第23話:その頃勇者達は、その2

ショコラがパーティから消えて一週間、リコットは更に窮地へと追い込まれていた。


「くっ!!」

「ちょ……!?」


 前衛に立つタンクが目の前の攻撃を盾で受け流す。

 その結果どうなるか。受け流された攻撃が後ろのリコット達の付近まで来てしまい、足を止めるハメになってしまう。


「何で受け流すんだい!? そんな事をしたらアタシらに当たるじゃないか!!」

「あんな攻撃を真っ向から受け止められるか!! 俺に死ねって言うのか!?」

「受け止めるのがタンクの仕事だろう!? 使えないねぇ……!!」


 イライラが溜まる。

 新しくメンバーを雇ったというのに、改善されるどころか悪化している。

 今いるダンジョンも11階層という微妙な場所でこの有様だ。


「うわああああ!!」

「お、押されるっ!!」


 目の前の熊型モンスターにパーティが吹き飛ばされる。勿論リコットも。

 盾役が全てを受けるという考えが旧勇者パーティには存在しており、新メンバー達との認識のすり合わせがちゃんと出来ていないのだ。

 パーティの何名かが傷付き倒れ、回復役がヒールを試みるが……


「遅いんだよ!! ちんたら回復するな!!」

「はぁ!? これでも早い方だぞ!? 何言ってんだ!!」

「これで早いって? ふざけた事言ってんじゃないよ!!」

「ここで喧嘩しないでください!! あっ、うわああああ!!」


 パーティが言い争っている内に熊型のモンスターが突撃を開始し、メンバー全員が入り口付近まで吹き飛ばされた。


「ふさけやがって……!!」


 うつ伏せで倒れながら、ギリッと歯ぎしりをする。

 何で上手くいかない。アタシは勇者リコット、選ばれし人間であり優れた才能を持つ存在なんだぞ。

 なのに、何でこんなところで苦戦しているんだ……!!


「あああああああああああっ!!」


 悲痛な叫びがダンジョン内に響き渡る。

 その声に悔しさが込められているのは言うまでもないが、この時新しく入ったメンバーはこうも思っていた。

 勇者リコットの負け犬の遠吠えであると。


~~~


「こんな惨状で報酬が払えるか。元々13階層での討伐が目的なのによぉ」

「ふざけんな!!」


 ダンッ!! と受付のテーブルを叩く。

 苛立つ声と視線でギルドマスターを見るが、彼は表情を変えない。

 それどころか、受付嬢を力で脅そうとしていた現場を見ていた為、むしろ殺気立っていた。


「はぁ……あんたらは最近問題行動が多すぎる」

「なんだって?」

「依頼は失敗する、煽られれば喧嘩を買っては騒ぎを起こし、いくつもの店では金も払わず飲んだくれてるじゃねぇか」

「あ、あれは……」

「お前らがギルドにいると面倒なんだよ。もういい……解雇だ」

「は?」

「勇者リコットの冒険者資格を剥奪する。過去三度の警告を無視したからだ、受け入れろ」

「ふざっ……けるなああああああ!!」


 激情し剣を抜いたと同時に、ギルドマスターへと斬りかかる。

 だが


「ふんっ!!」

「ぐはっ!!」


 泣きじゃくる子供を抑えるかのごとく、リコットはギルドマスターの拳によってあっさりギルドの外へと吹き飛ばされてしまう。

 

「これが最後の警告だ。大人しくこの国から出ていけ」

「く、くうう……!!」


 本日二度目となる地面の味にイライラがつのる。

 本当の名ばかりとは私だったのか……なんて考えが一瞬でも頭によぎったせいで、ダンダン!! と地面に八つ当たりをしてしまう。

 

「や、やっぱりショコラがいないと……」

「あいつこそ真の役立たずだ!! アタシさえ戦えれば、あんなヤツ!!」

「「「「……」」」」


 相変わらずの態度に、パーティメンバーはやれやれといった表情を浮かべる。

 元々勇者リコットを信じてここまでついてきたが、今ではこの有様。

 こうなってしまえば、自分達が下す決断は一つだけ。

 互いの顔を見合わせた後、彼らはリコットに対し最後の言葉を告げた。


「もうあなたにはついていけません」

「ここで冒険者ができなくなるのは嫌です。ギルドマスターに頭を下げてきます」

「こんな所で悪評を喰らうのはごめんだ」

「さっさと消えろ、この偽物勇者が」


 思い思いの言葉を口にした後、パーティメンバーは全員リコットの元を去ったのだった……


~~~


「がっ!!」

「へへへ……勇者サマも大したことないなぁ」

「かえせっ……!!」


 冒険者という職を奪われ、城からも出禁となったリコットが稼ぐ手段とは。

 プライドの高い彼女がどこかの店に就職、なんて事はできず野盗として裏社会で奪い奪われの生活を送っていた。


「がはっ!!」

「あーあ……どうする、ヤるか?」

「いーや、こいつじゃなくてもいいだろ。いい女は他にもいるしな」

「だな」


 服はボロボロ。ロクに風呂も入れず、食べ物だって満足に得られない。

 毎日が傷だらけの生活。最悪だ……


「くっ……う、うう……」


 地の底まで落ちた自らの立場に涙を流し続ける。


「いいですねぇ。それでこそアクトの求める人材だ」


 その時だ。謎の女性が目の前に現れた。


「……誰だい?」

「おっと、申し遅れました。私はエージェント、才能に溢れた恵まれない者を救う存在です」

「救う……?」

 

 何を言っているのだろうか。

 いつものリコットならふざけんなと一蹴する所だが、動く事すらままならない。

 結果、不本意ながら彼女の話を聞く事になった。


「何故パーティという存在に縛られなくてはならないのか。何故集団に人々は拘るのか。個々の力を高め、より個人が尊重される時代を作ることこそが、多くの人を救済できる……私はそう考えています」

「何が言いたい……」

「ま、分かりやすく言えば……」


 ガサゴソとスーツケースを漁ると、彼女は液体の入った瓶を渡してきた。


「世界、壊してみませんか?」

「これで何ができるんだい」

「圧倒的な力です」

「力……」

「私の求める理想の為には、破壊と実力の証明が必要ですからね」

「……」


 これさえあれば、アタシはまた輝ける。

 また勇者リコットとして、地位も名誉も取り戻せる。

 全てを奪われた彼女に選択肢などなかった。


「ごくっ……」


 震える手で瓶に手を出し、勢いよく飲み込んだ。


「っ!? がああああああああああああ!!」


 身体が熱い。メキメキと激痛が走り、意識を保つのがやっとだ。

 だが、同時に力がみなぎるのを感じる。


「ふふふ、さぁ始めましょう勇者リコット。才能溢れる個人が輝く、理想の時代を作るのです!!」

「アアアアアアアアアアッ!!」


 力に従うまま剣を取り出し、勢いよく振り払う。


 ドガアアアアアアアアアアンッ!!


「ッ!?」

「どうですかこの力? これが貴方の力、世界を変える力ですよ!!」

「これが、アタシの……」


 周囲の建物が灰と化した。

 たった一振りでこの威力。以前のアタシなら考えられない。

 ニヤリと含みのある笑いを浮かべるエージェントを見た後、リコットは前に踏み出した。


「アタシが……アタシがあああああああ!!」


 力に支配された勇者が今、世界を壊そうと動き出した。

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