第6話 王都から来た女性
女性は俺を見て驚いていた。
そこへ激怒したハリーが迫って来る。
「おい! てめえ、マジで殺すぞ!」
ハリーが女性の前に立つ。
だが同時に、ハリーの喉元には女性の
電光石火の突きだ。
あまりにも速すぎて、俺には見えなかった。
「おおおお……」
ハリーの額から汗が流れる。
「ハリーとやら、ここで死ぬか?」
「く、くそ!」
「立ち去れば見逃してやろう。だが二度目はないぞ」
女性は低い声で警告する。
「覚えてろ!」
ハリーは定番の悪態をつき、立ち去ろうとしていた。
俺は片手で持っていた
それを両手で受け取ったハリーは、乱暴な足音を立て道の向こうへ消えていった。
「驚かせてしまったようね。怪我はないかしら?」
女性が俺たちに向かって話しかけてきた。
ハリーがいなくなって言葉遣いが優しくなっている。
「はい、俺も彼女も大丈夫です。あなたも無事なようで良かったです」
「ふふふ、ありがとう。しかし、あれくらいはどうってことないわ」
Cランクの冒険者をどうってことないと言い切る女性。
「それより、あなたたちもこの店で食事かしら?」
「はい。彼女、セレナがこの新しい食堂に連れて来てくれたんです」
「そうなのね。ではお詫びにごちそうさせてもらうわ」
「え? それは悪いですよ」
「いいのよ。これも何かの縁だし、良かったら一緒に食べましょう。食事は一人で食べるより、たくさんの人数で食べる方が美味しいもの」
「わ、分かりました。では、お言葉に甘えてごちそうになります。ありがとうございます」
騒ぎで行列はなくなってしまったため、一部始終を見ていた店員が俺たちを店内に案内。
騒ぎが収まった後は、改めて店の前に改めて行列ができていた。
店内は広くも狭くもない、食堂としては一般的な広さだった。
カウンターとテーブルで合計二十席ほどある。
壁や家具は樫の木で統一され、落ち着く雰囲気の食堂だ。
案内された四人がけの丸テーブルにつくと、騒ぎを見ていた客から声がかかる。
「あんたたち凄いな!」
「よくやった!」
「なんだ、八百屋のセレナじゃないか。大丈夫だったか? それよりデートか?」
俺もセレナも一通り反応すると、各々また食事に戻った。
セレナは怒っていたが……。
これまでフードを被り顔が見えなかった女性がフードを取る。
「巻き込んでしまい申し訳なかったわね」
女性が頭を下げ、謝罪してきた。
金色の長い髪を後頭部で一本に結いている。
光沢のある前髪は、一本一本がまるで精巧な金細工のようだ。
真っ白な肌はきめ細かく、切れ長の目、紺碧の瞳、綺麗に通った鼻筋、ほのかに桃色をした薄い唇。
よく見ると恐ろしいほどの美人だ。
いや、よく見なくても凄まじい美人だと思う。
これほどの美人は見たことがない。
俺もセレナも思わず見惚れてしまった。
「私はレイ・ステラー。この店で食事をしたくて、王都イエソンから来たのよ」
「ア、アル・パートです。今日は鉱石を売りに市場へ来ました」
「セレナ・ベイカーです。この街で八百屋をやってます」
セレナはレイさんに興味津々の様子だった。
「レイさんは、わざわざイエソンからこの食堂のために来たんですか?」
「ふふふ。私はここのシェフのファンで、イエソンのレストランではよく通っていたのよ。でも突然移転してしまってね。本当は別の用事でラバウトへ来たのだけど、どうしても食べたくてシェフの店に寄ったのよ」
「そうだったんですね! じゃあ、ここは噂じゃなくて本当に美味しいんですね!」
「ええ、もちろんよ。イエソンでも人気のレストランだったわ」
「うわー、楽しみです!」
メニュー表を見て、レイさんが注文してくれた。
イエソンのレストランでも人気だったメニューがあるとのこと。
注文後、俺はレイさんに王都イエソンの様子を聞いた。
セレナと違い、俺はイエソンへ行ったことがない。
話を聞くと、大きな街だと思っていたこのラバウトですら、イエソンに比べると小さい街ということが分かった。
カルチャーショックを受けると同時に、俺はなぜか心踊る。
いつか行ってみたいと思ったからだ。
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