第15話 その頃迷宮では
迷宮に入ると元気な声と共に、アシュレーが駆け寄ってきた。
「あ! リュウ兄〜!」
「待たせたな、みんな」
冒険者ギルドで買取情報の確認をしていたので、仲間たちには先に迷宮で待ってもらっていたんだ。
「自分は準備が必要でしたから、ちょうどいい時間でしたよ」
そう言って撮影用の魔道具を構えるジークは、どことなく嬉しそうにしている。
「そういえば、ジークの持っている撮影の魔道具って、この時代からすれば骨董品なんじゃないのか?」
街に溢れていた魔道具の数々を思い返すと、本当に色々なことができるようになったんだなと感心する。
その反面、ジークの持つ魔道具はもう使い物にならないのではとも思った。
「そんなことはありませんよ。意外とこの魔道具は優秀でして。というのも……」
ジークが言うには、この時代の魔道具は出力が低く、力不足なところが否めないらしい。
原因は低品質な魔石を主な動力源にしてるからだとか。
その点、希少な素材を使い、マヤという凄腕の職人が作ったこの魔道具は、高品質魔石が前提のハイクオリティ品なんだとか。
「なのでリュウイチ様の素晴らしい姿は、完璧に撮っておきますので、安心してください」
何をどう安心したらいいのかわからないが、お、おうと返事をしておいた。
「しかし、マヤの魔道具がこの時代でも通用するなんて、流石だな」
〈エルドラド〉生産部門の1人であるマヤは、みんなの道具全般を扱っている。
俺たちの時代でも飛び抜けて優秀な錬金術師だったが、千年後でも使える魔道具とか凄すぎる。
俺が尊敬の眼差しを送ると、マヤは顔を逸らして何やら言い出した。
「ま、まぁ、アタシは天才だからね。それにこの時代の魔道具は、精密になった反面出力が無いから、案外使い辛いし」
なるほど、進歩したとはいえ場合によっては良し悪しが違うんだな。
この言い草だと、マヤはもうこの時代の魔道具を理解し始めてるってことか。
俺たちの会話を聞いていたニーナが、小首を傾げながら言う。
「そういえば、何か作ったって言ってなかった? この時代の魔道具を改良してみたって」
「おぉ! もう何か出来ているのか?」
俺が期待を込めた目で見つめると、さらにそっぽを向いたマヤが言う。
「まぁね。動作テストもかねて迷宮の奥で使うつもりだから、それまで待ちなさい」
「そう言うことなら、早速第5層に向かうとしようか」
どんな魔道具なのか早く見たいからな。
数時間後。
「こちらリュウイチ、アシュレー聞こえるか?」
『アシュレーです! 聞こえます!』
耳に取り付けた魔道具からアシュレーの声が聞こえてくる。
「そっちに5体ほど魔物が流れたから、煮るなり焼くなりしてくれ」
『了解です!』
今、俺の耳に取り付けているのが、マヤが改良したという魔道具だ。
離れた場所の相手とも会話ができるという機能を使い、別の場所にいるアシュレーと瞬時に連絡を取り合った。
「マヤ、これ便利すぎないか」
『そうでしょ。街にあった魔道具は出力が低くてこんな使い方は出来ないんだけど、4層とか5層の魔石を使ったらあっさり解決してね』
普通はあっさり解決はしないだろう。マヤだからこそ出来た芸当だと思われる。
離れた場所の仲間とすぐに意思疎通ができるのはとても助かる。助かるが、少々問題もある。
『うおぉぉぉぉぉぉ。新しい素材だぞぉぉぉぉぉ!』
『未知の敵を発見した。これより修行に入る。絶対に手を出さないように』
『リュウイチ様、そこで少し遠くを見つめてもらってもいいですか? そうです! いい絵が撮れてますよ!』
迷宮ではしゃいでいる一部の者たちの声がうるさい。
クラリスなんかは、うるさすぎて外してしまっているぞ。
今は目新しさも加えた騒がしさだから、慣れて落ち着けばもう少しはマシになるはず。それまでは我慢かな。
ある程度探索も進んだので、他の仲間の様子も見にいってみるか。
「アシュレーとクラリスはまた、たくさん仕留めてるな」
もともと二人は狩りが得意な方だったからか、第5層でも食材になりそうな魔物をどんどん仕留めていた。
「おっにくー! たくさんだよー!」
「迷宮からの恵みですから、ありがたく仕留めさせていただきました」
実のところ、第5層の敵は4層以前と比べて強くなっているとはいえ、俺たちにはそこまで脅威でもなかったりする。
なので、この二人のように探索ついでに食材や資源を集める余裕まであるんだ。
今度はドルディオの元へ向かった。
大量の死骸を相手に素材の剥ぎ取りをしてるようだ。
「どうだ、素材は順調か?」
「おう、リュウイチか。新しい素材が山のようにあるなんて、ここは天国だな。ガッハッハ」
そこへセシルが魔物の死骸を持って現れた。
