有鱗堂しかシラナイ世界 R.B.ブッコローのもう一つの仕事

白鷺雨月

第1話R・B・ブッコローのもう一つの顔

有隣堂の岡崎弘子のもとを一人の少女が訪れた。

年のころは十四才ぐらいだろうか、と弘子は思った。彼女の予想通り、中学二年生とのことであった。

ボブカットの髪型で瞳の大きな、なかなかにかわいらしい少女だった。

まるで若いときの私みたいと弘子は心の中で思った。


場所は有隣堂のカフェ。

エプロン姿が似合う、かわいい店員がカフェオレを二人の前に置く。

この娘も若いときの私みたいだわ、と弘子は根拠なく思う。


「それでどうされたのですか?」

弘子は一口カフェオレを飲み、少女にきいた。


「はじめまして私、田中たなか深雪みゆきといいます」

ペコリと深雪は頭を下げる。

「あの……私、友だちから聞いたんですけど……」

そこで深雪はひとつ小さな深呼吸する。

「岡崎さんに頼めば法ではさばけない悪い人をやっつけてくれるって」

意を決して、深雪は言う。

その言葉を聞き、弘子はすっと眼を細める。

エプロンのポケットにささるボールペンを取り出し、メモ帳を開く。


「私じゃなくてそれはブッコローの仕事ね。あなたは有隣堂ではなく有鱗堂に仕事を依頼したいということね」

弘子は言う。

「それではお話を聞きましょうか?」

と弘子はきく。



深雪の友人がとある男性に騙されて、裸の写真を撮られたのだという。その写真をもとに金銭だけではなく、身体の関係も要求してきているのだという。



「それは許せないわね。あとは私たちにまかせなさい。あとよかったら有隣堂の方で文房具買っていってね」

弘子は深雪から、その脅迫相手の連絡先をきき、カフェを後にした。



夜になり、岡崎弘子は深雪の友だちのふりをしてその男を繁華街に呼びだした。

「私、中学二年生でも通じるみたいね」

一人言をしているとどこからかオレンジのみみずくがあらわれ、んなわけねーだろと機械的な声で言う。

しばらくしてキョロキョロと周りを見ているあきらかにチャラい男があらわれる。

「あなたが木村友美さんを脅迫している秋葉修一さんですね」

弘子は声をかける。

「な、なんだ。ババアに用はねえよ」

チャラい男、秋葉修一は分かりやすい悪態をつく。

「誰がババアだ!!」

ババアと呼ばれて弘子は切れる。

「とっとと終わらせるわよ」

エプロンから万年筆を取り出し、黒い革の手帳になにやら書き出す。

そのなにやら書いたものにR・B・ブッコローはふーと息をふきかける。

「このノートに書いたことはすべて真実になるの」

弘子はニヤリと笑う。

「まあ俺が息を吹きかけないと効果は出ないけどな」

はははっとブッコローも笑う。


「さあ、あなたは木村友美さんのことをすべてわすれて、ここで裸になって一晩中立っているのよ」

勝ち誇った顔で弘子は言う。


「わかったよ」

大人しく秋葉修一は言うと服をすべて脱ぎ捨て、そこで棒立ちした。



「さあ、一仕事終えたし飲みに行きましょうか」

弘子はブッコローに言う。

「いいぜ、焼き鳥でも食いにいくか」

ブッコローは答える。

「ブッコロー、あんた鳥なのに焼き鳥食べるのね」

弘子はあきれて言った。

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有鱗堂しかシラナイ世界 R.B.ブッコローのもう一つの仕事 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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