第92話 進む謎解き
「その後、武装解除を持ちかけて、ゲレオン准教授を着陸艇のコックピットから引き剥がし、拘束したと。
このあたりで、ゲレオン准教授、気がついたことはありませんか?」
バンレートの問いに、ゲレオン准教授は考え込む。
「あえて言えば、剣、でしょうか……」
「どういう意味でしょうか?」
バンレートが重ねて聞く。
「あの私を捕えた兵士たちですが、見事な厚刃の長剣を持っていました。それ自体は鉄と鍛冶の技術を物語るものですが、中世の街並みの文明の中で、それだけの技術があって、なんで弓矢がないんでしょう?
考えてみれば、王宮の中庭に降りたわけですけど、火器までいかなくてもバリスタとか固定されたカタパルトとか、守備兵器がなければおかしい。この惑星は、戦争がない世界ではないんですから。
今にして思えば迂闊でしたが、なんでそれらの兵器がないことに気が付かなかったんだか……」
「……最初の、空飛ぶ獣に乗った兵士の群れの画像を」
ダコールの言葉に、情報士官パウルが自分の情報端末に映像を出す。
その画像は、パウルの指先で医務室に設置された大型モニターに転送され、極めて見やすいものになった。
普段は、艦を超えてのリモート手術に使われているモニターである。術野以外を映し出すことなど、初めてかもしれない。
赤や紫、緑の植物に覆われた地表が映し出され、鱗と羽の両方が生えた翼のある獣の群れと、それに乗った兵士が捉えられている。
画面一面に1000頭近くが編隊を組んでおり、画像がズームアップすると、1頭あたり2人の兵士が獣の首のあたりに跨っているのが見えた。
各兵士が装備しているのは、分厚い革製らしき鎧と、剣らしきもの、銃剣のついた銃らしいもの、だ。
「長剣はこれですね。
同じものです。
ですが、この銃剣のついた銃らしいものは見ませんでしたね」
ゲレオン准教授の言葉に、ダコールがバンレートに聞いた。
「というより、この道具を使用した映像はあったか?」
「ありません」
これは、バンレートに加え、パウルの声が重なった。
「これが武器の可能性は高いですから、さすがに何度も確認を取ったのですが、使用映像はありませんでした」
「私もです」
バンレートとパウルは口々に言う。
「どうにもわからないので、もしかしたらこの翼のある獣を使役するための道具かと思っていたのですが……」
パウルの言葉を聞いたダコールは立ち上がり、再び通話端末を手に取った。
「度々、済まない。
私だが、敵惑星で、翼のある獣に乗って飛び回っている人間の画像は結構撮られていたはずだな?
では、その画像を複数、医務室の大型モニターに転送してくれ。
至急だ。
鮮明であれば、どんなものでもいい」
そして、ダコールが通話端末を手放す前に、大型モニターに分割画像が映し出された。
井桁に割られた大型モニターには、9例の翼のある獣の飛行画像が映し出されている。
そして、その獣に乗る8例までが、銃剣のついた銃らしいものを持ってはいない。残りの1例は持っているが、革鎧を付けていて明らかに兵士である。
「こうなると、翼のある獣を使役するための道具、ではないな」
「そうですね。
となると、やはり武器ですね?」
ダコールの結論に、バンレートが聞き返す。
「武器であることは間違いないだろうな。鎧とセットだからな。
だが、これは銃か?
ゲレオン准教授、似たような形のものを、今まで他惑星でも観察されたことはおありか?」
バンレートの質問を、ダコールはそのままゲレオン准教授に丸投げした。
「私にも、銃にしか見えません。
弩にも似た形といえますが、弾性体の部分がない。
銃としても、テーザー、レーザー、ビーム、どの形式よりも、火薬を使ったものに見えます。
しかも、銃剣とおぼしきものがついている。
かといって、手槍にも見えない」
准教授の答えに、全員が頷く。
軍人なのだから、銃の基礎知識については言われるまでもないのだ。
「だとすると、今度は多寡が火薬銃を隠す意味がわかりません。
宇宙空間にいる我々を攻撃してのけた敵ですからね。その卓越した攻撃手段と火薬銃では、技術的レベルがあまりに違いすぎます」
ゲレオン准教授の見立てを受けて、パウルが意見を述べる。
「となれば、あれは火薬銃ではない。
先ほどの話、『生命は見え、触れられ、失われたら戻らず、測定できる』技術の延長のなにかだろう。
例えば、人を直接的に衰弱死させるような武器なのかもしれん」
「となると、敵は我々のドローンに気がついていましたから、その技術を隠すために使用を禁じたのかもしれませんね。
それで、我々もデータがとれていない」
「ありそうなことだ」
ダコールとバンレートが話を進めていると、ゲレオン准教授がさらにそれを補強した。
「そのことについてですが……。
捕らえられて、縛り上げられたあと、私は他の星から来たのだから、不用意に触れると病気になるかもしれないぞと敵を脅したんです。
拷問にかけられるのを防ぐ意味もありました。
それに対して、先ほどのマリエットに代わった声が、我々の言語で、『病気になど罹らない。また、罹ったとしても我々は、即、治る』と言ったのです。
これは、先ほどの『生命は見え、触れられ、失われたら戻らず、測定できる』技術を誇ったのかもしれません。
人を直接的に衰弱死させるような武器の逆、です」
「……なるほど」
そう言ってダコールは笑い出した。
続いて、ゲレオン准教授以外、ギード軍医まで笑い出す。
「なにか?」
不安そうな面持ちで聞くゲレオン准教授に、バンレートが答えた。
「敵は失敗したんです。
武器は注意深く隠していたのに、医療については自白してしまった」
「ありがちですね。
同じ技術レベルのことなのに、分野が違うとガードが下がって情報を与えてしまう。
我々も、何度か失敗した例があります」
と、これはパウル。
ゲレオン准教授は、「失敗例? どういうことだ?」と訝しく思った。
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あとがき
ゼルンバス側、大失敗の予感w
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