
「初心者旅行のガイドブックみたいな本ですわねぇ?」
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「あ、いえ。まだ初心者に近いE級からの試験ですし、今回は砂漠での試験です。逆に概要を分かり易く書いているこの本は、僕達には正解かもです。」
「やっぱりっそうぴょね。場所も知らないし、砂漠ならこれが一番ぴょん。」
「流石ですね。」
「エヴァちゃん達もリンデン君も、図書館のお得意様だから何となくね。」
「リンデンがミルちゃんと知り合いだったのは驚いたけど、物知りだから納得! と、いうことで~、リンデンに『これ』を託すのです!」
そういうと、エヴァが今まで『メモをしていたノート』をリンデンに渡す。
「これは、確か?」
(第2階層の異変で大量モンスターに囲まれながらも、気が付いていたことをメモしていたエヴァさんのあのノート?)と、思いながらそれを受け取る。
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「いひひ。私は馬鹿だから、思ったこと気が付いたことしか書けないんだよねー。でも、リンデンだったら完璧じゃない? 頼んだよ『2代目メモ係』! それに、リンデン『あんまり戦えない』し! 」
「あはは……。」
最後の言葉は余計ですよ……と、思いながらリンデンはノートを受け取る。
◇
彼はノートに書かれている内容を見て驚く。
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3人娘のこと細かな癖や、パターン(と、リンデンのこと少々)。
今まで調べたクエストに関する情報、モンスターの概要と弱点。
出発前に確認した所持アイテムなんて、途中からご丁寧に表となっている。
「凄いですね……。」
成る程、彼女たちが『1000本ノック』を『運』だけで乗り越えたのではないことが良くわかる。
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そして、倒した敵の情報やDROP品等のメモがないところが彼女らしい。
ここまでの成績や実績はあまり興味がないのだろうし、ノートの纏まりがなくなる情報だろうと考えて書いていないことで良く分かる。
(以前言っていた、フィオレさんから引き継いだ助言。メモを取り、気が付いたことを伝え合う。その思いがしっかりと生きていますね。分かり易いし、情報が見つけ易い。僕ならこのノートに、これをこうして、こう工夫して……ぶつぶつ。)
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エヴァの考えは単純にリンデンが『戦うより見て気が付くタイプ』であると知っていたし、フリージアから ”そこが異常、凄い” と聞いていたからに過ぎない。
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だが、彼がこの役割を引き継ぐことで、彼女達の冒険の幅はぐーんと広がることとなる。
リンデンを交えた、図書館に併設されたカフェでの調べものとディスカッションは、今までにない盛り上がりを見せ、そして時間を掛けることなくまとまって行く。
それは、リンデンという「情報を扱う天才」を交えた4人目の『文殊の知恵』が当然にも大きいのであるが、図書館司書であるミルの選んだ「本のチョイス」が秀逸であったことが最も大きく、ノートにメモを纏めるリンデンは流石だなと舌を巻いた。
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他の試験参加者が砂漠に向かったであろうタイミングから凡そ1時間の後。
ここで調べた限りでは、砂漠まで馬車で3時間~4時間の旅路である。
「そろそろ向かわないと、砂漠での戦う時間が心もとなくなりますよね。馬車も乗り合いなので、1時間程は待つでしょうし。」
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「え? 世界樹以外の移動なら、うちの執事『マーカス』が、指示さえすれば馬車で連れて行ってくれますわよ?」
「ふぇ? え、それで皆さん、こんなにゆっくりとお茶を飲んでいたのですか!?」
時間を気にしながら、ディスカッションを進めていたリンデンである。
それを聞いて、彼女達の何時もの自由と、3人が知っていることを自分に報連相してくれないスタイルに、彼は漫画のようにガックっと腰を落とす。
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