第3話 ロクサリーヌという聖女

 吟遊詩人という鑑定結果が出ても俺がやることは変わらない。自分の強さを追い求める。


 支援魔法だって戦いに利用できるのならば取り入れようと俺は思った。魔法学校に入る前の準備期間は、武術と魔法の訓練、そして支援魔法を鍛えた。音痴は音痴なりにだけども。


 ずーっと昔に覚えた特殊な魔法、その魔法はビットという。効果は打たれ強さを強化するというもの。みんなからは効果が得られないから、クズ魔法と呼ばれていた。


 全ての基本は魔力量だ。ビットは魔力の消費量は多い。その割に効果が体感として得られない。打たれ強くなると言われても強くなってるのか実感がわかない。そういう魔法だ。


 その割に必要な魔力量は多い。使う人なんていないレベルで費用対効果が悪いクズ魔法とされてきた、それがビットだ。


 ある日、魔力量は魔力を使えば使うほど増えていく事実に俺は気づいた。だから考えた。それなら魔力量を増やすのであればもしかしたらビットが一番、効率がいいんじゃないか? と。 


 全てにおいて絶対に必要なもの。それは魔力量だと俺は考えていた。ビットで毎日、効率よく魔力を使い切った。そして結果的に魔力量だけは底が知れないくらい増えていった。


 ビットは役に立たないと言われていた。俺は魔力量が増えるならどうでもいいと思った。拳一つで戦えればいいと思っていたからだ。


 支援魔法もやってはみたがこれは結局のところ、広範囲の味方を対象に魔力を込めたメロディによって大幅に強化することができる歌ということらしい。音痴だと効果は微妙かもと言われたが、強くなる手段はいくらあってもいいと俺は思う。だからそう言われても訓練をひたすら続けた。



 そして15才になった俺は魔法都市ルクスベルにあるフラタルム魔法学校に入学することになった。御大層な名前だが大都市ではない。魔法学校があるから魔法都市と呼ばれるだけだ。


 俺は吟遊詩人だったし魔法学校は行くも行かないも自由だ。父さんは商人だ。フラタルム魔法学校には貴族の子供もいるのだ。


 その貴族の子供と仲良くなれば新たな商売の可能性が広がるかもしれない。フラタルム魔法学校に行ってくれ! そして貴族のお得意様を捕まえてきてくれ! ということだった。



 あんまり期待されても困るんだけど、俺はフラタルム魔法学校に入学し数日が過ぎていた。そしてクラス分けされた教室でみんな自由に席に座っている。でも周りを見渡すと、もう貴族は貴族、平民は平民という形で派閥ができているという現状だ。


 とはいっても貴族同士が勝手に集まって、平民は集まったりせずそのまま席についている、という状態だっていうのもあるんだけども。当然のごとく俺の周囲に貴族はいない。商人だから平民だし、そこら辺は仕方ない。


 貴族の子供と仲良くなって人脈を作れという父さんの指示だったが、この状態じゃちょっと難しい気もしてる。でも父さんのお願いだからできるだけ頑張りますか、と思ったその時だ。


「こんにちは。君って何が得意なんです?」

 と隣に座った女の子からいきなり話しかけられた。声の方を向くと金髪碧眼でストレートの長い髪に胸は大きめ。陶器を思わせる白い肌、そして魔法学校の制服がとても似合う可愛い女の子がいた。


 俺はちょっと考える。ジョブは吟遊詩人だ。俺自身は気分よく歌っている。けれども周囲の友人たちからは、気分よさそうに歌ってるのが信じられないレベルの音痴だ、と言われる。


 そんな俺のうまくもない歌だから、みんなに恩恵がある歌の効果はたぶん低いだろう。ユニークスキルの方の効果はめちゃくちゃ効果が高いけども。あとはユニークスキルは父さんから隠せっていわれてるしなぁ、と悩んだ。とりあえず


「武術が得意だけど? そういう君は?」

 この子は誰なんだろう? と思った俺はそう答えた。

「ロクサリーヌ・フリサオル。私はロクサリーヌって呼んでほしいです。よろしくお願いしますね!」

 ロクサリーヌと名乗った女の子はすずやかに笑った。やたらぐいぐいくる女の子だなと思った。

 

「お、おう。俺はガザセル・マキシスだ。呼びたいように呼んでもらっていいよ。よろしく、ロクサリーヌ」

 頷いたロクサリーヌはにこにこしながら話しだす。


「ガザセルさんの故郷ってどこなんです?」

「フラタルム王国のライカル街」

「遠いですね。じゃぁ、寮には入ってるのですか?」

「うん。寮生活だね」と俺はロクサリーヌに答える。


「そうですよね。私も故郷が遠いから寮生活ですよ」

「色んなところからみんな来るだろうしな。ロクサリーヌの故郷ってどこなの?」

「フラタルム王国のカラザメハ神殿都市です」

「へぇ。馬車で20日以上かかりそうなとこだね。そんな遠いところから来たのか~」

 地図を思い浮かべ答えた。


「うん、ジョブ鑑定があって。そのときに……」


 と答えようとしたロクサリーヌの発言をさえぎって


「お前、何者だ。聖女のロクサリーヌ様に気安く話しかけてんじゃねぇよ」


 いけすかない男が喧嘩腰で威嚇いかくするかのように俺に話しかけてきた。 


「キラカタル君は貴族なんです。キラカタル君もこの『フラタルム魔法学校では貴族も平民も平等に』って理念を思い出して!」とロクサリーヌは注意する。


 この男はキラカタルと言うらしい。『ロクサリーヌと話すな』と言われても、ロクサリーヌが話しかけてきたから返事をしてたんだけど、何でいきなり喧嘩を売られるんだろうか? と俺は思っていた。俺はこの男の発言内容を聞いて

「ロクサリーヌって聖女なの?」と俺は問いかける。

「い、一応ね?」と、ロクサリーヌはしどろもどろで答える。


「凄いね。聖女をこんな間近で見れるなんて。さすがフラタルム魔法学校」

 と素直に俺はロクサリーヌを称賛する。

「そんなことないですよ。私は聖女としては、ほんとにたいしたことがないから。ポンコツ聖女って言われたりしてますし」と下を向いてしょんぼりと話をするロクサリーヌだ。

「そんなこと言う奴いるの? 聖女のジョブを授かったんだろう? 勇者と同レベルの重要ジョブ。自信持っていいと思うよ?」

 ポンコツ聖女はいくらなんでも言い過ぎだろう、と思った俺はロクサリーヌを励ましたのだった。

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