第14話 ダンジョンの番人

「あっ、あれは!!」

「宝箱じゃないですかー!! しかも三つ!!」


 岩をどけた先の空間には、なんと宝箱が三つも置いてあった。

 呪いで封印するほどの物が眠っていたのかな? とりあえず城の弁償にはぐっと近づけるかも!!


「こんなあっさりと行くものかのう……ん?」


 ステラと一緒に宝箱へ駆け寄ろうとした時だった。

 天井から巨大なモンスターが落ちてきて、私達の前に立ちはだかったのだ。


「シャアアア……」

「キ、キングリザードだ……」

「ダンジョンの番人……」


 長い舌をしゅるりと出して、こちらへ近づいてくる赤色の大トカゲ。

 キングリザードはダンジョンの番人として有名なモンスターだ。獲物を執拗に追い詰め、その長い舌で素早く捕食し胃液で何でも溶かして吸収してしまうという……


 と、まあ色々と恐ろしいモンスターではあるが


「ショア!?」

「あ、そこ三つくらいトラップあるから気をつけて下さいねーって言っても遅いか」


 足を踏み出した瞬間、地面から蜘蛛の巣が現れキングリザードを包み込む。

 おまけに先ほどのつるやネバネバとした粘液もセットでキングリザードに絡みつき、動きを完全に封じ込めてしまった。


「とあー!!」


 で、動けなくなったタイミングを見て私はキングリザードの頭をグシャッと叩き潰した。


「相手が悪かったのう、相手が」

「一応魔王ですからねーショコラさんもかなりお強いですし」

「へへ、ありがとっ」


 こちとら魔王二人+怪力には自信がある聖女だ。

 その辺のモンスターの一匹や二匹、なんてことはない。

 さっさと宝箱を回収して帰ろう。


 ザッザッザッ!!


「ん!?」

「騎士さんがいっぱい!?」

「落ち着け、奴らに魂はない……となると術者がいる筈じゃな……」


 突然壁が崩れたかと思えば、鉄鎧に身を包んだ騎士が大量に出現した。

 無機質で何もしゃべらない、ただ私達の方へと徐々に向かってくる姿は不気味だ。

 そしてある程度騎士が出終わった時、見覚えのあるモンスターが姿を見せた。


「キングリザード……!?」

「しかも三匹もいますよ!!」


 先程の大トカゲが三匹も。しかもよく見れば魔法陣を展開して新たな騎士を召喚していて……


「待って、キングリザードってこんな事出来たっけ!?」

「あー多分魔素が濃いので変異したのかなーと……」

「ええええ!?」

「うろたえるな!! 落ち着いてやればわらわ達で倒せる!!」


 三匹のキングリザードが私達の周りを取り囲むと、やがて奇声を発しそれを合図に騎士達が突撃を開始した。


「へへーん!! トラップに引っかかってますねー!!」

「こいつら重そうだけど結構軽いね!!」

「数がいても弱くては意味がないわっ!!」


 それぞれの得意分野で騎士達を蹴散らしていく。

 正直足止めにすらなってないんじゃない? まあウザイのはウザイけどさ。

 なーんて楽観的に考えながら対処をしていると。


「シャオッ!!」

「はっ!?」

 

 キングリザードが自慢の舌で騎士達を捕まえ、そのまま私達の方へとぶん投げたのだ。


「うわああああああ!? 大砲みたいに飛んできましたぁ!?」

「ちぃ!! 速度があってはわらわの魔法で対処が出来ん!!」


 一応トラップや魔法で防いではいるものの、ちょこちょこ取りこぼしがある。

 というか結構痛い!!

