第8話 天使と悪魔。
ついつい目を奪われるシルバーグレーの髪と綺麗な瞳が印象的な美しい少年だ。
(こんな天使みたいな人がこの世にいたんだ⋯)
「何か暴れてたから、気になって⋯ブッ⋯」
愛華が暴れていたのをバッチリ見ていたらしく、思い出し笑いをしている少年。
「⋯あれは見なかった事にして!!あの悪魔を頭から追い祓ってたの!!」
「うん、大丈夫じゃなさそうだね。病院調べてあげようか?」
「⋯。兎に角大丈夫ですから!っていうか今授業中でしょう?何でこんな所にいるの?」
「それはアンタもでしょ?」
少年の的を得た正論に何も言えなくなる愛華。
「ちょっと具合が悪くて休める所を探してたんだよ」
「はぁ?保健室に行けば良いでしょ」
またまた的を得た正論に苦笑いしか出ない愛華。
「ちょっと保健室は苦手で⋯」
「ふぅ~ん」
少年は癖なのか左耳のピアスを触りながら、愛華を見つめて何やら考えている。
「そんなキラキラした目で見ないでよ!何か悪い事してないのに懺悔したくなる!!」
「⋯ブッ。何だよ懺悔って!」
何が面白いのか腹を抱えて笑う少年をジト目で見ていると、彼はある提案をしてくれる。
「一人でゆっくり休みたいんなら良い場所を知ってるよ?本当は教えたく無いけど、アンタには特別に教えてあげる」
そう言うと愛華の返事を聞かずにさっさと歩き出してしまう少年。
(自由だな⋯)
「アンタ、名前は?見た事ないから」
「ああ、高島愛華っていいます。君は?」
「へぇ~知らないんだ?⋯三年の華野崎蓮(かのざきれん)。」
(えっ、先輩だったんだ。年下だと思った!)
「⋯年下だと思った?」
「えっ!何で!?」
「愛華は分かりやすいって言われない?」
自然に名前呼びする華野崎だが、先輩と分かった以上何も言えない愛華。それから一階の誰もいない廊下を歩いて行くので、段々と不安になってきた愛華はやっぱり断ろうと声を出そうとしたらいきなり華野崎が足を止めた。
「ここ」
そう言われてその場所を見ると、そこは理科準備室だった。
「え、理科準備室?鍵かかってるんじゃないの⋯ですか?」
「ああ、面倒くさいから別にタメ口で良いよ」
華野崎は徐にズボンのポケットから鍵らしきものを取り出すと、悪びれる事なく開けて準備室の中へ入って行く。
「何で鍵持ってるの!?っていうか勝手に入っちゃ駄目でしょ!?」
「大丈夫。“許されてるから”」
愛華は入口で少し渋ったが、他にも行くところがないので意を決して入って行く。
「ドア閉めて」
「あ、うん。⋯えっ?華野崎先輩もここにいるの?」
「だってここ俺の部屋だから、嫌なら別に出てって良いよ」
そう言いながら華野崎はソファーに寝転がりスマホを取り出して、何やらゲームをやり出した。愛華はそんな華野崎に呆れながらも、準備室の違和感に気づく。まず、準備室に全く必要のない高そうなソファーがあり、棚にはお菓子やカップ麺が並んでいてポットまで置いてある。それに小さな冷蔵庫まであるので気になって自然と開けてしまう。そこにはジュースや何とお酒まで入っていたので、見なかった事にして静かに閉じた。
「飲む?」
「えっ!?未成年だからお酒は⋯」
「真面目だねぇ~、偉い偉い。」
何故か馬鹿にされた様な気がしたが、気にしていたらもたないと思った愛華は準備室に最初からあるであろう椅子に座る。そして鞄から教科書を取り出して自習を始めた。
それからはお互いに沈黙が続き、華野崎のスマホから聞こえるゲーム音だけが部屋に鳴り響いていた。
「ねぇ、愛華って何かやらかしたの?」
「へ?何で?」
ゲーム画面から視線を逸らす事なく問いかけてくる華野崎。
「何か学校の裏サイトでやばい事書かれてるみたいだよ?」
(裏サイト!?まさかさっきのあれ見られた!?)
「えと⋯何と書かれているんですか?それによっては人生詰んだので⋯」
「う~ん、マジあの転校生ムカつく!とか⋯愛華と宮ノ内理事長との関係を調べた人10万やるとか⋯何、愛華って宮ノ内理事長と何かあんの?」
(良かった!あの事はバレてない!!)
「いえ、全く関係ない。私はごく普通の家庭で育った庶民だよ!!」
「ふ~ん。じゃあ推薦枠か⋯」
そう言うと興味が無くなったのか華野崎はそれからは何も言わなくなったので、愛華も勉強に集中する事にした。暫くするとチャイムが鳴り、辺りが騒がしくなり始めた。
だが愛華は教室に戻る気がおきずに、そのまま勉強を続けていたら目の前にジュースが置かれる。
「喉乾いたら飲んで」
「あ、ありがとう」
置かれたジュースを遠慮なく飲もうとした時、準備室のドアがいきなり開いたので驚き振り向くとそこにあの男が立っていた。
「探しましたよ、まさかこんな所にいるとは⋯二人で何をやっているんですか?」
宮ノ内の登場にかなり気まずい愛華だが、華野崎は宮ノ内をちらっと見てまた何事も無かった様にゲームを再開しながら臆する事なく話し出した。
「具合が悪いけど保健室に行きたくないみたいでしたので、ここで休ませてました。後輩思いでしょう?」
「そうですか、では彼女は理事長室で休ませます。ありがとうございます。後輩思いの華野崎くん。」
「ん?何で理事長室で休ませるんですか?そんな事したらますます愛華がこの学校で気まずくなるでしょ?」
華野崎のこの発言に、宮ノ内の態度が一変する。
「おい、蓮。愛華って気安く呼ぶな」
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