第3章 宣託の聖女
第30話 無詠唱 ☆ガザセル視点☆
☆ガザセル視点☆
「魔法はイメージがだいじです。魔力の流れを再現できれば無詠唱さえも会得できると古代魔導書は伝えています。頑張りましょう」
ランネル先生はのほほんと授業を続ける。へぇ、初耳だなと思った。そんな話は俺の持ってた本には書いてなかった。魔法はイメージがだいじなのは本で知ってて、ランネル先生が話してたのを聞いて色々試して実感した。
魔力の流れを再現する……か。考えたこともなかったな。言われてみると確かに魔法の詠唱をしたときは魔力の流れを感じる。その魔力の流れは確かに魔法によってそれぞれ違うのだ。
でも、俺の場合は強化魔法を中心にやってきた。前に飛ばない精霊魔法も覚えることは覚えた。前に飛んでいかないという致命的な弱点を抱えてたしなぁ。これ以上続けても意味があるのかなと思って上級魔法で
「じゃぁ、とりあえずファイアーボールを唱えて魔力の流れを感じるところからやりましょう。そのあと自分のレベルに応じた精霊魔法の訓練をしましょう。まぁ無詠唱なんて天地がひっくり返ってもできませんよ。たはは~」
なんて適当な感じでランネル先生は話を締めくくった。ファイアーボールってどんな魔力の流れだったっけと詠唱する。
みんなのまっ直ぐ飛んでいくファイアーボールを見ながら、俺のファイアーボールは右へそれていくのを確認する。後ろへ飛んでいかなかっただけ運がよかったなと安心する。
いつも通りだ。でも今の段階で重要なのは魔力の流れだ。体に感じた魔力が流れるイメージを身体の中で再現した瞬間、ファイアーボールが目の前で発生し空中で止まっていた。
前に飛んでいくわけでもない。右へ左へ明後日へ飛んでいくわけでもない。目の前で止まっている。魔力の流れを止めるイメージをすると火は消えた。
魔力を止めるとファイアーボールは消える。タイミングは? 魔力を込める量は? なんてことを考えて色々と魔法の実験に必死になる俺がいた。やっぱり魔法は憧れだ!
2~3日くらい色々実験した結果、身体を流れる魔力の塊のイメージで発生するファイアーボールの火球の大きさが決まるのではないか? ということが分かった。
あとはファイアーボールを前でも横でもいい。飛ばすだけだ。詠唱しないでファイアーボールが発動すれば、それは厳然たる無詠唱だ。
もともと魔力は無駄にあるのだ。ファイアーボールをいくら使おうと魔力切れを感じることなんてない。だから練習できるときはそれこそ起きてから寝るまで実験しまくった。
◇
それから2~3週間くらいたった頃だろうか。もうちょっとで無詠唱はできそうな予感がした。でも、授業中はさすがに練習できないので心の中で(早く授業は終われ!)と念じていた。けれども意識して念じれば念じるほど、授業の進み方は体感では遅くなった。
カップラーメンの3分間が長いのと同じ理由かなと考えたが、そんな理屈なんてどうでもいい。とにかく俺は無詠唱を練習したいんだ! とじりじりした感覚に身を焦がしていた。恋じゃないのが残念だ。
(無詠唱の練習で授業をサボりたいんです)とか言った日には、たぶん俺の株価は暴落するだろう。まぁ、そんなに暴落するほどあがってる訳でもないんだろうけどな、と思って無になった。悟りを開いた心境だ。なにも分かってないけども。
授業が終わった瞬間、闘技場の隅に走り無詠唱の練習をする日々だ。ロクサリーヌはついてきて、俺のファイアーボールの練習も見ていた。最初、俺がファイアーボールの火球を無詠唱で発動させたときは
「今の、どうやったんですか!?」
と大騒ぎしていた。俺は
「黙っていたら一番に教えてあげよう。だから黙っていなさい、ロクサリーヌさんや」
ぶんぶん頭を縦にふるロクサリーヌに、ニヤリと笑いかけて俺は孤高に無詠唱の実験をしまくった訳だ。
ロクサリーヌが隣で状態異常の回復魔法のキュアリ―の練習をずっとしている。この状態を孤高と言うのかと問われると謎だなとは俺も思う。
だがそんなことは些細なことだ。俺は全てを無詠唱の習得に注ぎ込むのだ。そしてあ~でもないこ~でもないと色々試した結果、ファイアーボールは前に飛んでいった。
いくら詠唱しても前に飛んでいかなかったファイアーボールが前に飛んでいったのだ!
「よし!」
と思わず声が出ていた。隣で見ていたロクサリーヌは目を点にしている。
「成功したんですか!?」とロクサリーヌの問いに
「ああ、無詠唱とうとうできたぜ!」と俺は笑って答えた。
自分の復習もかねてロクサリーヌに説明する。
「いいか? まずファイアーボールの魔力の流れを再現し、火球をイメージしたら魔力を調整する。このときの魔力の込め方やイメージで火球の大きさや形が決まる。自分の思う火球ができたところで魔力を止める」
「ほうほう」と興味津々のロクサリーヌだ。
「そしてこのあと火球に矢をぶつけるイメージでもう一度、魔力を込めるんだ。これも魔力の量やイメージによって、魔法の速度が変わるということらしい」
「ということはつまり?」とロクサリーヌは聞き直してきた。
「魔力の流れをイメージできたら無詠唱はできる。ランネル先生の言う通りだったということだ」と俺は答える。
誰も気にとめない状況でのほほ~んと話してるからみんな聞き逃してるけど、あの先生ほんとにヤバいもの教えまくってるんじゃないかと思った。
とはいえ、いやっほぅと飛び上がる。何度も実験した結果、詠唱してると前には飛んでいかなかった魔法が、無詠唱ならまっすぐ飛んでいった。予想外の結果だった。そして今まで訓練したことは無駄じゃなかった! と心の底から喜んだ。
まぁ、前に飛んでいったファイアーボールは、なぜか丁度通りかかったランネル先生に飛んでいって怒られたんだけどな。それでもランネル先生に
「魔法が前に飛んでいったんですよ! ありがとうございました! 先生のおかげです!」
と無詠唱ができたことで、魔法が前に飛んでいったことの感謝感激をランネル先生に伝えた。
「魔法が前に飛んでいくのは当たり前じゃないですか。先生をからかっているんですか? 危ないから人に向けて魔法を撃ったらダメなんですよ? いいですね」
メッと額をやさしく小突かれた。なんで俺がこんなに感謝しているのか、ランネル先生はさっぱり分かってないようだった。
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