第7話 執着と拒絶。

「ちょっと⋯離してよ!」


強い力で抱きしめられて、逃げようにも逃げられない愛華は目だけを動かしてある人物を探し始める。


「おい!こんな時に何であのイケオジはいないの!!」


風が吹くたびに、甘いフレグランスの香りが愛華の鼻をくすぐる。


「こんな所を誰かに見られたらあんただって大変な事になるんだよ!?」


「ああ、別に構いませんよ?見せつけてあげましょうか?」


そう言って宮ノ内が愛華を離したと思ったら、次の瞬間には自分の唇に柔らかい何かが当たる感覚に衝撃を受ける。それはひどく優しく触れてきて、何故か力が抜けるように抵抗出来ない。それをいい事に宮ノ内の行動は大胆になっていく。


愛華の唇をなぞるように舐めると、少し開いた彼女の口から舌を入れていく宮ノ内。何も分からない無垢な愛華は蹂躙されて体の力が抜けていくのが分かる。


(どうしよう⋯誰か⋯)


脳天が蕩けるような感覚に陥り、腰から崩れ落ちそうになる。


「代表!何をしているのですか!?」


やっと現れた香坂によって、引き離される愛華と宮ノ内。


「空気が読めない秘書ですね」


引き剥がした香坂を睨み付け、倒れ込む愛華を優しく引き寄せ抱きしめる宮ノ内。


「少々刺激が強すぎましたかね?」


「⋯⋯。初めてだったのに⋯返してよ!私のファーストキス!!」


「当たり前です。初めてじゃなかったら奪った相手を許しませんから」


愛華は宮ノ内を押し退けて立ち上がると、香坂に向かい怒りをぶつける。


「何で今日に限っていないのよ!!どうしてくれるの私のファーストキス!イケオジのせいだから!!」


「すみません⋯代表の代わりに職員会議に出席してまして遅れました。」


香坂は愛華に誠心誠意謝るが、そんな二人を見ていた宮ノ内が疑問を投げかける。


「愛華が言っているイケオジとは香坂の事ですよね?まさか彼がタイプなんですか?」


優しい口調だが、何故か背筋が凍る様な感覚になる。


「いえ、全く好きじゃありません!逆に騙された気分ですよ!」


「⋯すみませんしか言えません⋯」


愛華は心に溜め込んだ感情を吐き出す様な大きな溜息を吐くと立ち上がり、二人を無視して出て行こうとする。


「何処に行くんですか?」


「⋯」


「無視ですか?あんなキスをした仲なのに寂しいですね」


「いい加減にして!もう私に構わないでよ!私はね、普通に卒業して就職して恋愛して結婚する予定なのよ!あんたみたいなイかれた連中と関わりたくないの!今日の事は忘れるから、話しかけないで!」


愛華の心の底からの叫びを聞いた宮ノ内は、今までに無い程の真剣な表情で彼女の前に立つ。


「すまない。関わるなと言われても無理なんですよ、私は高島愛華を死ぬほど愛しているんです。愛華のためなら何だって出来るししてあげたい」


「何言ってるの!?あんた、私が死ねって言えば死ぬの?そんな事は気安く言うもんじゃないよ?」


「愛華が死ねと言うなら死にますよ?」


宮ノ内は息を呑むほどの妖艶な笑みで、平然と屋上の柵を飛び越えようとする。彼の異常な行動に驚いた香坂だが急いで引き留める。


「代表、いい加減にして下さい!」


愛華もまさか本気で死のうとするとは思っていなくて、宮ノ内の信じられない行動に驚きつつも止めに入る。


「やめてよ!本当に死のうとするなんて⋯何でそんなに狂ってるの⋯」


「愛華が死んでほしくないなら今日は死にません」


(とんでもない奴に関わっちゃった⋯)


愛華は落ちていた鞄を拾うと宮ノ内達を見る事なく逃げる様に屋上を後にした。




「代表、どうしちゃったんですか?いくら何でもやり過ぎです!」


愛華がいなくなった後、香坂は暴走する宮ノ内に苦言を言う。


「キスの事ですか?お前が止めに入らなかったらもっと愛し合えたのに余計な事をしてくれたな」


「その件もですが、先程の事です!本当に死のうとするなんて⋯どうかしてます!!」


「⋯確かにな。私はどうかしてしまったんだよ、でもこんな自分も悪くない」


渇いた笑みを一瞬浮かべたが、すぐにいつもの無表情に戻ると香坂を無視して宮ノ内も屋上を後にした。


(一体代表と高島愛華には何があるんだ⋯)


香坂はこれからの二人に不安を覚えながら、彼の憂鬱な気持ちとは正反対な気持ちの良いほどの晴れやかな天気に苛立つのだった。




教室に戻る気も起きない愛華は、廊下を歩きながら先程の出来事を思い出していた。屋上で宮ノ内にキスされた時に嫌ではなかった自分に腹が立っていた。あの瞬間の晴れやかな日差しや甘いフレグランスの匂いと、宮ノ内の欲情した顔が沸々と蘇ってきては恥ずかしさのあまり暴れそうになる愛華。


(ああ!恥ずかしい!!誰にも見られてないよね⋯あっ!イケオジに見られたーー!!)


「ねぇ、大丈夫?」


誰もいないと思っていた廊下にいつの間にか人が立っていた。頭を掻きむしりながらウロウロしていた愛華は間違えなく不審人物だ。


(ヤバい!!見られたよね!?)


愛華は恐る恐る振り返り立っている人物を見る。


(えっ⋯天使!?)


そこにいたのは信じられないくらい綺麗な顔をした天使の様な美少年だった。




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