第11話:魔王様(現在)の登場
「お、お待たせしました……」
「ああ、どうぞどうぞ」
少し落ち着いた後、私達は再び寝室の前に立ちノックをする。
大賢者スライムの許可の後、ドアを押して中へと入っていった。
「えと、妙によそよそしいですね」
「あはは、まぁ……」
「うむ……」
そりゃあんな事をした後ですもの。正常でいられる方がおかしい。
お互いぎこちないし、ふと顔が向き合えばすぐに明後日の方向に逸らしてしまう。
そして少し静かになると先程の出来事が頭に……あああああああ!!
「と、とにかく!! 私達はステラ様に会いに来たので!! お願いします!!」
「ああ、はい。わかりました」
気を紛らわす為に、本来の目的を強引に進めた。
「こちらとしても先代魔王のムーナ様が来ていただいて助かりました」
「ほぉ……お主はわらわが魔王だと分かるのじゃな」
「魔力の流れが特殊なのといくつかの文献で見た特徴と一致していましたからね」
「はえーなるほど……」
奥へ進みながらふんふんと頷く。
流石大賢者、知識も豊富だし魔力の察知能力が高い。
スライムは喋らないし弱い、だけど何でも吸収するから街の掃除屋さんとして活躍しているモンスターだ。
そんなスライムが禁書を吸収するとこうなってしまうのか。未だ謎が多いモンスターの生態ではあるが不思議なものだ。
「まあ流石に封印が解除された理由までは分かりませんけどね」
「解除したのは隣にいるショコラじゃよ」
「殴ってたらいつの間にかぶっ壊れました!」
「……どうやら私の知識もまだまだですね。自惚れないよう精進します」
「こやつは規格外だから気にするな」
ただ私の方がもっと不思議らしい。
ちなみに説明は出来ない。出来てしまったから出来たとしか言えない。
と、会話に夢中になっていると、いつの間にか目の前に大きくて高級そうなベッドが現れた。
「ぐぅ……」
「……あれか」
「ええ、あれですね」
フリルの可愛らしい寝間着姿で気持ちよさそうにベッドで眠る魔族の少女。
銀色のショートヘアーにムーナよりやや細い角を生やしている。
体形はやや小柄かな? でも出るとこは出てる。
大賢者スライムの反応から間違いない、彼女が魔王ステラだ。
「こんな真っ昼間から寝おって……いつもこうなのか?」
「えぇ、いつも夕方まで寝て、朝まで起きて、また夕方まで寝て……の繰り返しです」
「魔族って夜型?」
「基本は朝型じゃ。まあ夜に仕事をするものもおるがこやつは……」
「いつも遊んでますね」
「ようし、ぶっ飛ばすか」
パキポキと指を鳴らしながら、ステラ様の寝ている場所まで近づくムーナ。
いっつもぐーたらな生活をしているのかぁ……正直少し羨ましい。
二日でいいから変わってほしい。
「では、仕事があるのでこれで」
「あありがとうございます」
そう言い残して、大賢者スライムはぴょんぴょんと扉の方へと移動していった。
その姿を見送った後、ベッドの方を振り返ればムーナがステラ様の身体をぶんぶんと揺らしていた。
「おーきーろー!! もう朝じゃぞ!!」
「んぅ……まだ寝ますぅ……ぐぅ……」
「……ダメじゃなぁ」
相変わらずぐーぐーと眠り続けるステラ様。
結構強めに起こされてるのに、びくともしないなぁ。
これはどうしたものかと私も首をひねっていると
「ショコラ」
「ん?」
ムーナが私の方を見て、こちらへ手招きした。
「どうすればいい?」
「わらわは魔法を控えたいからな……こやつを思いっきり抱きしめろ」
「強さは?」
「全力で」
「了解」
腕を回しながら私もムーナのいるベッドへ近づく。
「よいしょっと」
「ぐーぐー……」
「うわぁ、気持ちよさそうに寝てるなぁ」
よだれまで垂らしちゃってるよ。
上半身は既にベッドから離れているというのに、変わらない寝姿に感心すら覚える。
美少女な魔王さんの可愛い姿を堪能した後、私は彼女の腰に腕を回し胸元へと寄せた。
そして……
「起きてくださいステラさまあああああっ!!」
「いだだだだだだ!? なになになに!?」
力の限り彼女を抱きしめると見開いた目と叫び声と一緒に飛び起きた。
「え!? 何ですか!? 暗殺!?」
「初めまして。先ほどあなたを起こしたショコラです」
「あ、どうも……って誰!?」
突然の痛みに飛び起きたら、目の前に謎の女性がいた。
うん、びっくりするよね。怪しさMAXだし。
「こやつはわらわの旅の仲間じゃ。久しぶりじゃのうステラ」
「ん? ……ム、ムムムムムーナ様ぁ!? なんでここに!? 確か死んだはずでは……」
「死んではおらん、封印じゃ!! それが解かれたからここにいるというに……相変わらずお主は」
「あ、あははぁ……」
ムーナの姿にビビり散らし、その場で頭を下げるステラ様。
やっぱり先代魔王は恐ろしいんだ。いや、彼女の場合は自らの自堕落な行いが原因だから仕方ないのでは?
なんて考えていると、ムーナがステラ様の方へと更に詰め寄る。
「自堕落ぶりは悪化、隣国との会談をすっぽかす、おまけに仕事と関係なく不健康な生活を送る……どういうことじゃ?」
「いや、そのー……魔王だし仕方ないですよねっ!!」
「バカ者ォ!! 開き直ったから良い訳じゃないわ!!」
「ひいいいいいい!! ごごごごごめんなさああああい!!」
うわぁ……容赦ない。
これが正当な理由での怒りだとしても、受けたくはない。
「はぁ、全く……」
「えと、ムーナ様がこちらに来たのは何故ですか……? はっ、まさか私に変わって再び魔王の座に……」
「もう魔王になる気はないわ。古い人間が上にいても仕方ないからな。今日来たのは様子見とちょっとした指導じゃよ」
「え、てっきりここまでしたから魔王城を乗っとるのかと思ったよ」
「だーれがクーデターを起こすと言った。まあ確かにいくつか壊しはしたが……」
「え?」
壊した、というムーナの言葉にステラ様が反応する。
「ムーナ様、何を壊したんですか?」
「……」
「ショコラさん?」
「えと……塔の上部を折って、中で滅茶苦茶に荒らしまわって、地面に地下まで通じる穴を開けました……」
「えぇ……マジでクーデターじゃないですか……」
「ま、まぁわらわも少しはしゃぎ過ぎたしのう……」
うん、クーデターだね。
魔族に会いに行くとはいえ、明らかにやりすぎだと思う。
再び元に戻すのに一体どれほどかかる事か……ん?
「あれっ、そういえば壊した物ってどうす……あっ」
「すぅー……」
余計な事に気づいてしまった。
話を止めて両手で自らの口をふさいだがもう遅い。
チラッと横目にムーナの方を見ると、口を開けだらだらと汗を流しながら視線をそらしている。
「……ムーナ様、ショコラ様、現魔王があなた達に命じます」
「「……」」
「弁償してください」
「「はい……」」
裁判長、判決が終わりました。
当然のごとく有罪、大人しく弁償の為にがんばりまーす……
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