ボディ・ゴールド系男子の極貧生活

ちびまるフォイ

金に踊る人たち

「母さん、待っててね。なんとかお金を作ってくるから」


「ごほごほっ……。でも……昨日も寝ていないじゃない」


「いいんだよ。体力があるうちに頑張らなくちゃ」


「ごめんね……うちが貧乏なばかりに……」


「すぐに良くなるよ」


仕事を求めて外へ出たがいい仕事はなかった。

母親の介抱をするために定期的に家に戻らなくちゃいけない。


そんな使いづらい人材を求める場所なんてなかった。


「まいったな……今日は何も仕事できなかった」


気持ちが沈んだ帰り道。

追い打ちをかけるように雨まで降り出してきた。


「うわわっ、早く戻らなくちゃ……あれ?」


思わず足が止まる。

雨に濡れた肌がどんどん金色に輝き始めた。


服を脱いで全身に雨を浴びると、体がゴールドへと細胞変化していく。


体が金ピカでまじりっけなしの金に変わると、

その姿を見た母親が言葉をなくしていた。


「その体……いったいどうしたの!?」


「わからない。雨にあたったらこうなったんだ」


「か、体は大丈夫なの……?」


「ぜんぜん平気さ。それよりこの体ならもう貧乏生活は終わりだよ」


「どういうこと?」


「金ってとっても貴重なんだ。この体を少し削るだけで、大儲け間違いなしだ」


嬉しそうに語っていると、コンコンとドアを叩く音が聞こえる。


「はい、どなたですか?」


ドアの向こうではきれいなスーツを来た男が待っていた。


「こんにちは。私、こういうものです」


「金の採掘……株式会社?」


「ええ、失礼ながら先ほど雨にあたって金の体になったあなたが見えたもので」


「それで?」


「こういう製品をご紹介しています」


男は歯ブラシのような機材を取り出した。


「これは?」


「金の採掘機材でございます。今ならお安くしますよ」


「……いや、うちは結構です。そんなお金もないですし。

 お金を手に入れるために、この金の体を削ろうって話をしてたくらいです」


「なおさら、この商品が必要ですよ。

 お客様はもしかしてご自身で体を削ろうと思ってます?」


「え? まあそりゃあ……」


「おすすめできません。ご自身で削った金は傷がつきやすい。

 質の悪い金は市場価値が落ちてしまいます」


「そ、そうなんですか……?」


「あなたも全身を粉々に砕いて売り飛ばしたくはないでしょう。

 でしたら、うちの製品を使って質のいい金を取ってくださいな」


「うーーん……」


悩んでいると病床の母親が心配そうな顔で見つめてくる。


「これも必要経費よ。私のために、必要以上に傷つく必要ないわ」


「それじゃ……1つください」


「ありがとうございます。製品をお使いになる際は、

 指定の場所で採掘するようにしてくださいね。

 採掘のときに有害なガスがでる場合がありますから」


「はい」


男から金の採掘道具を買い取った。


今はマイナスだが、これから自分の体の金をこそぎ落として

結果的に大金を得るのであれば安い出費だ。


「それじゃ、ちょっと体の金を落としてくる」


「ごほごほっ……早く戻ってね」


母親に薬を買うだけのお金を作るため、

体の金を落とす指定の場所へと向かった。


指定された場所は誰もいない倉庫のような場所。

買ってきた歯ブラシ状の機材のスイッチを入れたとき。


「ストップ! ストップ!」


「え!?」


別の男がいきなりやってきて、スイッチを切ってしまった。


「なんでスイッチを切るんだ!

