第4話 遠回しの気遣い
レンヤの小さな笑みに気がついたタクミは嫌な予感がする。同時に、レンヤの笑みに気がついたアイナも、なにか仕返しをするのかと同じく小さな笑みをした
「アイナー。頑張った後は、美味しいご飯が食べたいよなぁー」
「ん。……ご褒美はほしい」
アイナはレンヤの思惑を瞬時に理解した。
「というわけで、やってくれるね? タクミくん、ヒナコくん」
「……何をやらせる気だい?」
レンヤはまだ何もやらせるのか伝えていない。
なのに、問い返したタクミに、わかんないのと大げさに驚いていた表情を作って、やれやれと身振りをしてため息をつく。
タクミとヒナコのこめかみがピクッと動いた。
「…………はぁ。流れでわかるだろう? 君たち2人で買い出しに行ってー、豪華な夕飯を作れってことなんだけどーー。いっやぁーーー、わっっっかんないかなーーーー!。 君、このくらい想像してくれないとー、困るよー。……ねぇ、アイナさん」
「ん。……もっと考えて行動できないとー。デューユー、アンダースタゥーンドゥ?」
大げさな身振り手振りの二人は、鬱陶しく煩わしい小企業の上司や、傲慢で腹立たしい教師のようだ。
それが、冗談だとわかっていてもタクミとヒナコは腹が立つ。
「……つまり、僕とヒナで買い物に行って食材を揃えて、豪華な料理を作れってことだよね?」
「イグザクトリー!」
「ん。……やればできる。えらいえらい」
「あ。行くついでに、トラックの返却をしてきてください」
よくできましたと上から目線に二人はうなずく。
「…………くっ、ムカつくわ! 殴りたい!」
「…………流れでナチュラルにパシるサユリも、サユリだよね。……それに、いつの間にか行くこと決まってるし……」
三人とも悪ふざけで絡んでいるだけで、タクミとヒナコを責めているわけでも、いじめようとしているわけでもないのは、当然わかっている。
ただ、レンヤとアイナの絡み方が絶妙なうざったさを持っているため、腹立たしくなるのは仕方がなかった。
「…………はぁ、わかったよ。行けばいいんでしょ」
「……納得できないけど、仕方ないわね」
二人ともむかつくだけで、別に行きたくないではない。最近、引っ越しやらで忙しくて付き合っているのに二人っきりで出かけられていなかったこともあり、むしろ都合がよかった。それに、レンヤとアイナには重い荷物を、サユリにはこの家の手配を任せていて、自分たちの仕事が少なかったことに僅かの罪悪感もあった。
だから、腹立たしいが、特にごねることなく二人は了承する。
「お、あざーす。……じゃー、ちょいまち。すぐパソコン下ろすから。アイナ、そっち側を頼む」
「……ん、任せろ」
タクミとヒナコが了承したら、レンヤもヒナコもころっと、急に素に戻ってダンボールを降ろしにかかる。降ろすだけだからすぐに終わった。
「ふぅ。……というわけで、二人共お願いします。……あ、俺、フライドポテトと炙りサーモン、あとローストビーフが食べたいから、よろしく」
「私、ラザニアとステーキ…………お願い」
「私は春巻きを、あと野菜とデザートも忘れないでください。お願いしますね」
絶妙に時間がかかって面倒くさい料理を所望する三人にタクミとヒナコは顔をピクつかせる。
全員の好みの料理の中で、普段食べない料理だからしかたがないが、作らされる方は溜まったものではない。
「面倒な料理ばかりじゃない。少しは遠慮しなさいよ」
「まぁ、大変だけどやるしかないね」
「調理器具はちょっとしたレストラン並みに揃っていますので心配いりませんが、調味料もないのでまとめて買ってきてください。収納も充実していますので、そこは気にしなくて大丈夫です」
一般的に外食で食べるような、料理人ではないなら作れない人のほうが多いい料理ばかりだが、タクミとヒナコは料理が得意で、趣味ですることもあるため作ることができる。
「わかったよ。他には何かある?」
「そうですね。いっそのこと北原さんと藤堂さんを呼んで、大きく祝おうと思いますので多めに買ってきてください。余ったら明日に食べればいいですので、多いいぐらいで構いません」
