第7話 雷の模様がある鉱石

 注文した料理が運ばれてきた。


 ラバウト産の野菜を使った大盛りサラダ。

 ラバウト湖で獲れた大虹鱒オンコリの塩釜焼き。

 フラル山の樹海で狩猟した牛鶏クルツの極厚モモ肉ステーキ。

 ラバウト湖の湖畔で飼育されている水角牛クワイのミルクを使った氷菓子。

 昼食とは思えない豪華な食事だ。


 新鮮で瑞々しい採れたての野菜。

 身が厚く、しっかりと味が染み込んだ大虹鱒オンコリ

 肉汁が滴る牛鶏クルツ

 そして、初めて食べたミルクの甘い氷菓子。

 噂通り全てが驚くほど美味い。


 しかし、食事の量は多く、セレナは満腹のようだ。

 今朝山から降りてきたばかりで、腹が減っていた俺でも多いと思ったほどの量。

 だが、レイさんは平然と平らげていた。

 こんなに細い身体をしているのに凄い食事量だ。


「素材が違うだけで、これほどまで味が変わるのね。特に牛鶏クルツは地元で狩猟しただけあって、イエソンで食べたものよりとても美味しかったわ」


 レイさんが感動している。

 その食べっぷりに驚き、俺はレイさんの顔を凝視してしまった。

 レイさんは、そんな俺の目線に気付いたようだ。


「ふふふ、身体を動かすのが私の仕事なの。だから食事はとても重要なのよ。それよりアル君もよく食べるわね」

「す、すみません。今日はたくさん山を歩いたので」

「そうだったのね。食べることはとても大切よ。うちの団員も見習わせたいわ」


 身体を動かす?

 団員?

 レイさんは何か劇団でもやっているのだろうか。

 だけど、劇団員ならこの美貌も納得できる。

 そんなことを考えていたら、レイさんが笑顔で俺の顔を見つめていた。


「ところで、アル君は鉱夫なの? 鉱石を売りに来たって言ってたわよね」

「はい、そうです」

「そうなのね。では、ここら辺で珍しい鉱石が採れたって話は聞かない?」

「俺は希少鉱石を採掘してます。珍しいといえば珍しいですね」

「私は鉱石を見るのが趣味なの。紫色で雷の模様がある鉱石なんだけど、見たことないかしら?」

「紫で……雷の模様……。いえ……、そんな鉱石は見たことないですね……」

「そ、そうよね。……変なこと聞いてごめんなさいね」


 俺はその鉱石を知っている。

 だが隠した。

 会話に不自然さを感じたし、レイさんが俺の表情を観察していることに気付いたからだ。


「レイ様! よく来てくださいましたね!」


 その時、シェフが厨房から出てきてレイさんに一礼。

 俺とレイさんに気まずい雰囲気が流れたので助かった。

 レイさんはイエソンのレストランに通っていたと言っていたから、このシェフと知り合いなのだろう。

 二人で話をしている。

 その間、俺はセレナと食事の感想を言い合っていた。


 今回の支払いは全てレイさんだ。

 正確な料金は分からなかったけど、恐らく半銀貨五、六枚ほどだろう。

 昼食としては驚くほど高価だ。

 レイさんのお詫びということだが、逆に申し訳なくなってしまった。


 今の俺は金貨を持っており、懐具合はとても暖かい。

 ただ、ここで支払いをすると言っても、レイさんの面子もある。

 俺は素直にお礼を伝えた。


「レイさん、今日はごちそうさまでした」

「こちらこそよ、アル君。とても楽しい食事だったわ」

「俺のことはアルと呼んでください」

「分かったわ、アル。セレナも楽しかったわよ。ありがとう」

「いえ、こちらこそありがとうございました!」


 セレナと二人でお礼を伝え、レイさんと別れた。

 俺たちは市場へ続く道を歩く。


「レイさん、すーっごい美人だったね」

「うん。しかも剣術も凄かった」

「美人で強くて憧れちゃうなあ」

「イエソンの女性は、皆レイさんみたいなのかな?」

「そんなことないよ。レイさんが特別なだけだよ?」

「そうなんだ。俺もいつかイエソンへ行ってみたいな」

「あー、アルってば、レイさんに会いたいんでしょー」

「ち、違うよ! まだ行ったことがないからだよ!」

「その焦り、なんか怪しい……」

「ちちち違うよ!」

「違うって何がよ。バカ!」


 セレナの視線が痛い。

 その後もレストランやレイさんのことを話しながら、市場へ戻ってきた。


「あら、おかえり。遅かったわね」

「お母さん! 遅くなってごめんなさい! でも聞いて!」


 セレナがファイさんに経緯を説明した。


「そうだったのね。怪我はない? そのレイさんに、ちゃんとお礼しないとね」

「大丈夫よ、お母さん。それにしてもアルったら、レイさんに見惚れてばかりだったよ」

「だから違うって!」

「アハハ」


 無邪気に笑うセレナ。


「全く……。じゃあセレナ、俺は宿屋へ行くよ」

「うん、明日アルが帰る時に見送るね」

「分かった、ありがとう。じゃあまた明日」


 俺はエルウッドの顔を見て思い出す。


「あ、ファイさん。エルウッドが食べた野菜代を払います」

「いいのよ。アル君にもエルウッドにも、会えるだけで嬉しいんだから」

「で、でも……」

「いいのよ。また遊びに来てね」

「はい、ありがとうございます! エルウッド、お礼は」

「ウォン!」

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