 これから金を落とそうってところなのに!」


「それはこっちのセリフだ。あんたライセンス持ってるのか」


「ライセンス……?」


「その様子じゃ何も知らないみたいだな」


男は細かい文字がびっしり書かれた紙を見せた。


「これが金採掘のライセンス。ライセンスが無くちゃ、金を取っちゃいけないんだよ」


「でも、これは俺の体だ」


「関係ない。金は金。ライセンスをちゃんと取ってくれ」


「……はいはい、わかったよ。で、そのライセンスはどうすれば取れるんだ?」


「ん」


男は手のひらを差し出した。


「なに黙ってみてるんだ。ライセンス料だよ、ライセンス料」


「ええ!?」


「ライセンス料だけ払えば、誰に文句いわれるでもなく

 大手をふって金を作れるんだ。たいしたものじゃないだろう」


「また金か……」


とはいえ、ここで揉めるわけにいかない。

ライセンスを払わないことには機材も使えない。


しょうがなくライセンス料を支払うと、男は満足そうに帰っていった。


「やっとこれで金が作れるぞ」


採掘機材のスイッチを入れて肌の表面を削っていく。

ぼろぼろと金が落ちてきて、両手いっぱいの金が集まった。


「よし、これくらいで十分だろう。

 これ以上削るのはさすがに痛い」


いったいどれくらいの値がつくのだろう。

期待いっぱいにして、市場へとでかけていった。


「この金を買い取ってくれ」


「こりゃすごい」


「いくらになる? そうとうな金額になるだろう?」


「ああだが……あんた、ここの市場で売買するための承認表は持ってるか?」


「えっ」


「この金は魅力的だが……得体のしれないやつからは買えない。

 ちゃんと承認表を買ってきてから来てくれ」


「またかよ! 俺はお金がほしくてきてるのに!!」


やっと大金が手に入ると思ってきたのに。

最後の最後でふたたびブレーキ踏まされることに苛立ってしまう。


「この金を売りさえすればもとは取れるんだ! かまうもんか!」


市場の承認パスを購入し、再度金を売りにゆく。

これでもう誰にも文句いわせない。


「ふうむ、これはすごい……」


「でいくらになるんだ?」


「しめて、〇〇百万円だな」


金の取引相手はそういって金を手元に収め、お金を渡した。


「……あれ? これっぽっち?

 さっき〇〇百万円っていったじゃないか」


しかし、渡された金額はさっきの提示された金額よりもずっと少ない。


これでは機材を買い、ライセンスを買い、市場パスを買ったことで

金を売る前よりも貧乏になってしまっている。


「知らないのか。ゴールド税ってのがあるんだよ」


「はあ?」


「金を売るときにかかる税金さ。

 あんたの金は〇〇百万円だが、税金を引いたらその金額になるんだよ」


「これっぽっち!? きいてないよ!」


「そりゃあんたが知らなかっただけだろうに」


「それじゃ、この体をもっと削るよ!

 腕の一本ぶんを渡せばもっともっともらえるだろう!?」


「いや、ゴールド税は金の量が多いほど、税金も高くなる。

 あんたが腕いっぽん失ったとしても、得られる金額はそう変わらないさ」


「そんな……」


結局、市場で手に入れたちょっぴりのお金だけを持って家に帰った。


「ただいま……ごめん。薬は買えなかったよ」


母親は寝転んだまま動かない。


「……母さん?」


ゆすってみても動かない。

肩を触ったときにひんやりとしている。


すでに脈はなかった。




数日後、小さな小さな葬式が行われた。


参加者は自分と牧師のふたりだけだった。


「このたびはお悔やみを申し上げます……」


「俺が殺したようなものです。

 もっと早く薬を手に入れることができれば……。

 いや、そもそも俺にお金があれば……」


「あなたのせいではありませんよ」


「笑っちゃいますよね。

 こんなに体が金ぴかなのに、

 金がないっていうんですから……」


「私は弱いものの味方です。どうかこれをどうぞ」


「これは……?」


「後でその小瓶に入った液体を空にまいてください。

 そして、あなたはこの場所で、この紙を持って待っていればいい」


「……?」


牧師は葬儀を終えて去っていった。

誰もいなくなってから香水サイズの小さな小瓶を空に向かってまいた。


すると、数分後にみるみる空の様子が変わり、大粒の雨が降り出した。


「うわっ! やばい! 紙が濡れる!」


もらった紙をかばいながら、言われたとおりの場所へと向かった。

指定の場所は屋根があったので雨をふせぐことができた。


「しかし、こんなへんぴな場所でいったい何を……?」


しばらく待っていると、何も知らない顔でずぶ濡れの男がやってきた。


「おおーい、そこのあんた!」


男は自分を見つけると早足でやってくる。


「さっき降り出した雨にあたったら、体が金になってたんだ。

 えっとそれで……そうだ! これ!

 この道具を使うにはこの場所へ行けって言われたんだ」


体が金になっている男が取り出したのは、

かつて自分が買った歯ブラシ状の採掘道具だった。


それをみて、自分がどうすべきかわかった気がした。


ついさっき渡されたばかりの内容のない紙切れを男に見せた。



「その採掘道具を使うにはライセンスが必要なんですよ。

 さあ、この紙にサインをしてライセンス料を払ってください」



男は迷わずにライセンス料を支払った。

その金額は俺が体をけずって手に入れた額よりずっと大金だった。

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