規格外パーティが千年後に来たんですが 〜滅亡に向かう人類の前に現れたのは、古の伝説のパーティでした〜
虎とらユッケ丸
第1章 伝説の帰還
第1話 千年後へ
「俺は千年後の世界ってやつを楽しみにしていたんだがな」
突然、戦場に現れた男は切り裂かれる魔物を見て呟いた。
魔物と人、両陣営から注目を浴びる男。
男がゆっくりとした足取りで魔物の軍勢へと向かう。
動き出した男を仕留めようと、次々と魔物が襲い掛かる。
しかし次の瞬間には両断された物言わぬ死体になっていた。
この程度のことで男の歩みは止まらない。
「面白そうなものや興味深いものが、これでもかってくらい溢れてるんだ」
ようやく男に近づけないと気づいたのか、魔物の侵攻が止まる。
たった1人の男によって、魔物の大群が動きを止めた瞬間だった。
「本当はこんな面倒ごとに首を突っ込む時間すら惜しいんだ」
だが、魔物も馬鹿ではない。
男から見えない場所で、再侵攻のための行動を起こす。
「だけど、あいつの頼みだからな」
門と周囲の壁が一斉に崩れ落ちた。
開けた視界の先、平原を埋め尽くす大量の魔物が視界に飛び込んでくる。
それを見た男は、魔物をまっすぐ睨みつけて言う。
「最強のパーティ〈エルドラド〉の力を見せてやる」
次の瞬間、男から放出された莫大な魔力が辺り一面に吹き荒れる。
その異様な光景に人も魔物も理解が追いつかない。
あの存在は一体何なのか。
────
これから俺たちは千年後に向かう。
普通に考えたら千年後なんて行けるわけがない。
だが、もし行けるとしたら?
それでもわざわざ行くことを選ぶのは少数派なんだろう。
しかし、この世界のほぼ全てを冒険し尽くして、新たなる冒険を渇望していたなら?
平和になったこの世界では得られない刺激を欲していたなら?
この目で千年後の世界を見てみたい。
これが俺が導き出した答えだった。
両親とは話し終えて別れの挨拶も済ませてある。
二人とも俺のやることに対して諦めの境地に達しているのか、普通に送り出された。
あとは目の前にいる涙目の弟だけだ。
「じゃあなリオン。後のことは頼んだぞ」
俺は迷宮門で、弟のリオンに別れの挨拶をしていた。
「……リュウイチ兄様もお元気で」
返ってくるリオンの声は暗い。
成人したての十五歳に、今生の別れというのは酷だったな。
俺はリオンの頭を乱暴に撫でる。
「いいかリオン、俺が未知を求めて家を飛び出したのは知っているな?」
「もちろんです。その結果、冒険者になって世界を飛び回っていたのですよね」
面白そうなことを見つけると居ても立っても居られないのが俺の性分だ。
そんな俺の行動を間近で見て育ったリオンはよく知っている。
「今度は千年後がどうなっているかを突き止めに行くんだ。これは俺たち冒険者の性分でもあるし……なんていうのかな、そういうクエストなんだよ」
「……クエストですか?」
キョトンとした表情のリオンに俺は真顔で答える。
「あぁ、クエストだ。冒険者といえばクエストだろ。今回の依頼は千年後の調査、依頼人は俺の魂だ」
ドスンと自分の胸を叩いて魂の存在をアピールする。
「リュウイチ兄様の、魂の、クエスト……」
俺の言葉を何度も呟いていたリオンが顔を上げて答える。
「わかりました、リュウイチ兄様との別れは寂しいですが、僕も覚悟を決めました。今後のことはお任せください」
リオンの真剣な眼差しを受け、思わず笑みが溢れる。
どうやら俺の思いが伝わったようだ。
これなら安心して出発できる。
「あぁ、任せたぞ」
最後に弟の成長を見ることができて良かった。
これ以上力になってやれないのは悔しいが、リオンなら大丈夫だろう。
「リュウイチ兄様もクエストの達成、頑張ってください」
本当によくできた弟を持って俺は幸せ者だ。
だからこそ、兄として情けない姿を見せるわけにはいかない。
「安心しろリオン。俺たちは世界最強のパーティ〈エルドラド〉だからな」
弟と別れた俺は迷宮最下層に到着した。
すでに俺以外のパーティメンバーは揃っている。
サブリーダーで魔法使いのニーナ。