 勢いよく投げ出された騎士の塊はそれなりの衝撃があり、私達に重いダメージを与えた。

 しかも残りの二匹も真似するように投げてるし。

 このままではマズいと、回復魔法を使いながら盾を構え、二人に呼びかける。


「壁の角に行こう!! 私の盾で正面は防げるから!!」

「う、うむ!!」


 壁に背を向け、攻撃を受ける方向を正面だけに絞らせた。

 しかし、これで状況が良くなるかと言えばむしろ悪化している。

 壁に背を向けるという事は逃げ場所を失うという事なので、実はかなり追い込まれた状況だ。


「ヘルフレイム!!」


 ムーナが隙を見て魔法を放つ。しかし、


「シャア!!」

「なっ……」


 キングリザードは炎を吐いてヘルフレイムを相殺……は出来なかったが威力を下げた。

 それなりの勢いでムーナの魔法が直撃したのだが、キングリザードは平気そうな顔をしている。


「嘘!? ムーナ様の魔法が効かない!?」

「ちぃ、こやつら防御が上手すぎる!! 外皮が頑丈なのもあるが、わらわの魔法を弱めるなんて判断は並のモンスターじゃ出来んぞ!!」


 魔防貫通のスキルがあるにも関わらず、魔法が防がれてしまった。


「くっ……」


 絶え間なく続く、ガンガンと投げ飛ばされた騎士が盾にぶつかる音。

 騎士自体の対処は私が足で蹴飛ばしたり、ムーナが魔法を使ったり、ステラのトラップで何とかなる。

 だが肝心のキングリザードはどうしようもない。

 攻撃をしても上手いように攻撃を防がれてしまうのだ。

 最早絶望的か……?


(いや、待てよ?)


 あいつらムーナの魔法は炎を吐かないと防げないのでは?

 外皮が固いのならそれに頼ればいいのに、そうしなかったのはムーナの魔法で致命傷を負うと判断したから。

 ならば、攻撃の隙さえ作れば!!


「ムーナ!! ヘルフレイム程じゃなくていいから魔法でキングリザードを牽制して!!」

「了解じゃ!! ダークネスショットォ!!」


 ムーナが闇の魔力を込めると、雨あられのように闇の塊がキングリザードへと降り注ぐ。

 だが、威力が弱いせいで致命傷とまでは行かない。それでも全くダメージがないわけではなく、キングリザード達の動きが徐々に鈍くなっていた。

 恐らくスキルの【魔王の怒り】により、呪い効果が付与された為だろう。


「今だっ!!」


 一匹のキングリザードに狙いを定め、杖先をかぎ爪に変化させたチェーンロッドを伸ばす。

 キングリザードはチェーンをかわそうと横方向へ逃げるものの……


「キシャッ!?」

「トラッパーリキッド……ネバネバで動けませんよね?」

「ステラないすぅ!!」


 いつの間にか仕掛けていたネバネバのトラップに足元が捉えられる。

 キングリザードは動く為にネバネバに向けて炎を吐こうとする……が少し遅い。

 チェーンが既に巨体を回り切り、ガッチリと拘束していたのだ。


「いくよーっ!! そーれっ!!」


 拘束したキングリザードを思いっきり引っ張り上げ……こちら側に寄せた。


「ちょ!? なんでこっちに寄せるんですかぁ!?」

「大丈夫だから!! 取り敢えず二人は空に飛んでいて!!」

「ん? ……なるほどのう。おいステラ!! 早く飛ぶぞ!!」

「え? は、はい!!」


 ムーナは多分私のやる事が分かったみたい。

 二人が空に飛んだ事を確認すると私はキングリザードの尻尾を掴んで持ち上げて……


「おりゃああああああああ!!」

「キ、キングリザードをぶん回したぁ!?」


 ぶんぶん回転しながら振り回し、周りの騎士達やキングリザードを吹き飛ばした。

 

「「キシャッ!?」」

「くらええええええええ!!」


 まるで投げ縄のように振り回されるキングリザードの姿に流石の二匹も動揺している。

 まあ誰でも驚くとは思うけどさ。

 勢いのままキングリザードを目の前の一匹に向けて手放すと、ドガーンという音と共に激突して気絶してしまった。

 

「どうよ!!」

「ええと……何ですかあれ」

「これがショコラじゃよ」

「あんなの聖女じゃなくて蛮族じゃないですか……」

「ば、蛮族……」


 言いたい事はわかるけどさ!!

 私だって女の子なんだから、野蛮な異名は付けられたくない。


 けど取り敢えず形勢逆転。

 これから最後のお掃除といきますかー!!

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