第2話 覚醒するチートスキル
俺の右拳が当たった瞬間、土壁は派手な音をだして砕け散った。思わぬ力を発揮した俺の右手を見つめる。目の前には瓦礫の山ができあがっていた。
なぜこんなことができたのか? 俺は記憶を振り返る。幼い頃から訓練してきたが今までは土壁を殴っても、こんな瓦礫の山が発生することはなかった。
直前の行動を思い出す。殴る時に右手左足の順で攻撃するってイメージしてたから、それかなぁってイメージしたけど、強くなった実感はない。もう一度おなじ感覚で土壁を殴っても土壁はちょっと傷つく程度だ。
それならばとフェイントを入れて殴ったなぁ、と思い出してその通りにしても変わった感じはない。
どうしたものか。本から学んだ情報では魔法はイメージが重要だそうだ。歌も支援魔法で魔法の一種だしイメージがだいじなのかなぁと考える。俺は右手左足での一連の流れをイメージしてみる。
「もうお昼ご飯よー! いつまで訓練してるの? ガザセル! 訓練もいいけどちゃんと食事もしなさい。強くなれないわよ?」
母さんに言われ壁をどう殴るかイメージしながら
「分かった。すぐ行くよ!」
と答え土壁を殴ったら、さっき傷すらつかなかった土壁がまたしても砕け散った。蹴っても同じく粉砕した。破壊音を聞いて母さんが走ってきた。
「なにごと!? 大丈夫!? ガザセル!」
と慌てていた。そして壊れた土壁をみて
「ガザセル……この壁は何をしたの? 正直に言いなさい。今なら許してあげるから」
と目を吊り上げて怒っていた。絶対に許されないんだろうなぁと思いながら
「ごめんなさい」
と俺は謝った。
◇
幼い頃からも、サルタ師匠が亡くなってひたすら訓練してきた時も、こんな力は俺にはなかった。だからこの右拳が急激に強くなっていた状況を整理して考えてみた。この力はちゃんと理解してないと危険だと判断したからだ。
土壁を打ち砕く威力があってそれがなぜ破壊できたか分からないということはだ。何かで誤って発動した場合、相手に大けがをさせる、最悪、死なせてしまうという事態になりかねない。そんなことは俺の望むところではない。
この力の原因を調べるのは急務だ。速やかに解明しないとまずいと俺は思った。ここ最近の大きな出来事としてはジョブの鑑定だ。俺はその日のことを思い返す。
☆ジョブ鑑定があった日☆
俺を含むフラタルム王国民は全員13歳になるとジョブの鑑定を受ける。これは13歳の子供全員に義務付けられている。人生が変わる、ある意味では人生が決まってしまう行事だった。
勇者、剣聖、賢者、聖女、そして聖騎士あたりは上級ジョブとされて当たりジョブだった。この辺の鑑定結果がでた人は魔法学校に通うことが義務付けられている。
義務だからといっても当たりジョブの人に学費はかからない。孤児のパターンもあるからだ。そんな人に学費を払え、学校に通えっていう方が無理だからだ。
無理矢理にでも魔法学校に通ってもらう代わりに、学費や教材その他諸々は無料ってことになったそうだ。住む家がない人には寮生活のご案内がきて食事も無料で食べ放題だ。当たりジョブの人がこの世界にそんなにいないからできることらしい。
他の外れジョブの人は魔法学校に通うも通わないも自由だ。俺はなんのジョブになるのかワクワクしていた。目の前の神殿関係者の優しそうなおじいさんの様子を見つめる。
俺の目の前にいる
「ムム! これは……『吟遊詩人』ですな。支援魔法が得意になることでしょう」
おじいさんは鑑定結果を話した。父さんは当たりジョブでなくてがっくりと肩を落とした。母さんは「ガザセルって歌えたっけ?」と聞いてきた。
「周りは俺が歌うとみんな『ガザセルは音痴だな』ってよく言ってるよ。俺はそんなことはない、と思ってるけどね」と答えた。
「本当に? 歌えない吟遊詩人なんて普通の人と変わらないのよ? 大丈夫なの?」と母さんは心配してた。
☆ガザセル現在☆
ということがあり、吟遊詩人というジョブを俺は得たのだ。
①吟遊詩人のジョブを得たあとであること。
②右手左足をイメージしたこと。
③母さんに返事をしたこと。
④土壁殴ったこと
イメージしながら声をだしたことがこの能力の発動条件? と思った俺は右手左足を強化するイメージをしながら
「これで強くなっているなら『イメージしながら声に出す』ことが原因の可能性が限りなく高い!」
と、声に出して土壁を攻撃した。結果、右拳と左足の攻撃で土壁は砕け散った。粉砕成功である。その後、もちろん母さんに本日2回目になるんだけど、めちゃくちゃ怒られた。
◇
そのあと、色々実験した。
強化する身体の部位をイメージをしながら声に出すことが、どうやらこの能力の発動条件だと思われる。その効果があるのは自分のみ。この縛りがあるからこそ、大幅な強化になるようだ。
吟遊詩人の支援魔法は曲にのせて歌う、もしくは楽器で曲を
そこまでが基本だ。土壁を粉砕できた推測を自分なりに考えたあとで、父さんに相談した。父さんは商人だ。色々なことを知っているに違いない。そして俺の話を聞いた父さんは静かにこう言った。
「支援の歌を歌わずに、強化するイメージで声を出し、自らを強化できるのは恐らくお前だけのユニークスキルだ。そのユニークスキルは可能な限り隠せ。そうすればお前は『英雄』にだってなれる」
頭を
けれども父さんに言われたのは『英雄』だ。
英雄か。それはなかなか面白そうだ。つくづく単純だなとは俺も思う。けれども、今まで経験したことがないくらい『やってやろうじゃないか』という気力に俺は満ちていた。
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