第7話7
コウが、普通のアルファなら…
コウ自身からフェロモンが出て、アキ王子のオメガのフェロモンも感知できたら…
コウは、アキ王子からの逆プロポーズはYESと言ったかも知れない。
そして、すぐにでもベッドに二人で向かい、本能のまま激しく絡み合い結ばれたかも知れない。
しかし…
コウには、それが出来ない。
コウは、再びアキ王子の表情を探るように見詰めた。
やはり、アキ王子はとても真剣で、コウをからかっている、又は貶めている感じは全く無かった。
だから流石のコウもそれを見るに、逆プロポーズの答えを告げるのに胸が痛まなかった訳ではなかったが…
その前にコウは、アキ王子から握られる手をそっと剥がそうとした。
すると…ごく自然に…
アキ王子の美貌が、すっとコウの眼前、息がかかる位の所に来た。
すぐに驚き固まるコウとアキ王子は、すぐ近くでしばらく見詰め合った。
そして、コウの唇に、アキ王子の唇の方からそっと触れかけた。
今度は、オメガからアルファに逆キスするつもりだ。
しかし、唇同士が重なる寸前にコウは、咄嗟にアキ王子の手から自分の手を開放し、ベランダの床に跪いた。
そして、コウのスパイキーショートヘアの頭を深々と下げ言った。
「アキ殿下…アキ殿下には、もっと、アキ殿下に相応しい素晴らしい御方が…アルファが必ずやおられます。何卒、私の事はお忘れ下さり、無かった事に…」
「コ…ウ…」
そう絶望したかのように呟くと、アキ王子の絶世の美貌が歪んだ。
だがすぐアキ王子は床に両手をつき、まだ頭を下げていたコウの顔を下から覗きこんで言った。
「コウ…どうして?私がキライではないのだろう?」
コウは、その返事に戸惑った。
相手が王子と言う身分だから言えないのか、違う理由だからなのか?
ハッキリ答えられない。
しかし、ハッキリしてる言える理由が一つだけあった。
「殿下…私は7日後、この王都から危険な領地、ハイリゲンへの追放…あっ、その…赴任が決まっております。ですから…」
すると…
喜々としたアキ王子の声が返って来た。
「それなら心配無い、コウ!私がアルフレイン公に口添えして、今回の赴任の件は今すぐ取り消させよう!」
「?!」
コウは、その提案に思わず体が固まった。
確かにこれは、コウにとっては又と無い好機だ。
赴任する領地ハイリゲンは、危険な魔物と危険なキモ動物、盗賊の巣窟だ。
ほぼほぼ、コイツ等とのエンカウント回避は不可能。
コウは、自分の剣に硬度、耐久性、ポータビリティなどのエンチャントはこつこつしてきたが…まだまだ足りない。
コウがハイリゲンで生き延びる為のライフハックは、かなり高度で難を極めるだろう。
そして、領地の民の多くは皆本当に貧しいらしい。
アルフレイン公が言うには、ハイリゲンの民は、知能が低く働き方が下手で豊かにならない、自業自得らしい。
だが、それと同じ位にコウを悩ませていたのが…
コウの領地までの旅費と領地管理費とコウの生活費だった。
父のアルフレイン公から与えられる予定の予算が余りに少なかった。
普通アルフレイン公が息子や親族、臣下に領地管理に向かわせる時に渡す予算の半分しか、コウには渡されない。
これでは金のやりくりが難しく、無事に領地にすら辿り着けるかも分からない。
その為コウは、何度かアルフレイン公に抗議したが、貧しい領地の管理にはそんなに金はいらぬと、その度に冷たく一蹴された。
そして金が足りないなら、自分で魔物や怪物を狩り、それで金を稼ぎ何とかしろとも言われる始末。
兎に角、同じ言語を喋っているのに、血の繋がった親子なのに、コウとアルフレイン公の会話は絶望的に噛み合わなかった。
「くっそジジイが!!!」
その度にコウは、見た目若い父に面と向かいそう吠えた。
そして、抑え切れ無い苛立ちそのままに、アルフレイン公が見ている前で、アルフレイン公の部屋の高額な椅子とドアを躊躇無く思いっきり蹴って破壊し部屋を出た。
ただしかし…
この国で権力者アルフレイン公に真正面からこれだけ楯突くのは、コウと亡きコウの母くらいだった。
国王でさえ、アルフレイン公には一目置いて気を遣っているのに。
普通ならアキ王子の提案に、王子と結婚して贅沢な暮らしも出来るし、危険な赴任もしなくてもよいとなれば、しめたとイエスと言うだろう。
しかし…
コウは、それは気が乗らなかった。
そして、赴任にかかわる大きなコウの悩みは…他にもあった。
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