もう一人のサブリーダーで騎士のジーク。
エルフの射手のクラリス。
獣人族の戦士、アシュレー。
和装の錬金術師のマヤ。
鬼族の武器職人、ドルディオ。
龍人族のセシル。
ここに俺、パーティリーダーで魔剣士のリュウイチを加えた8人が全メンバーだ。
全員と軽い挨拶を交わして、奥に設置された女神特製ゲートの前に立つ。
女神曰く、このゲートに入れば千年後に行けるらしい。
ただしここから先は一方通行だ。戻ってはこれない。
メンバー全員に目配せをして頷きあう。
みんなの準備も大丈夫なようだ。
千年後がどんな世界になっているのか。
それがもうすぐこの目で確認できると思うと笑みが溢れる。
この先に、新たな世界、新たな冒険が待っているんだよな。
「いざ、千年後へ!」
掛け声と共にゲートに入ると、眩い光に包まれて視界が真っ白に染まる。
一瞬の浮遊感の後、地面の感触と共に視界も戻ってきた。
素早くあたりを見回してみる。
建物の中のようだ。材質は……ちょっとわからないな。石っぽい何かだ。
「これは迷宮門……か?」
ボロボロになった内装が散乱している中、馴染み深い迷宮門を見つけた。
どうやらここは迷宮門を管理するための建物のようだ。
資源の宝庫である迷宮の出入り口はいつも人で混み合っているものなんだが、辺りには仲間以外の人の気配はない。
ひとまず、仲間の様子を確認するために、一番近くにいたサブリーダーのニーナへと視線を移す。
彼女も俺と同じように物珍しげに辺りを見回しているところだった。
「こっちは何もわからないな。ニーナの方はどうだ?」
「私の方もサッパリね。魔力反応も全然だし」
茶色の髪をポニーテールにした、可愛らしい容姿の彼女は、こうしてみると普通の女の子だが、これでも一線級の魔法使いだったりする。
魔法分野でニーナが何も見つけられないのなら、この場所には見た目以上のものはないのだろう。
「もう少し華やかな場所を想像していたが、まさかこんな物置みたいな場所に出るとはな」
「危険な場所に出る可能性も考えたら、これはこれでいいんじゃない?」
ニーナの言う通り、出た場所が建物の中だったというのはありがたいことか。
あんまりにも変な場所に出ていたら、ニーナがブチ切れていただろうし、そういう意味でも助かったな。
そんなことを考えていると、もう一人のサブリーダーであるジークが会話に入ってきた。
「貴女はなにもわかっていませんね。こんな埃っぽい場所、全く良くありませんよ」
金髪の好青年であるジークが俺の隣に並び立ち、ニーナと対峙する。
「そうかしら、危なくないってだけで私は充分だけどね。何が問題なの?」
「こんな場所にリュウイチ様が降り立つなんてあり得ませんね。出迎えもありませんし」
ジークは俺の家の従者をしていたため、いまだに俺を持ち上げる発言をよくする。そこが一般的な感覚をもつニーナには理解されないらしく、この二人の意見はよく割れる。
「千年もの時間が経っていたら、社会も常識も変化してるでしょ。ジークが望む対応なんてとっくに廃れてるんじゃない」
「それは違いますね。リュウイチ様の存在を語り継いでいれば、多少社会が変わったところで、出迎えるべきと判断するはずです」
流石に千年も経過しているのに、待ってましたと出迎えられたら怖い。ジークの説が外れていることを祈る。
他のメンバーは見慣れた口論に見向きもせず、自由に行動しているようだ。
俺も早く外の世界が見たい。
なので、この二人を置いて建物の出口へと向かう。
「今度こそ、本当に千年後の世界とご対面だな!」
この先に千年後の世界が広がっていると思うとワクワクする。
やっとこの目で見れるんだ。
出入り口を抜けて建物から出る。
そこで、目に飛び込んできた光景に足が止まった。
慌てて追いかけてきたニーナとジークも外の様子を見て固まっている。
「これは……?」
俺たちの目の前には、自然に埋もれた廃墟が広がっていた。
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