第32話 魔法学校襲撃事件①

 魔法学校が襲撃された。先生も生徒も大騒ぎだ。慌てて先生も戦いの準備を始める。冒険者たちも騒ぎを聞きつけ、やってきてくれた。


 冒険者たちを操り、大量のスケルトンを引き連れて現れたのはデュラハンだった。デュラハンは自由気ままな妖精だっていうんだから、異世界はほんとに自由すぎる。そしてデュラハンは左手で自らの頭を抱え、右手は剣を構えてこちらを向く。馬には乗ってないから機動力はそれほどなさそうだ。けれども、魅了はマズい。冒険者たちを攻撃するのを躊躇してしまう。


 そして生徒の救出に向かったレベルの冒険者たちを操るデュラハンの強さも、普通に考えて危険だろう。どうやったら魅了を防げるんだ?


「ランネル先生! 相手の魅了を防ぐ方法ってあるんですか? 治す手段は確かキュアリーでしたよね? アセンダリ先生呼んでくるしかないんじゃないんですか!?」


「もちろん来てもらうわよ。魅了は相手の行動を見てしまうっていうのが原因の場合が多いの」

「相手の行動?」

「例えば変な踊り? 敵のよく分からない動きを見ているとそれが呪いの踊りだったりするのよ!」

「ボーンヘッドは踊って雄たけびをあげて仲間を呼びましたけど、デュラハンも踊るんですか? あの鎧の塊が? それはそれで想像したら笑えてきますね」

「この緊急事態に何を冗談みたいなこと言ってるんですか!」

 とロクサリーヌが現実に引き戻す。

「現状どうやって魅了されたかは、謎のまま挑むしかないのか」


 ため息をつく俺だった。味方の冒険者たちは、デュラハンと操られた冒険者、スケルトン、ボーンヘッドを相手に苦戦していた。ボーンヘッドがスケルトンを大量に呼び寄せている。操られた冒険者相手に全力で攻撃できるはずがない。


 街を守る冒険者たちも先生たちも後手に回っていた。そもそも行方不明の生徒たちはどこにいるんだ? と思ったらデュラハンのはるか後方にいた。


 人質かと思ったら精霊魔法を詠唱してる! キラカタルたちも詠唱してる相手のなかにいた……アイツらほんとに迷惑なやつらだな! しかもキラカタルの奴が魔法を唱えてるじゃないか。あいつ上級魔法使ってたよな……危険すぎるぞ!


「逃げろ! 下手したら上級魔法がくる!」


 慌てて退避する俺たちにエアロストロームが発動した。火はスケルトンの弱点だからエアロストロームで攻撃してくるのか? 変なところで気を使ってるのか。そんな優しさ、骨相手にいらんだろう! 魅了されてるから仕方ないかもしれないが、アイツはほんとになんなんだ!


「あっ!」

 と悲鳴をあげロクサリーヌが転んだ。

「ロクサリーヌ!」

 俺は慌てて土の障壁を無詠唱で作り上げる。守り切れるか微妙なところだ。俺は強化魔法以外はまともに使えないと思っていたからだ。


 けれど、無詠唱で作り上げた障壁は俺たち3人を守って崩れた。

「きゃっ!」

 と頭を抱えてロクサリーヌは悲鳴をあげたが攻撃魔法は防ぎきった。静かに目を開いたロクサリーヌは

「ありがとう!」と元気に答える。それにつられて

「「「上級魔法がくるって知らせてありがとうな! 助かったぜ!」」」

 と冒険者や先生たちからもお礼が言われる。


 早めに気づけたおかげで、冒険者や先生たちもうまく避けたり防御できたりしたようだ。俺たちはロクサリーヌの手を取り、立ち上がらせてその場から逃げ出した。


 スケルトンを相手に奮闘してる冒険者たちを、デュラハンとキラカタルたちは遠くから見てるだけかよ。いいご身分だな! 本当に!


 操られた冒険者たちを相手に本気で戦えないのが厄介だと思っていたところに、ボーンヘッドはスケルトンを呼び寄せる。さらにスケルトンの数が目に見えて増加する。


 それだけでも厄介なのに、デュラハンが左手に抱えた頭部の目が赤く光り閃光がほとばしる。周囲の冒険者や先生たちに外傷はなさそうだと安心していた。


 だがデュラハンの近くで戦っていた冒険者たち、そしてシュワルツマー先生がこちらをふり返った。その目はみんな赤く光り魅了されていた。


 もう大混乱だ。スケルトンはうようよいるし、冒険者も先生たちも過半数が魅了された。そしてキラカタルは、またしてもエアロストロームを詠唱している。


 今度は魅了された生徒全員で風系の攻撃魔法を詠唱してる。シュワルツマー先生までこっちに攻撃してきた。アイツらほんとにバカだろう!


 愚痴を言ってもなんにもならない。行動するべきだ。冒険者や先生たちを斬る訳にも殴って殺す訳にもいかない。防戦一方だ。


 そんな中、奮闘していたのはロクサリーヌだ。

「神聖魔法ホーリーライト!」

 と唱えるとスケルトンがまとめて消え去った。やるじゃないか!


 スケルトンは粗方ぶっ飛ばしたけども操られたら、潜在能力まで遺憾いかんなく発揮されてしまうのかみんな強い。敵のときは強くて味方になると弱くなる。そんなのはゲームだけでたくさんだ! 


 シュワルツマー先生は俺に恨みでもあるのか執拗しつように俺を狙ってくる。一つ一つの攻撃を丁寧にさばいてかわす。複数が斬りかかってくれば移動して対処する。


 この状況だ。相手を倒す倒さないと言ってる場合じゃない。容赦のない相手に防戦一方じゃこっちがやられるだけだ。


 死なない程度に殴り飛ばそうと思った。基本的にはを走り回って1対1の状態を作り出し、すぐさま後ろを振り返り殴りつける。


 相手がお腹を押さえてくの字に曲がり、動けなくなったらすぐに逃げて移動する。そして追ってくる相手をまたしても殴りつけ、場合によっては蹴りつける。これをどんどん繰り返す。


 操られた冒険者も身体の痛みは残るようで動けないようだ。そしてシュワルツマー先生がしつこく俺をつけ狙ってくる。しかもしっかりと俺の攻撃をかわしてみせる。


 操られても単調な攻撃にならないシュワルツマー先生を凄いと言っていいのか悩ましい。1対1になった瞬間、腹部を殴りつけてもシュワルツマー先生は倒れない。


 ひるむことなく上段から剣を振り下ろしてきた。それをかわし先生の重心のかかっている足を蹴って転ばせる。立ち上がろうとしたところを脳を揺らすように顎を狙って拳を振りぬき、そのまま両手で先生の背中を叩き落とす。シュワルツマー先生は意識があったとしても身体は反応できなくなったようだ。倒れたまま動かない。


 その時になって、やっとアセンダリ先生がやってきた。

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