第16話 掲示板を知る
「ねね、葵も同じ人だと思うでしょ? 協会で注目されてた人だよ、あの人」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、赤髪の少女が隣に立つ黒髪の少女へそう言った。
「わ、わかってるよっ。わかってるけど……見られてるから静かにして~!」
片や黒髪の少女は、騒ぐ赤髪の少女の制服をくいくいっと引っ張る。恥ずかしそうに顔を朱色に染めていた。
——面白そうな二人だなあ……。
けど、赤髪の少女が言う【協会で注目されてた人】っていうのは、自意識過剰とかじゃなかったら僕のことだよね。
もしかしなくても、土曜日に協会で僕を見たのかな? こちらは一向に相手が誰かわからないけど。
試しにこちらから声をかけてみる。
「……こんにちは。僕になにか用かな?」
「——ひゃっ!? あの、その、えっと……え~っと……」
わかりやすく黒髪の少女のほうがテンパる。
逆に赤髪の少女は、凛とした態度で僕の挨拶に応じた。
「こんにちは! いきなり声をかけてすみません。私、
「夕陽さんに水無瀬さんね。僕は犬飼透。協会って聞こえたけど、土曜日に顔を合わせたりしたのかな?」
端的に僕が自己紹介のついでに尋ねると、元気いっぱいな夕陽さんが答えてくれる。腰まで伸びた長い赤髪を揺らして、「はい!」と。
「直接話をしたわけでも、視線が合ったわけでもありませんが、犬飼さんの噂くらいは聞きました! 登録した初日にボスモンスターを討伐したって本当ですか?」
「……ああ、そのことね……」
やっぱり彼女たちは、僕のことを一方的に知っていたみたいだ。
どう答えたものかと一瞬だけ悩む。
その隙に、隣の黒髪の少女——水無瀬さんが夕陽さんの制服をさらに強く引っ張った。
「も、もうっ! 初対面なのに遠慮なさすぎ! 犬飼さんが困ってるじゃない!」
「え~? でも葵だって気になるでしょ? 話題のテイマーの話だよ?」
「そりゃあ、気になるけど……。でも、いきなり詰め寄るなんて失礼だよ……」
「むっ……たしかに」
二人でこそこそと聞こえるくらいの声で話し合った結果、ほぼ同時に頭を下げた。
「ごめんなさい、犬飼さん。初対面で失礼でしたよね? 私、話題のテイマーが同じ学校の人でびっくりして、思わず声をかけちゃって……。本当にごめんなさい。嫌ですよね、ぐいぐい来られると」
「私からも謝ります! ごめんなさい。茜は悪い子じゃないんですっ。純粋に犬飼さんのことが気になっただけで……! あ、でも気になったっていうのはそういう意味じゃ……」
夕陽さんは素直に謝る。水無瀬さんは友人のフォローに回る。
しかし、フォローが苦手っていうかあまり他人と話すことに慣れていないのか、喋りながら勝手に戸惑いはじめた。
見ていて面白いコンビだね。
僕はくすりと笑って、彼女たちの謝罪を制する。
「ふふ、謝る必要はないよ。別に不快だと思ってるわけでもないし」
これは本心だ。
昨日みたいに、大勢に囲まれて質問責めされそうな状況なら不愉快だったが、いまはたったの二人。それもこんなに可愛い美少女たちに囲まれて、嫌な男子生徒はいないだろう。
「気にしないで」と続けて、彼女たちの質問に答える。
「それで……なんだっけ。ボスモンスターの討伐? 一応、ウチの可愛いポチが倒してくれたよ。魔石を換金したし」
そう答えると、夕陽さんの瞳がいっそう強く輝く。
ぐいっと顔を近付けながら彼女は言った。
「わあ! ほんとだったんだ! 掲示板に書いてあるから嘘かもしれないって思ってたのに!」
「協会でも騒ぎになってたじゃない。まだ疑ってたの?」
「当たり前じゃん! 先に登録した私たちだって、まともに第一層の攻略ができていないんだよ? それなのに、初日でボス討伐なんて……普通、ウソだって思うのが当たり前! しかも犬飼さんはテイマーだし……なんかもう、すっごい!」
最終的にシンプルな感想を口にする夕陽さん。
「それにそれに! ポチってあの可愛い子犬のことですよね? あんなに小さくて可愛いのに、ボスモンスターを倒せるくらい強いってアリなんですか!?」
「あー……まあ、不思議だよねぇ。僕もいまでも驚いてる。けど、あれでもモンスターだし」
「……あ、そっか。テイムスキルってモンスター専用ですもんね」
「うん。詳しいね、夕陽さんは」
「運よく覚醒者になれたので、その手の情報はいろいろと調べました! ネットって便利ですね!」
ネットの知識か~。
偏りとかありそう。でも、少なくとも僕よりは詳しそうだった。
「そっか。僕も探索者になったばかりだし、ネットを使っていろいろ調べようかな。オススメのサイトとかあったりする? よかったら教えてほしいんだけど……」
「構いませんよっ。えっと……公式サイトではないんですが、よく見てる掲示板があって…………これなんかオススメです!」
そう言って、自身のスマホの画面を見せてくれる夕陽さん。
しかし、その画面を見て僕はぴくりと肩を震わせた。
思わず、
「……え?」
という疑問が出てしまう。
『最強の新人テイマー現るっ!!』
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