混沌の不死王
第38話 死の香り、ルクサンバーヌ
「ルクサンバーヌの町に行こう。そして町の人々には避難してもらう。思う存分戦えるように」
「そうですね。これで父さんと母さんの仇を」
唇をかみしめるロサリーヌをみて、なんともいえない不安に俺は襲われる。混沌の不死王カオスリッチはなんとしても倒さないといけない敵だが……。
◇
ルクサンバーヌの町についた時にはランネル先生もアセンダリ先生も冒険者たちも既にいた。避難のために誘導していた。混乱するなか家財道具をもってる人もいれば、とりあえず急いで逃げてきた人もいてそれはもう大騒ぎだ。
「混沌の不死王カオスリッチが来る! 数日中だろう。死にたくなければ急いで逃げろ!」
「あの不死王がくるのか? 間違いないのか!?」
「『宣託の聖女』様の噂は聞いたことはないか? その『宣託の聖女』様がおっしゃったことだ」
「本当なのか……」とそれを聞いた人々は絶望した顔になる。
「救いはある。宣託のあった時間と場所にいなければ死は回避できるんだ! 逃げろ!」
と、冒険者たちは声をだした。それに従いみんな逃げ出した。
それから2日程、待った。そして王冠をかぶり赤黒いローブを
「お主らと冒険者の連中しかいないのか?」とカオスリッチは不満そうだったが、ロクサリーヌをみて1人頷き、
「我らが軍団、倒せた暁にはワシ自ら相手をしてやろう。カッカッカ!」
とだけ言ってアンデッドの軍団を残し、カオスリッチは去って行った。襲ってくるアンデッドたちを迎えうった。そんなに強くはないが、とにかく数が多い。冒険者たちと協力し片っ端から倒していく。
人々を避難させたのは正解だった。そうでなければ混乱で収拾がつかなくなっていたところだ。
「皆さんスケルトンから離れて! 神聖魔法ホーリーライト!」
ロクサリーヌが神聖魔法を唱える。結構な数のアンデッドが浄化される。やるじゃないか! 勢いにのる俺たちは、2日かけてアンデッドの軍団を退けた。
「ワシのアンデッドの軍団を倒したか。ならばワシは収容所にいるから死にたい奴はかかってくるがいい」
とカオスリッチの高笑いが響き渡った。
たった2日でカオスリッチのいる収容所は姿を大きく変えていた。建物は腐り今にも壊れそうだ。
これ以上アンデッド軍団を量産されてもかなわない。そしてなにより、ロクサリーヌに暴走されても困る。
「私は今すぐにでもカオスリッチを倒しに行きたいです」とロクサリーヌはランネル先生に話す。
「とりあえずちょっと落ち着きなさい、ロクサリーヌさん。頭に血が上った状態で戦っても、いいようにやられるのがオチよ?」
ロクサリーヌの怒りをいなすランネル先生だ。もちろん、俺だってサルタ師匠の仇をとりたいが、恨みに囚われているかのようなロクサリーヌを見てると、俺が止めないとダメだと自制しまう。
あまりにも怒ってる人を見ると、逆に落ち着いてしまう心もちというかなんというか。とにかくロクサリーヌを一人で突っ込ませるのは危険すぎる。
何かいい方法はないものかと考えた。あまり準備の時間は取れない。カオスリッチの守りが固まってしまう。それだけは避けたい。
「俺もついていきます。このままカオスリッチに時間を与えるのはまずい気がするんです。守りが固まって手が出せなくなる可能性があるんです」
「……仕方ないわね。止めてもどうせ行くんでしょう?」
と、ため息をついたのはランネル先生だ。魔法学校襲撃事件で俺とロクサリーヌの実力を見てくれていたからだ。
「さすが、俺たちのこと良く分かってるね、先生」
と俺は笑った。
「ロクサリーヌは建物内部でむやみに物を触らないこと。俺が歩いた足跡や手をついたところは触っても大丈夫だ。これだけ守れば罠にはかからない。実際問題として全ての罠を調べて行動するのは、時間の制約があるから不可能だ」と俺は話した。
「わかりました!」
ロクサリーヌは元気に答える。けれどもロクサリーヌが一番心配なんだよなぁと俺は思った。そんな俺たちの話を聞いたランネル先生は
「生徒に頼るなんて大人としては歯がゆいけどね。でもあの襲撃事件の活躍を見なかったことにはできないし、負傷者の治療もしないといけない」
と周囲を見ながら話した。先生は続ける。
「待ってたらカオスリッチが何をしてくるのか予想もつかない。そう考えればあなたたちに頼るしかない。不本意だけどね」
「任せてください。心配には及びません!」
ロクサリーヌはドンと大きな胸を叩く。なんだかよくわからないけど、ほんとに自信がありそうだ。
「ガザセル君、ロクサリーヌさんが無茶したら止めてね。それがカオスリッチの根城に乗り込む私からの絶対条件よ」
予想外の行動をしたロクサリーヌを俺が止められるかどうかは分からないけど
「できる限りロクサリーヌの暴走は止める。カオスリッチは俺たちが必ず倒す。任せてくれ」
と答えた。
「ほんとうに任せたわよ?」
とランネル先生は祈るように話した。そしてカオスリッチのいる収容所へと俺たちは移動したのだった。
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