CONFETTI

兎波志朗

第1話 言葉の時代

「実は、この金平糖を食べながら願ったことが叶うんです」


そう言いキタカタと名乗る男はこのくたびれたBARのカウンターで胸ポケットから小瓶に入った金平糖を俺に渡してきた。


その金平糖は照明の薄明かりの中で妖しく光っている。


酔いも醒めてきた俺は何でこんな展開になったのかと金平糖を見ながら数日前を思い出す。


〜数日前〜


「ほら!起きてノリくん!!もう!朝ごはん冷めちゃうよ!!?」


ジリジリリーという目覚まし時計と共に彼女の瑞稀に揺さぶられて目を覚ます


「うーん、あと5.6分…」


「ダメ!5.6分が5.60分になるんだから!」


そう言い瑞稀から布団を剥ぎ取られそうになった俺は布団に抱きつくがそのまま引っ張られ布団ごとベッドからずり落とされてしまった。


「んじゃ私支度するから早くリビング来てね!」


「うーん…痛え〜」


俺は床に打ちつけた顎を抑えウトウトしながらも瑞稀の後を追ってリビングを目指す。




「星野!星野千恵に一票を!」


リビングに着くといつも観る朝の情報番組では今週末に控えた市長選の特集をしていた。テレビの前では自分の名前を懸命に叫ぶ女性が映し出されている。

うーん、必死さは伝わるけどそれだけ。

名前は大事だ、まずは覚えてもらうことが大事。

大事なんだけどそっから先は焦りすぎて伝わらない。

せっかく今は言葉の時代なのに取り残されてんな〜


昔から口は災いの元、口では大阪城の城もたつ、蛇の口裂け…etc

それにお国は違えど

Leastsaid,soonestmended

(言葉少なければ災なし)

なんて言葉もあるくらい先人たちは言葉に気を使っていた。

しかし今は21世紀!

今の主流は口八丁手八丁!

情熱の国スペインではこんなことわざもある!

makes friends and truth makes enemies

(お世辞は友をつくるが、真実の言葉は敵をつくる) そう!今は言葉の時代だ!



「ねぇちょっと、ノリくん?片付かないから早く食べてくれない?」


「あー、ごめんごめん!今食べちゃう!!」


俺がそんなことを思ってテレビを観ていると瑞樹が自分の食器を片付けながら催促してきた。流石の瑞稀はパジャマ姿の俺と違って既にスーツを着て化粧も済ませている


「何?今日も朝早いの?」


「そう、新しい商品についてまだバタバタしてるから」


「大変だね事務は、本社のワガママに付き合って」


「まぁね、しかも本社は1度言ったこと曲げないから」


「絶対俺の方が本社勤務向いてるのにな!それなのに部長は俺を営業なんてパシリやらせやがって!」


「拗ねないの、営業のエースなんだからいいじゃない?」


そんな会話をしながらも俺が食べ終わった皿から瞬間に瑞樹は片付け、台所へ持っていく。家でも会社でも出来る人だ。本当頭が上がらない。


「イヤだよ!営業なんて雨の日も寒い日も暑い日も関係なしに外に放り出されて汗水垂らして、まるで働きアリじゃん!なのに、本社は仕事を支部に押し付けて、あいつら絶対働いてないよ、まるでキリギリスじゃん」


「そんなことないと思うよ」


「いいや、あるね!あいつら絶対毎日遊んでいるよ、無駄にでかいビルにダンスホールなんかあったりして」


「あるわけないでしょ!?」


「だってあんな説得力ない企画ばっかなんだよ?そもそもの企画がつまらないし何より企画を出したなら頷けるような企画書とかさー」


「はいはい、その為に企画部に移動願い出したんでしょ?」


「そう!今本社にいる人たちは元々営業のエースから移動願いを出して企画部になったんだよ?完全に同じレールの上にいる!!企画部は本社勤務!俺が本社に行ったら瑞樹に推薦書送るよ!」


「楽しみにしてるね。さ、私もう行くからあとよろしくね!」


「はーい」


食後のコーヒーを飲みながらまだまだノンビリな俺を背に瑞樹は出る前にテレビちゃんと消してねと付け足し出て言った。


「星野!星野に一票を!」


テレビではまだ選挙特集をやっていて映っていたのは先程の女性。

うーん、この人は営業に向いてなさそうだ。

そんな口下手じゃ当選しても答弁なんて出来そうにない、必死さよりも伝わりやすさ。


もう一度言おう、なんてったって今は言葉の時代だ。

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