第10話 ランネルという教師
「さてお静かに。シュワルツマー先生の代わりにこのクラスの担任と精霊魔法と強化魔法の授業を担当することになりました。私はランネル・ミッドマイヤーと言います。よろしくお願いしますね」
とランネル先生は自己紹介した。そう、シュワルツマー先生と交代だ。キラカタルと俺の決闘の責任をとった結果、クラス担任と魔法の授業の担当を外されたということらしい。今頃、職員室で資料でも作ってるのかな?
ランネル先生は女性で、柔らかい印象の青髪赤目の綺麗なお姉さん。という感じで親しみやすそうな先生だった。教室に入ってきた美人なランネル先生をみて、うおおおおーーと雄たけびをあげる男子生徒を見てみるに、騒ぐのもある意味納得と思っていた。
さてそんなランネル先生の精霊魔法の理論の授業だ。俺にはこの授業は真剣に聞く話でもないんだよな、と思いつつも聞いてる。理由は知ってる内容だからだ。知らない人は聞かないとダメだと思う。理論の先に実践があるんだから。
建物の基礎がしっかりしてない家は住むのも怖い。魔法の理論も突き詰めればイメージだの一言で全て終わる。でも理屈が分からなければイメージすらも思いつかない。そういうものじゃないかなと俺は思う。
俺のユニークスキルは縛りが発生する。だからなのかどうかは分からないが、幼い頃から俺の場合は魔法が前に飛んでいかなかった。ジョブの鑑定が行われる前からだ。潜在的なものなのかもしれない。
精霊魔法が思った通り前に飛んでいかないのに習う意味があるのか? というのもあって俺は真面目に精霊魔法は勉強しない。
真面目にしないっていうのは
ランネル先生は「みなさん、いいですか?」とやさしい口調で話しだした。
「さて、これから魔法の基本を教えますよ? 魔法で一番大切なのはイメージです! 具体的にイメージした内容に応じて、魔法の効果は大きく変わることもあるんですよ? それを意識するのが初歩の初歩。でもこれが理解できて実践できれば、免許皆伝の奥義ってお話もあるくらいなんですよ? あくまでそんな話があるってだけですけどね~」
なんて全く緊張感がない状態で話しだした。ニコニコしながらやさしい口調で話すランネル先生の言葉が、俺には静かな子守歌に聞こえてきた。
そうはいってもフラタルム魔法学校での魔法の授業だ。気合で俺は起きていた。ランネル先生が言ってたことを思いだし実践する。
火土風水光闇と6属性が基本属性と言われているこの異世界だ。異世界転生してすぐに魔法の存在を知った俺は、そりゃぁもう食事も後回し、寝る時間も惜しんで魔法の特訓に明け暮れた。寝ないと魔力が回復しないことに気づいたのも丁度この時だったりする。睡眠ってだいじだね。
魔法を詠唱したらファイアーボールが発動してしまい、危うく火事になりかけて父さんにめちゃくちゃ怒られたのもいい想い出だ。
だがしかしだ。俺が唱えた精霊魔法は前に飛んでいかなかった。どう頑張っても無理だった。前に飛んでいって捻じ曲げられたかのように右へ左へ法則性もなく飛んでいく。
狙った場所に飛んでいかない精霊魔法なんて怖くて使えない。味方に当たったなんて事態は目も当てられない。それでも俺は精霊魔法にしがみついた。異世界にきて身体をひたすら鍛え魔法にかじりついた。
身体を鍛えようと思ったのも、魔法を使えるようになりたいと思ったのも、前世の子供のころから英雄は俺の憧れだったから。武術を頑張ったのもサルタ師匠が俺には英雄に見えたからだ。これが全ての始まりだ。
異世界に来たのに精霊魔法が使えないなんて、目の前に食事をだされて「待て」と言われて我慢してる腹ペコの犬と変わらない。俺はまだ食べたらダメなのか!? 魔法が使えないのか!? と、腹ペコの犬みたいな心境だった。
だから
上級魔法のヘルファイアは火属性の広範囲
大は小を兼ねるってよく言うじゃん、と思って使ってみたら、後ろに飛んでいったこともある。そう、俺にとってヘルファイアは味方に
でもどうしても魔法を諦めきれなかった俺は強化魔法にしがみついた。精霊魔法は前に飛んでいかないが、そもそも前に飛んでいくことがない強化魔法に活路を見出したのだ。
そして強化魔法は身体をきっちり強化してくれていると感じた。だから強化魔法はそれはもう必死になって頑張った。風を
だから精霊魔法を鍛える時間も強化魔法を訓練する時間につぎ込んだ。
だから半信半疑のまま前に飛ぶ精霊魔法をイメージして詠唱した。相変わらず精霊魔法は右へ左へ定まらず、明後日の方向に飛んでいった。
まぁ、こんなもんだよなと思った。けれども、ものは試しだ。今までは筋肉がつくくらいだったのを、ランネル先生が言ったように具体的に『右手で石を握りつぶす』というイメージをもって火の強化魔法をかけた。すると強化魔法は確かにイメージで効果が変わった。
特に見た目は変わらないし、殴るスピードが上がる訳でも硬さが強化されるわけでもない。でも握力は以前より圧倒的に強くなっていた。
それは体感できるレベルだった。以前より少ない力で石を握りつぶせた右手を見てトマトじゃないんだからさ、と俺は目が点になった。この先生、さらっとヤバいことを教えてるんじゃないか? とすら思った。免許皆伝の奥義と言われても納得の効果だった。
そして結果にほくほくした俺は色々と実験してみた。元々、俺のユニークスキルと強化魔法は相性がいい。強化魔法の詠唱はユニークスキルの支援魔法をさらに強化するからということもある。あるんだけど、そこへイメージの強化もあわさって、さらにおかしな強さになったということらしい。
ユニークスキルがない人にとっては強化魔法でイメージしても、差はわずかしかないのでそれほど強くはならない、と言うカラクリのようだった。俺にとってはおかしな強さが実現するという本当に嬉しい誤算だったという訳だ。
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