第2話 揉める冒険者
騎士団との合同探索を終えて、俺たち〈エルドラド〉は冒険者ギルドへとやってきた。
夕方のこの時間帯は、色々な冒険者が帰ってくるのでとても混雑している。
むむ。ギルド内を歩いているとなんだか視線を感じるな。
ここ最近は誰かに見られている気がするんだが、まぁ気にしても仕方がない。
のんびり受付の列に並び順番を待っていると、何やら言い争う声が聞こえてきた。
「だからテメェらみたいなのは、この額で十分だって言ってんだろ!」
「なんでだよ! 話が違うじゃないか!」
言い合っているのは、青年の冒険者と少年の冒険者だ。
青年の方はそれなりに装備が整った印象だが、少年の方は使い古された心許ない装備をしている。
「それはこっちのセリフだ! たいした実力もないのに、何が、俺たちは迷宮で役に立つだ。調子のいいこと言いやがってよぉ!」
「ちゃんと役に立っただろうが!」
「どこがだ! あんな雑魚の相手しか出来ないなら、荷物持ちと同じじゃねぇか!」
「まだ成長途中なんだよ! それくらい大目に見ろよ!」
なかなか醜い争いが繰り広げられているな。
どうも報酬の事で揉めているようだが。冒険同士ならままあることだ。
そう思い眺めていると、俺たちと同じようにこの喧嘩を見ていた冒険者の声が耳に入ってきた。
「あのガキ、また冒険者としての報酬を強請ってやがるのか」
「あいつらは孤児院出身だからな。金とか報酬をちょっとでも増やそうと必死なんだろ」
なるほど、装備が整っていない少年は元孤児院の子か。自身を大きく売り込んでいたのだろう。
「大事な命がかかってんだぞ、大目に見れるわけないだろ!」
「こっちだって、仲間を食べさせなきゃいけないんだ! 命かけてんだよ!」
「それとこれは別だろ! くっそぉ、これだから孤児はダメなんだ!」
何を言われてもめげない少年に対して、冒険者の青年は苛立たしげに頭を掻く。
そんな2人の元へ、うちのニーナがズカズカと近づいていった。
そして青年の方へと詰め寄る。
「ちょっと聞き捨てならないわね。これだから孤児はダメってどういう事よ!」
「なっ、どういうも何も、そのまんまの意味だ。騙して金を取ろうとしてくるんだぜ!」
いきなり現れたニーナに面食らいながらも、青年は身振り手振りを交えて必死に主張する。
「騙してねぇって! ちゃんと役に立ったって言ってんだろ!」
「だからそれが嘘だって言ってるだろう!」
ダメだなこりゃ、どこまで行っても平行線だ。
再び揉め出した青年と少年。
それを間近で見たニーナはため息を吐くと、大きな声で言った。
「いい加減にしなさいアンタたち!!」
ニーナの大声が、辺りを支配する。
そしてニーナは少年を指差して告げた。
「まずアンタ。いくら仲間のためだからって言っても、実力を過大申告して仕事を受けるのは良くないわ!」
「いや、でも、そ……」
「ましてや冒険者なんて命がかかってんのよ! 誤った情報は自分も、仲間の命も危機に晒すんだから絶対にダメよ!」
ニーナのすごい剣幕に負けて、あうあうする少年。
まぁニーナの言ってる事は本当のことだしな。冒険者として当然の考えだ。
「それにね。地道に冒険者をやっていれば力がついて、いずれは納得のいく報酬になるんだから。焦らず死なずに続けることが大事なのよ。わかった?」
「……っち。わかったよ!」
ばつが悪そうに少年は返事をする。
ニーナは満足そうに頷くと、今度は青年へと向き直った。
そしてアンタは……と今度は青年を指差しながら言う。
「後になって報酬の減額なんてやったらダメよ! 一度決めた報酬なんでしょ、ならそれはきっちり払いなさい!」
「だけどよ! あい……」
「だけどじゃないの! あの子の反応を見ていたらわかるわ。事前に減額の取り決めもしてないんでしょ?」
