第93話 試験の開始✿と『こちら側』

――SIDE:リンデン


 流石に……あまり寝れなかった。

 以前、マーガレットさんからそれとなく聞いていたのだけれど、『マルガリーテス家』に連れていかれるなんて思ってもみなかったですもの。


― ☘

 僕が、『賢者リウム・ランスフォーム』を叔父に持つと聞いてからの、『スパティ・フィラム・マルガリーテス』様……マーガレットさんのお母様のあの豹変ぶりは、本当に寒気を感じました。


 叔父さんへの嫌悪感……?

 あの座った目の奥から来る、得体の知れない怖さが、今でも忘れられません。


― ☘

 とはいえ、謎となっている叔父さんの今いる場所を知っている―――と、いうよりは、あの言い方から察するに、かくまっているのは『マルガリーテス家』なのでしょうか?


 結局、最後は叔父さんの叡智を褒めながら、『あなたも、リウムのようになりなさい』ですからね……。


 スパティ様と叔父さんとの、『不思議な関係性』を目の当たりにした感じです。



 しかし、本当に美しいガーデンに、高貴な宝石のようなに凛としたお姿で、幸せそうに、丁寧に水やりをしているスパティ様に、最初は目を奪われてしまった僕でしたが……。

― ☘

 サーシャさんが『ギルド長』からの書簡について話した途端に、彼女が見せたあの空気の揺れ、認識が阻害されているようなあの感じ―——。


 あれは、一体何だったのでしょうか。


 ◇

― ☘

 それは、それとして……そこで聞かされた話……。

 『こちら側』として聞いたお話を整理すると、客観的に考えてもセビオさんが『第2階層事件あの事件』の真相に関わっているのは間違いなさそうですね。


 そして、今日の試験も恐らく―――。


―――前回のように、悲しい事態にはさせませんよ。

  『こちら側』として、絶対に僕が阻止して見せます。



 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿


― ☘

 『迷宮』ギルドのロビーは、昇格試験の説明会場となっている。

 本日、E級からD級への昇格試験を受験するのは、申請のあった38人全員である。

 

 次々と集まってくるE級迷宮探索家フローター達。

 エヴァ達も、サーシャの近くに陣取り目をランランさせている。


 少し遅れてリンデンは会場に到着し、エヴァ達に合流をする。

 そして、目でサーシャに挨拶をして、今日の……いや、『こちら側』としての決意を報告をする。


(少し酷な配役を与えてしまって、ごめんなさい。でも、頼んだわよ!)

 サーシャはその決意をくみ取り、心の中でリンデンに謝罪する。


「いよいよだねー!」

「何処に行くのかな?」

「何をするのでしょうね?」


 手をぎゅっと握りしめて、小刻みにブンブンと振っている、リンデンの決意なんて知る由もないエヴァ達3人娘。


 リンデンもサーシャも、今はそれでいいと思っていて、彼女達の自由に任せようと考えている。


 もしも、『狙い』がエヴァ達であったのなら、その時はリンデンが説明し、指揮を執り、恐らくは実力的には『スーパー』な彼女達の力で乗り越えればいいという判断である。


 そもそも、難しいことを考えさせて試験に不合格では、本末転倒である。

― ☘

 特に彼女達は、自由にさせた方が活きるし、何よりもエヴァには『幸運』がある。

 世界樹の意思に外れる試験の地であっても、ステータス『運:S』であるには変わりがないのだから―――。


 ✿


― ☘

「えー、今からD級昇格試験を始めま~す。

 E級ランカーの方は、こちらにお集まりくださ~い。」


 ギルド職員数名が、特設的なステージに立ち集合をかける。


「えーと、全員いますかぁ~?」

 セビオから説明係に任命されているライティアが、人数を確認する。


「よろしいですね。ではぁ~説明させてもらいます―――。」

 ライティアが淡々と説明を始める。


― ☘

◆ 説明は、次のとおりであった。

 試験場所:フィデニア王国南部にあるラセール砂漠

 試験内容:ラセール砂漠全域に出現するジャイアントレッドスコーピオンの討伐

 条  件:本日日没までに砂漠入口に用意する簡易コテージに毒尻尾を納品

      パーティ可(但し5名パーティまで)

 支 給 品:『水寄せの杖』→試験後に回収(紛失時弁償)


 注意事項:対象を先に見つけた個人若しくはパーティが優先(共闘不可)

      → 導きの妖精ナビゲーターにより、管理・監視

      ※ 守れなかった場合、即失格の通知が導きの妖精ナビゲーターからある。

      砂漠内部は遭遇率も上がるが、危険なモンスターが出る。

      → 進むことは止めないが、自己責任(命の保証なし、助けなし)


 ◇ ◇ ◇

― ☘

「―――『水寄せの杖』は配られましたね? 説明は以上となりま~す。

 『』への質問は、一切受け付けませ~ん。では、はじめ!」


―――パンッ!!!

 と、大きくライティアは手を叩き、この場で開始の合図がなされる。


「は? ちょっとまって、砂漠って何処だよ?」

「せめて、そのコテージの位置くらい教えろよ!」


 行き成りの試験開始の合図で混乱し騒ぐもの、何も言わず無言で去るもの、パーティを組み出し難しい顔で打合せをし出すもの、


……そして、わくわくしながら嬉しそうにするもの。


 ✿


「ふぇええ! さっぱり分からなかったねー!」

「砂漠って、ここから、どのくらい先にあるのでしょうねぇ?」

「何時ものようにすればいい。」


 相変わらずの三者三葉の言葉を口にして、

 エヴァが、リンデンを含めた3人にパーティ申請を送る。


『じゃぁ、行こかぁー!』

 ロビーから、わいわいしながら歩き出す3人。


「ふぇ? ど……何処に行くのですかぁー。」

― ☘

 彼女達を追いかけるリンデンであったが、その時、視界にセビオの姿が入り込む。


―――トクンッ。

 心臓が大きく鼓動するも、抑えるように作り笑いをして、

 セビオに頭を下げるリンデン。


― ☘

 笑顔でリンデンに手を振るセビオを見ながら、リンデンの肩は少し震え、体温が数度上がったのではないか……そんな感覚を彼は覚える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る