「こいつは、なかなかいい爪をしていた。次はあの飛んでいるやつを試してくる」
セシルはそう言うと、ドルディオの前に死骸を置いて、次の魔物の元へすっ飛んでいった。
これは永遠に終わらないのでは? いや、魔物が尽きれば終わるか。
ドルディオは素材に、セシルは魔物に夢中なので放っておいて、ニーナ達のところへ向かおう。
「ん? なんか来たわね。どうしたの?」
マヤと話していたニーナが、俺たちに気づいて話しかけてきた。
「こっちの様子を見にきたんだ、どんな感じかと思ってな」
見たところ普通に魔物と戦いながら探索しているようではあるが。
「特に目立ったことはないかな。マヤとお喋りしながらぼちぼちやってたのよ」
「まぁね。この程度のなら片手間で対応できるから、街で見つけた魔道具の話をちょっとね」
なにそれ、魔道具の話すごく気になるんだが。
「この通信の魔道具もすごいでしょ。だから他にも便利なものがあるのかと思って色々聞いていたの」
「おぉ、そう言うことなら俺も教えてほしいことがあったんだよな」
街の色々な場所で魔道具が使われていたが、一番印象に残ったのは魔力紋の魔道具だ。
冒険者ギルドや迷宮の入り口で何度か使ったが、どうなってるのかサッパリわからん。
「あの魔力紋で調べるやつは、あれはどうなっているんだ?」
手を触れただけで登録者情報がわかるってどうなってるんだか。
「あぁ、あれはこの時代の魔道具の中でもややこしい方だねぇ。言っても分からないかもしれないけど、いいかい?」
俺は大丈夫だと頷いた。
意外と分かるかもしれないからな。
「魔力紋を感知する部分は、比較的単純なんだけどね。触れたものがどういう魔力の形をしているかを測っているだけだから。ややこしいのはその先。得られた魔力紋のパターンを奥にある情報が詰まった箱に送って、合致する情報があればそれを引き出してくるようになっているの。ここで肝になるのは情報の詰まっている箱だね。この箱は、無数の魔道具を組み合わせて作られていて…………」
「ごめん、無理だ。単純な魔道具じゃないってことだけ理解した」
マヤが何を言っているのか全く分からなかった。
「だろうねぇ。アタシでも完全な理解はまだ無理だし」
そんな上級者向けの魔道具だったのか。なら他の魔道具はどうなんだ?
「迷宮ランクを測るやつも、ややこしいのか?」
2回もエラーが続いてしまったので、測定を延期している魔道具だ。
あれもこの時代に来て見つけたヘンテコ魔道具の代表だな。
「そっちは単純。アタシらの魔力の馴染みを測っているだけだから」
「魔力の馴染み?」
なんか聞いたことあるようなないような。
俺が疑問符を浮かべていると、ニーナが説明をしてくれた。
「あれでしょ、魔力の馴染みって迷宮の魔物を倒していると、扱える魔力量が増えたり、魔力操作が向上する現象のことでしょ」
あぁ、そういえばそんな話を聞いたことがあるな。かなり昔だが。
「正解。千年前でも魔力に馴染んでいる人ほど強いというのが定説だったわよね。今は魔道具でどのくらい魔力が馴染んでいるか数値化出来るってこと。それが迷宮ランク」
ほー、さすがは千年後だ。よく練られたもんだ。でも、少し気になるところもある。
「しばらく迷宮に入っていないと、迷宮ランクが測定できなくなるってのは、なぜなんだ?」
俺たちが測定でエラーが出たのもこれが原因だと言われたんだ。
「迷宮の魔物を倒していない期間があると、魔力の馴染みは抜けていくからね。それが長期間の場合は、完全に魔力の馴染みが無くなって測れなくなる」
「あれ? じゃあ俺たちが2回目測れなかったのはなんでだ?」
「それはよくわかってないね。でもアタシたちって特殊な立場だから、他に理由があるのかも」
千年前から来たことで、魔力の馴染みが変になっているとかか、ありえるな。
しかし、さすがはマヤだな。色々と魔道具について理解が深まった気がする。
「ところでさ、リュウイチは見回りなんでしょ。ジークは何してんの? さっきからずっと周りをちょろちょろしてるけど」
俺がうんうんと頷いていると、ニーナが俺の周囲にいるジークに言及した。
「撮影に決まっているでしょう。見て分からないのですか?」
不遜な態度でニーナの言葉に反応するジーク。
今日のジークはずっと俺の周りで撮影してるんだよな。
久しぶりなのでしっかり撮りますって張り切ってたし。
ジークの返答を聞いたニーナが青筋を浮かべる。
あ、これヤバいやつだ。
俺が危険を察知して身構えた瞬間、ニーナの大音声が響いた。
「アンタもちゃんと迷宮探索しなさいよおぉぉぉぉ! このリュウイチヲタクがあああぁぁぁ!」
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