「それと昼飯は、俺たちは適当に食べるから二人は買い物ついでに食べてきて」
「そうですね、それもです。他は思いつかないので大丈夫です。もし何かありましたらメールで連絡しますよ」
「うん、了解。なら、もう行くわね」
「それじゃー、行ってくるよ」
「ん。……気を付けて」
「行ってらー」
「行ってらっしゃい」
いつの間にか数個のエコバックを取りだしていたいたアイナが、それをヒナコに渡す。
それを持ってヒナコが助手席へ、タクミが運転席へとトラックに乗って、車庫から出ていった。
「……さて、それでは荷物を運ぶとしましょう。パソコンをお願いしますね。今回は階段はありませんので、運び出しの時よりは楽だと思いますよ」
「………………さっさと終わらすか」
「……………………ん」
荷物は、車庫から渡れるように大きな扉があるのでそこを通れば運び込める。なお、その扉の前には、車庫の二階から下に降りるための階段があり、そこに靴を入れるための靴収納がある。そして、その二階も隣の家の二階へと行ける別の扉があった。
巨大パソコンはその一階の扉から突き当たり、奥にある階段下の部屋がコンピュータールームなので、そこまでレンヤとアイナは、扉を開けたりするために先導するサユリについて行きパソコンが入ったダンボールを運び入れる。
以前の住まいであったマンション八階からトラックがある駐車場まで運び出したときに比べれば、二人にとって楽なものだった。
パソコンが終われば後はサユリでも運べる程度のものしかないので、共用のものから個人のものまでそれぞれ運び出す。
個人の部屋はすでに決まっている。一階の二部屋のの内、奥がタクミの、その隣がヒナコの部屋で、二階の三部屋の内、奥の階段側からサユリ、レンヤ、アイナの部屋がある。それぞれ使いやすいように考えた結果、こうなった。
他の、個人の部屋以外にも、特大スクリーンがあり小さい映画館のようで、カラオケや楽器演奏ができる防音部屋や、図書館のような書斎、広い物置部屋などがある。当然、風呂も広く残り湯を使った自動洗浄機能付きの最新のお風呂場が備わり、トイレも一階と二階の両方に備わっていた。
「終わったー!」
「……疲れた」
「はい、お疲れ様でした。まぁ、まだ運び終わっただけですけど。次は運んでもらったパソコンと新たに購入したコンピューターとをセッティングしますので手伝ってください」
「……………………はい」
「……………………ん」
「これも兄さんとアイナが、タクミさんとヒナちゃんを買い物に行かせたから大変になったんですからね」
「…………レンヤのせい」
「……おい、アイナもノリノリだったろ」
「……でも、言い出したのはレンヤ」
「まぁ、そうだけど。でも良い案だったろ? 引っ越し準備とかで忙しくて、あいつら二人っきりの時間が取れてなかったから、ちょうどいい理由になったろ。まぁ、豪華な夕飯を食べたかったのもあるけどな」
レンヤ達の五人は家族のように仲がいいが、その中でもタクミとヒナコは付き合っている分、特別だ。そのため、その二人が別れるようなことがあれば五人の関係も崩壊しかねない。
二人の仲は、そのようなことは考えられないほどに見えるが、何があるかわからない。最愛だと言って結婚しておきながら離婚することなど、よくある話だ。
だからこそ、二人は仲の良さを維持できるように双方が好かれるための努力をする必要があるし、その機会を大事にする必要があり、レンヤもそれを手助けするのだ。たまにちょっかいをかけるが。
「やっぱり、二人には仲良いままでいてほしいからな」
「そうですね。二人が仲良いのを見ると私達も嬉しくなりますね」
「……ん、同意。………………でも、忙しくなったことは別。……罰としてマッサージを所望する」
「お、いいですね。私もお願いします」
「え? い、いや、それは流石に……恥ずかしいというか」
「大丈夫。……ちょっとなら許す」
「何を!?」
「だ、だめですよ! アイナ!」
「ん。……冗談」
三人は楽しそうに会話しながら、大変と言った作業を進めるのだった。
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