第8話

 この学校では、生徒会ってのはかなり特別視されている。

 役職は「会長・副会長・書記・会計・庶務」って言う、よくあるラインナップで、いつも六人くらいは選ばれるらしい。

 その面子ってのが、揃いも揃って「紫」で。なぜか、みてくれも美形ぞろいと来てるから、役員ってより、アイドルみてえな感じで憧れられてる。

 初めて生徒会を見た時にゃ、周りが急に「きゃーっ!!」て叫んでビビったわ。

 まあ、多分、男も憧れる男の集団ってことなんだろう。

 そんな生徒会に、ダチのイノリが選ばれちまったのは、俺にとって青天のヘキレキってやつだったよ。



「おい! 生徒会が、校庭で決闘するんだって!」


 バタバタと走ってきた生徒が、興奮もあらわに叫んだ。

 そのニュースに、廊下に溜まっていた生徒たちは、大騒ぎになる。


「嘘、開示されてなかったじゃん」

「それが、また臨時らしい! 見に行こうぜ!」


 「決闘」ってのは、この学校の名物だ。

 学校が推奨する、生徒同士の魔法バトルで、勝てば敗者に一つ要望を通すことが出来るらしい。

 さらに、入学時に決まった序列を変えることが出来る、唯一の機会なんだってさ。

 で、ここの生徒は決闘が大好きだ。

 何かにつけて決闘するし、ビッグカードの対決となれば、大盛り上がりになる。

 生徒達は、押し合いへし合いしながら、我先に校庭へと駆け出した。

 窓際に居た俺も、もちろん人の波に押し流されていく。


「おおい、俺、足がついてねえんだけど!」


 抗議の声を上げてみても、効果なし。

 どだい、興奮する男子高校生なんて、イノシシみたいなもんだからな。

 諦めて流されていると、周りの会話が聞こえてきた。


「なあ、今日は誰がやるんだ?」

「それが、三年の藤川さんだってよ。庶務の座をかけて、ってことらしい」

「マジ? 交代っても、もうすぐ卒業じゃん」

「諦めつかないんじゃないか。もうすぐ任期満了ってときだったし」


 好き勝手話す内容に、気になる言葉を拾う。

 庶務の座をかけて。

 三年の藤川。

 ってことは、今日の相手は恐らく――。


「ふん!」


 俺は、両脚にマンリキを込め、床をギュギュッと踏みしめる。両腕を突っ張って、人ごみを何とか押しのけると、いっきに囲みを抜けた。


「おいてめえ、押してんじゃねえよ!」

「すんません!」


 猛ダッシュする俺の背に、人垣から怒号が飛ぶ。

 廊下を駆け抜けて、生徒の隙間を縫いながら階段を駆け下りた。

 校庭に駆けつけると、すでに沢山の生徒が集まっている。

 生徒たちの中心に、ぽっかりと大きな空間が出来ていて、そこにさっき見た生徒会の顔ぶれがある。

 イノリもいた。さっき見たままの、眠そうな顔でポケットに手を突っ込んで立っている。

 と、生徒会の前に、黒髪の生徒が一人進み出た。

 見上げるほどのタッパがあり、なかなかの男前だ。紫色のネクタイを締めている。


「八千草、このような場を設けてもらって悪かったな」

「構やしませんよ。生徒会として、藤川先輩の挑戦を受けただけです」


 タッパのある黒髪――藤川先輩の言葉に、真ん中に立っていた物凄い美形が答えた。

 あの人は俺でも知っている、生徒会長の八千草先輩だ。なんつうか、男なら一度はこんな顔に生まれて、ぶいぶい言わせてみてえってイケメンだ。

 会長の言葉にふっと笑うと、藤川先輩は気合全開で叫んだ。


「三年C組、藤川誠之助。生徒会庶務の座をかけ、生徒会庶務・桜沢祈に決闘を申し込む!」


 どよ、と生徒達が騒めいた。


「おい、桜沢くんとか? 庶務なら海棠くんもいるのに」

「やっぱ、雪辱を晴らしたいってやつ?」


 こそこそと囁き合うのが聞こえてくる。

 俺は、悪い予想がドンピシャで、腹がすげえ痛かった。

 だって、藤川先輩って言ったら、イノリと入れ替わりに庶務を辞めた人だって、聞いてたからさ。


「また、幹部入れ替わりの決闘かあ。おもしれえな」

「桜沢くんが残留するか、藤川先輩が奪還するか。見ものだね」


 興奮気味に、周りの生徒が囁き合う。

 びっくりなんだが、この学校の生徒会の選出に、選挙はない。

 こうやって決闘で、役員の席の奪い合いがされている。民主主義とか、ねえんだよ。

 そりゃ、生徒会が、「紫」ばっかになるのも頷けるってもんで。

 魔法の「強い」奴から順に、席を取るから。自然、「紫」ばかりになるってわけだ。いや、どこの世紀末なんだって話だよ。


「さて。ご指名だ、桜沢。受けるか?」


 八千草先輩が、不敵に笑ってイノリを見た。一応、聞いてるけど、「YES」以外は認めねえ、そんな言い方だった。


「受けますよ。それ以外ないんで」


 イノリもわかっているらしく、ため息を吐くと、前へ歩み出た。

 そのとき、イノリがこっちを見て、一瞬だけ目があった。


「イノリ――」


 けど、すぐに目が逸らされる。もう、いつものことだ。そのことに、胸が痛くなるのも。


「生徒会庶務・桜沢祈。藤川誠之助の挑戦を受けます」


 イノリが涼しい声で宣言し、決闘は始まった。



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