第8話 キラカタルとの決闘②

「ヘルファイアは広範囲殲滅こうはんいせんめつ魔法なのか? お前の魔法って甘くないか? そんなに炎に縦の厚さがある訳でもないのにそんな御大層なネーミングでいいのか?」

 と広範囲殲滅魔法を、たかが学生の喧嘩相手に使ってきたキラカタルに抗議も含めて文句を言う。

「うるさい! まだ広範囲殲滅魔法はある! 奥の手はまだまだあるさ! 俺を舐めるな!」


 そしてキラカタルは再び詠唱を始める。シュワルツマー先生も「バカな!」と叫んでいる。シュワルツマー先生は中立じゃないのか? でもまぁ、今更なお話か。


 ギャラリーもざわざわと騒ぎ始める。

「どうなってるんだ! 上級魔法ヘルファイアだぞ!?」

「広範囲殲滅魔法だろう!?」

「何者なんだ。あの1年は!」

「1年で平民だと……! 本当なのか!?」

「貴族を超える平民なんぞ絶対認めない!」


 色々言われてるみたいだけど、入学早々から俺は目立ちたくないんだけどなぁ。俺はシュワルツマー先生に

「これって詠唱完了まで待たないとダメなんですか?」 

 と疑問に思ったので話しかけた。

「……」

 無言のシュワルツマー先生は苛立いらだたしげだ。都合の悪いことはだんまりか。決闘を勝手に決めたり、キラカタルが有利になるように賭けるものを決めたり、心配するフリだけしてるんだもんな。この先生、ホントいい性格してるよな。


「風の精霊よ。我に力を! エアロストローム!」


 キラカタルの渾身の詠唱が完了したようだ。風魔法は見えにくいから、念のためだ。さっきはキラカタルの斜め後ろに飛んだけど、今度はキラカタルの右横に避けようと思い地面を蹴る。


 数秒経ってから俺を見つけたらしいキラカタルとシュワルツマー先生は唖然あぜんとした表情をしている。

「なにか悪いものでも食べたのか? 食中毒なら命にかかわるかもしれないから、医療室に行ってちゃんと治してもらえよ?」と適当に俺は答えた。

「あ、あれを避けるのか?」とキラカタルは驚いた様子だ。

「ん? 見たまんまだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 ロクサリーヌも遠くからこちらを見ているみたいだ。一番、青白い顔をしてるのはシュワルツマー先生だ。


 もうキラカタルの様子見しなくてもいいかなと俺は思った。この辺がコイツの限界だろう。俺の強化はたっぷりだ。反撃しよう、そうしよう。

 そう思った俺はキラカタルの正面に飛び込み一瞬で距離を詰めた。そしてキラカタルが立っている地面をめがけて力の限りぶん殴る。

 地面は小さなクレーターのようになり崩壊する。


「バカな、拳で地面を殴ってこの威力だと!?」

 俺のことが見えてるだけマシだなと思った。キラカタルは後ろへ退く。それを見た俺はさらに追いかける。左右に小刻みにフェイントを入れ、キラカタルの逃げる方向を真後ろへ限定させて誘導する。それに気づかないキラカタルは背中を壁にぶつけて止まる。追い詰めた。


「1回、死んどく?」

 話しかけた俺は返事も聞かずに、キラカタルへの威嚇も込めて離れた横の壁を殴り破壊した。

 キラカタルは顔面蒼白だ。

「まだやるのか? 死にたいか?」

と最終確認をとってみる。キラカタルは貴族というプライドがまだ残っていたのか

「お前に、お前なんかにこんなことできるはずがない! 何かイカサマしてるんだろう! そうだ……装備にマジックアイテムでも仕込んでるんだろう!」

 見破ったとでもいうかのようにキラカタルは自慢げに騒いだ。


「イカサマだとしても、マジックアイテムだとしても、このままだとお前は殴られて何も分からず死ぬだろう。そこに何か違いがあるのか?」と俺は話しかけた。

木偶でくの棒が筋肉だけつけやがって」とキラカタルはこの状況に納得がいかないのか文句を言う。

「背が高い筋肉質のイケメンってことにしておいてくれ。その方が俺にとっては幸せだ」と余裕で俺は笑いかける。


「ふざけやがって! 俺は伯爵家の御曹司だ。王位継承権第一位の王子の友人でもある。俺に手柄を与えておいた方がいいだろう? 俺に勝つなんて真似して見ろ! 第一王子がやってくるぞ!?」

「たかが平民の俺がお前に勝ったからって、わざわざ王族がお前の尻ぬぐいにでてくるのか? そもそも俺はお前が第一王子と仲良くしてる場面なんて見たことないんだから信用できない話だな」 


 ロクサリーヌに王族の話は聞いてたけど、今回はとぼけることにした。こんな性格した奴のために王族が動くなんて、ちょっと信じられなかったからだ。

 第一王子の権威をかざしても脅しの効果がないとキラカタルは判断したらしい。


「認めない! 俺は絶対に認めないぞ! お前に、平民にこんな力がある訳がない! あってはならないんだ!」

 キラカタルは錯乱状態だ。理屈で話しても通じないのかなぁ? このキラカタルって男は、と俺は思った。


「じゃぁ、1回死んどけ!」


 俺はもう一度キラカタルの顔面の真横を殴りちょっと派手な壁ドンしといてやった。殺すつもりの勢いでな。壁は吹っ飛ぶ。死んだと思ったのかキラカタルは気を失った。

「殴られた訳でもないのに勝手に気絶するなよ、まったく。手間のかかる御曹司おんぞうしだな」


 粉砕された地面と壁をみて「こんなバカなことが……」と呆然ぼうぜんとしているシュワルツマー先生に俺は話しかける。

「キラカタルは負けても、別に失うものなんてないんだからこれでいいでしょう? 俺の言い分を聞かず、シュワルツマー先生が決闘するなんて職権乱用したのがそもそもの原因ですよ?」

「キ、キサマ」とシュワルツマー先生は悔しそうにしていた。


「コイツがバカなことやった責任は、シュワルツマー先生がとるのが道理でしょう? 贔屓ひいきするのは先生の勝手だけどさ。コイツの手綱はしっかり握っててくださいよ。迷惑です」

 俺はため息をついて話す。他の先生が見ていることに気づいたシュワルツマー先生は、苦虫をみ潰したような顔をして


「今回の決闘はガ、ガザセル君の勝利だ……」


 と忌々いまいましげに俺の勝利を宣言した。その宣言を聞いて満面の笑みを浮かべ、俺に手を振るロクサリーヌを見つけた。その嬉しそうな様子を見ているうちに、もやもやしていた嫌な気分が、すっかり和んでしまった俺がいた。

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