「それは、そうだが……」
「なら払うものはキッチリ払いなさい! じゃないとアンタが報酬を値切るズルいやつって話が広まるわよ!」
「……くそっ。もうこれっきりだぞ!」
ニーナにガッツリ詰められた青年は、荒々しい手つきで小銭の入った袋を少年に投げた。
これもニーナの言い分が正しい。
期待外れだったから減額ね、なんて後になって言い出しても、こじつけにしか聞こえないだろう。それなら、場合によっては報酬を減らすと事前に言っておくもんだ。
とはいえ、報酬関連で揉めるのは冒険者あるあるだ。
大抵はそのギルドのベテラン冒険者が出てきて仲裁したりするはずなんだが、ニーナで良かったんだろうか。誰も何も言わないからまぁいいか。
ただ、ニーナが出張った理由は仲裁だけじゃないと思うんだよな。
「もう一つアンタには言うことがあるわ!」
話が終わったように見えたが、ニーナが青年を呼び止める。
「なんだよ? 報酬ならちゃんと払っただろ」
「それはもういいわ。アンタ、さっきこれだから孤児はダメだって言ったでしょ!」
「は? それの何が悪いんだ。こいつらは金に意地汚いで有名なんだぜ?」
青年は不機嫌そうに、顎で少年を指して言う。
「孤児全員がダメなわけないじゃない! それを孤児って一括りにして扱わないでよね!」
「ほとんどの孤児が金にうるせぇんだぞ。ズルいことだって平気でやるモンが大半だ。まとめて扱ったって大して変わりはしねぇよ」
「ダメよ! 孤児全部がダメなんて偏見はやめてよね!」
「ウルセェなぁ、それが姉ちゃんになんの関係があるってんだ」
しつこく絡んでくるニーナに対して、青年は面倒そうに返す。
「私も元は孤児だったのよ! それでもちゃんと冒険者をやれてるし仲間だって出来た。孤児だってちゃんと接してあげれば、立派になるんだから!」
ニーナの言葉を聞いた青年の顔が怒りに染まっていく。
「はぁ!? やってくれたなぁ……テメェもこのガキの仲間だったってわけか! そうまでして金が欲しかったのかよ!」
「ち、違うわよ! 私はただ孤児でもちゃんとやれるっていうことを」
「あーうるせぇうるせぇ! くそっ! 大損こいちまったぜ」
青年は苛立たしげにニーナの言葉を遮ると、俺たちの方を向いた。
「たしか〈エルドラド〉だったか。ベテラン達が一目置いてるからって、調子乗るんじゃねぇぞ。こんな元孤児がいる時点で……」
「だらっしゃあああぁぁぁぁぁっ」
青年が忌々しげにこちらへ言葉を放っていたところに突然、大きな男が飛び込んできた。
あれはこの街で初めて冒険者ギルドに訪れたときに話しかけてきた、おせっかいなおっさんだ。名前はメイザスだったかな。
メイザスはもの凄いスピードで青年にぶつかると、そのまま青年をギルドの表にまで担いで行った。
俺たちもニーナも、あまりの突然の出来事にポカンとしてしまう。
一体何が起こったんだ?
しばらくギルドの入り口を見ていたが、青年が戻ってくる気配がない。うーん。まぁいいか。
青年がいなくなった事で騒動も終わりを迎えたのだろう。ギルド内は平常運転に戻って行った。
取り残されたニーナが、今度は少年の方へと向く。
「まぁ、これで解決なんだろうけど、もうこんな無茶な真似はしないようにね」
「……ふんっ。俺は別に助けてくれなんて頼んだわけじゃねーし」
少年はそう言ってそっけない態度を見せると、そそくさとギルドを出ていった。
愛嬌のないガキンチョだなぁ。
ニーナもやれやれといった顔をしているぞ。
連れ去られた青年は気になるが、これで一件落着だな。
さっさと精算して拠点に帰るとするか。
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