静かなる異世界

平中なごん

一 奇妙な公園

 都内某所に、街の雑踏に混じって、ある奇妙な公園がひっそりと存在する。


 いや、奇妙と言っても特に珍しい景色が広がっているわけではなく、パっと見はどこにでもある都市型の小さな公園だ。


 しかし、そこに佇んでいる人々がなんだか妙な感じなのだ。


 敷地の中央に建つ時計塔をじっと見上げたまま何時間も突っ立っている爺さんだとか、くるくると回転しながら踊り歩くおばさんだとか、ベンチの上で胡座あぐらをかき、なにやら瞑想をしている仙人のような若者だとか、とにかく変な行動をとっている者達ばかりなのである。


 身形みなりからしてホームレスというわけでもなさそうだ。


 年齢もまちまちなので、近所に住む認知症の老人達が屯しているのでもないだろうし、仮にそうだとしても、なぜこの公園にばかり集まってくるのかは甚だ疑問である。


 まあ、そんな感じで明らかに不審な人々しかいないので、子供はもちろん、近隣住民達も寄りつかないようにしているためか、ますます変人ばかりが利用する公園になってしまっているようだ。


 かくいう俺もその近所に住む者の一人であり、その公園の脇は毎日のように通るのであるが、たとえ遠回りになるのだとしても中へ入ることは絶対にせず、ぐるりと迂回して回り道をするようにいつもしていた。


 ところが、ある夜のこと……。


 久々の飲み会で大いに酔っ払って帰ってきた俺は、回り道するのがどうにも面倒くさくなった。


「ま、夜なら誰もいないしな……」


 時刻は午後11時40分。深夜のこの時間帯だと、さすがにあの変なやつらも見当たらず、公園内はまったくの無人である。今ならば別に入ってもかまわないだろう。


 冷たく蒼白い街灯の光に照し出された、夜の闇と静寂の支配する公園内に足を踏み入れた俺は、そのまま突っ切って住んでるマンションのある反対側へと出ようとする。


 そういえば、この公園に入るのからしてこれが初めてだったと思うのだが、無論、特に何かが起こるようなことは微塵もない……まあ、避けていたのはここに屯するやつらの挙動不審に原因があるのだから、それが見当たらないのならば至極当然のことだ。


 また、酔っ払っていて頭が回らなかったせいもあるのだろうが、この公園デビュー・・・・・・に対してなにか感慨に浸るようなこともまるでない。


「なんだ。どうして今まで近道しようと思わなかったんだろう……」


 やってみれば、いとも簡単にショートカットができることに今さら気づき、俺はそんなことを呟きながら、足取りも軽く反対側の出入口へと到達する。


 そして、「U」の字を逆さにした形の車止めの柵を潜り抜け、隣接する裏路地へと出たのであったが。


「……!?」


 俺は、なんだか周りの空気が一瞬にして変わったかのような、なんとも不思議な感覚に捉われた。

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