第3話 桜の蕾の下、出会う
隆太が高校一年生の二月。
次期生徒会の選挙が行われている。隆太はそっと真澄に投票した。
その帰り、少し雪が積もった桜の枝にふと目を奪われた。どうして目を奪われたのかよく分からなかった。
高校二年生に進級し、桜が咲いた。
生徒会長になった真澄が堂々と全校生徒の前に立つ。
真澄さんは桜がよく似合うと隆太は思った。
そして、冬に桜の枝が気になったのは桜の下を走る真澄を思い出したからだと気づいた。
桜を見ていると桜と共にあった記憶が目に見えるかのようにはっきり浮かんだ。
『正式に部活になったよ。本当によかった!』
真澄の笑顔が隆太の中で蘇った。
桜並木の通学路を歩けば校門で挨拶をする真澄と会う事がある。
その度に隆太は少し緊張するのに真澄は誰にでも同じとびきりの笑顔なのだ。
桜と真澄が結びついて、一年前の真澄を鮮明に思い出す。そして今の真澄はもっと素敵な人だ。
どうしてこんなに凄くて、尊敬できる人がいるのだろうかとぼんやり考えた。
真澄の卒業式。
涙の気配を抑えた真澄の卒業の挨拶は素晴らしかった。
桜舞う中、生徒会で記念撮影をしているのが見えて、遠くから眺めた。メンバーの真ん中にいる真澄は赤い目で爽快な笑顔を浮かべている。
三年生になった隆太は桜を見る度に真澄を思い出す事に苦しみ始める。
真澄とはもう会えないと理解していても思い出す。
高校三年の初夏。大学のオープンキャンパスに参加した。バドミントンサークルが賑やかで楽しそうな事と優しそうな教授が多い事に惹かれた。
オープンキャンパスを企画する学生会の中に真澄がいて息を呑んだ。まさかここにいたなんて。
この大学にすると決意してぶれずに受験勉強を続けた。
三月の初めの合格発表。インターネットで見てもよいのだが隆太は電車に乗って大学まで足を運び自分の目で見る事にした。そわそわ落ち着かず、あと何駅、とじれったく数えてようやく大学に辿り着いた。
合格だ。
嬉しくてしばらく掲示板の前に立ち、念のため間違いじゃないか確認しようと鞄の中の受験票を出し、再び照らし合わせた。やはり合格だ。
突風で飛んだ受験票を追いかけるとキャンパスの桜の蕾が膨らんでいる事に気づいた。
ずき、と胸が痛くなった。
またしても思い出す。夏から冬まではそれなりに平気だった。素敵な先輩の思い出で済ませる事ができた。でも桜が咲くともう駄目だ。痛い。
同じ大学にいたって会えるか分からない。
合格者を載せる掲示板がこれ程大きいのだ。
四年間会えなくてもおかしくない。
もしかしたら馬鹿な事をしたのかもしれない。全く違う所に行った方が良かったかもしれない。
どうして今更気がつく。土が付いた受験票が悲しくなる。
『あれ?』
隆太は驚いて声が出せず動く事もできずにいた。
『あなた……ここの大学なの?』
真澄だ。
あと少しで咲き誇る桜の下にいる。
実はその後の事はよく覚えていない。
食事でもどうかと真澄に誘われた。ファミレスでごめんねと謝られ、いえそんなと首を振ったのは覚えている。
どういうわけだか次回の誘いもあり、三回目の食事の際の別れ際に映画に誘われた。真澄が選んだのは恋愛ものだった。こういうのが好きなのかと新鮮に思った覚えがある。
その次のデートは今までの昼食とは違い夕食だった。隆太は緊張した。前日に床屋に行き、服はこの日のために買っておいたものを着た。
『よかったら、私とお付き合いしてくれる?』
隆太が大きく頷くと真澄はにっこり微笑んだ。その後真澄の部屋に誘われたが終電に間に合わないため断った。
その時の隆太は浮かれていた。
それから大学に入学し真澄との付き合いが一月近くなり、何かがおかしいと思い始めている。
高校時代の真澄と何かが違う。結びつかない。
良い変化ならいいけれど、良い変化と言えるのか隆太には分からなかった。
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