第329話 愛すべき仲間たち

 世界会議ログ・フェスではデ・スタル連合国の侵攻に対し、様々な対策が練られた。

 構図としてはデ・スタル連合国対世界連盟となる。

 そのため、これまで以上に国家間の情報共有を行うということで満場一致。

 各国の任務も決定。

 ラルシュ王国はノルンと竜種ウェスタードの対応。

 その他の国は、デ・スタル連合国の侵攻に対し防衛戦となった。


 世界的危機となったことで、予定していたラルシュ王国の視察は中止。

 そのため世界会議ログ・フェスの翌々日には、各国の代表たちは帰国していった。


 ――


 各国の帰国を見送った後、俺は執務室にレイ、シド、ユリアを呼んだ。


「ユリア、会議を開きたい。首脳陣を全員集められる?」

「もちろんです。各大臣、冒険者ギルドの局長、ラルシュ工業の経営責任者たちを集めます」

「ああ、頼むよ。緊急事態だからなるべく早くね」

「かしこまりました。明日でも可能です」

「分かった。頼むよ」


 続いてシドに視線を移す。


「シド、俺はノルンを止める。死なないから身柄を確保する必要があるだろう?」

「はい。仰る通りです」

「今回は久しぶりにパーティーを組むよ」

「当然です。パーティーは私とオルフェリア、ローザ、リマ、マルコとアガス、エルザとマリン。そしてレイ様でしょう」

「そうだね。それと、場合によってはシドにもノルンの対応を依頼するかもしれない。ノルンはシドを子孫と言っていたから」

「そうですね。私が出るべきでしょう」


 実はユリアにもシドの不老不死は伝えていた。

 この国でシドの不老不死を知っているのは俺とレイ、オルフェリア、ユリアだ。


「レイ、こんなことになってしまったけど、君の力が最も必要だ。その……狂戦士バーサーカーの経験者だし」

「もちろんよ。何遠慮してるのよ。私の経験が役に立つなら嬉しいわ。それに、私はあなたとどこまで一緒よ?」

「アハハ、そうだった。ありがとう」


 その後もミーティングを続け、国家としての今後の対応を擦り合せた。


 ――


 ラルシュ王国の緊急会議当日。


 参加者は俺、レイ、シド、オルフェリア、ユリア、ジョージ、ローザ、リマ、マルコ、アガスの建国時からの上位幹部十名。

 そして、現在の各大臣、冒険者ギルドの各機関シグの局長、ラルシュ工業の経営責任者たちが王城内の議場に集合。


 ラルシュ王国を動かす超重要人物たちだ。

 これほどの重鎮たちが集まることは滅多に無い。

 それほど非常事態と言えよう。


 半円形の議場。

 俺は議長席に立つ。


「皆、今日はよく集まってくれたね。すでに知ってると思うけど、建国以来最大の危機だ。世界規模の戦争が起こる」


 全員が神妙な表情を浮かべている。


「デ・スタル連合国の侵攻は約一ヶ月後だ。一刻の猶予もない。早急に対応する必要がある。だから今回は俺が直接指示を出す」


 普段であれば俺が直接指示を出すことはない。

 各責任者からの報告に対し、許可を出すのが俺の仕事だった。

 だが、今回は時間がないため、全員俺の指示に従ってもらうつもりだ。


「俺とレイが不在の間、国家の運営に関することはユリアが全てまとめてくれ。判断は一任するし、ユリアの行動はその全てを許可する」

「承知いたしました」

「皆もユリアに従ってくれ」


 ユリアが優雅にお辞儀をした。

 現在のユリアは、ラルシュ王国に欠かせない存在だ。

 国家の運営という意味では俺やレイ以上だろう。

 他国からもラルシュ王国にユリアありと言われるほどだ。


「冒険者ギルドはリックがまとめてくれ」

「承知いたしました」


 リックがラルシュ式の敬礼をした。

 調査機関シグ・ファイブの局長リック・ライトは五十七歳となり、その存在はギルドでも一目置かれている。

 几帳面で仕事に対し常に真摯に取り組むため、部下からの信頼は厚い。

 リックはギルドが国営になった際に、フォルド帝国からラルシュ王国へ家族で移住してくれた。

 小さかった娘も今は大きくなり、俺は彼女とたまに釣りへ行く仲だ。


「ラルシュ工業はマルコとアガスが不在になる。ソンズ親方が頼りだ」

「お任せください!」


 ソンズが筋肉隆々の胸を叩いた。

 親方と呼んだソンズ・パーツは、ラルシュ工業がまだトーマス工房だった頃から働いている最古参の職人だ。

 高い技術はもちろんのこと、荒々しい職人たちを上手にまとめる能力も持つ。

 俺はたまに、街の酒場で親方や職人たちと酒を飲むことがある。

 トーマス工房時代は俺が会社のオーナーだったし、職人たちとは苦楽を共にした仲間だ。


「俺はノルンを探す。始祖二柱にも協力してもらう」


 ヴァルディは元々火の神アフラ・マーズとして知られている。

 エルウッドに関しては特に公表してないが、始祖であることはもはや公の事実だ。

 この二柱は、今やラルシュ王国の守り神として崇められていた。


「とにかく時間が足りない。明後日には出発したい。同行はレイ、シド、オルフェリア、ローザ、リマ、マルコ、アガス、エルザ、マリンだ」


 名前を呼ばれた全員が立ち上がって敬礼した。

 エルザとマリンも給仕のため議場にいる。


 俺は議場を見渡す。

 全員から強い意志を感じて口元が緩む。

 本当に頼もしい仲間たちだ。


「よし、それでは国家の総力を挙げてノルンを捕獲する」

「ハッ!」

「今日は全員で決起集会だ。好きなだけ食べて飲んでくれ。家族を呼んでもいい」


 全員から拍手が沸き起こった。


「さすがアル様!」

「ありがとうございます!」

「陛下! とっておきの一番高い葡萄酒を出してくださいよ!」


 最後はリマの声だな。


 ノルンの暴走を止めなければ、この愛すべき仲間たちが危険に晒される。

 いや仲間たちだけではない。

 国民が狂戦士毒バーサルクを浴びるのだ。

 そんなことになれば、国が滅ぶどころではない。

 世界が終わるだろう。


 俺に世界を守るなんて意識はない。

 だけど、目の前の仲間と国民は守ると誓った。

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