第42話 せめぎ合い
1回目のスラスター最大噴射が終わり、慌ただしくその評価が始まる。
「小惑星弾、全機能正常。
コリジョンコースとのズレ角度減少」
「全センサー異常なし。
データ、量子化密度最大で、リアルタイムで本艦に転送されています」
「3弾目のデータと突合、リアルタイムで本艦コンピュータで解析せよ。
変化を見逃すな」
「了解」
ダコールの命令が下されるが、すでにオペーレータ士官たちはその操作を始めていた。
「スラスター2回目噴射します。
3、2、1、噴射、1、2、3、4、噴射停止。
1分後に、最後の最大噴射します」
「小惑星弾、全機能正常。
ズレ角度減少、進路、さらに戻りま……。
緊急!
小惑星弾、再びズレ角度増大中!」
「センサーは、なにか捉えているか?」
バンレートの声に、士官たちは再びモニターと操作パネルに向き合う。
「小惑星弾搭載カメラからの映像を確認しましたが、なにも映っていません。デブリとの衝突も認めず」
「周囲に金属反応の接近を認めず」
「自軍以外の推進剤、スラスター噴射体の痕跡、
「小惑星弾搭載レーダーでの事前探知、
あ、これは……。
反応とらえました。
小惑星弾表面一点の岩石が熱せられて蒸発し、そのガスの反作用で進路が動いているようです。おそらくは、不可視レーザー光と思われるものが、小惑星弾の一点に放射されているものかと。
さらに、小惑星弾、回転をはじめました。アンテナはまだ可動域内。こちらを向いています」
ダコールとバンレートは視線を交わす。
いよいよ、敵も手の内を見せてきたのだ。この星の監視結果から想定される文明レベルで、レーザーが発せられるわけがない。これでこの星の地表の構造物は、見せかけの擬装であることは確定だ。
それだけではない。
さらに考えるなら、レーザーは大気で散乱してしまうものだ。つまり、このレーザーの発射元は地表ではない可能性が高い。
高高度で人工衛星が飛ばされていて、そこからの発射と見るのが妥当だろう。となると。単独の運用ではなく、人工衛星防衛網が構築されていると見るのが順当だ。現状、そのような設備の発見はされていないが、ステルス技術に特化した技術体系がこの星にはあるのかもしれない。
ただ、これで瞬間物質転送機など想定しなくてもよくなる。
技術レベルとして、相当に低くなるので、この星系の他の惑星に文明の痕跡がなかったことの説明もつく。
やはり、空間を操作し、光速を超えるような技術はないのだ。
バンレートは士官に問う。
「敵惑星からの通信波、レーダー波は検知しているか?」
「
「なんらかの形で照準を定めているはずだ。
レーダー波の探知に全力を上げろ。
姿勢制御に要する、噴射体放射量は?」
「今であれば、1%未満です」
「では、自転を止め姿勢を安定させよ。
その上で、4回目までの噴射を想定し、軌道修正」
「了解。
スラスター噴射……、停止噴射、今。
回転止まりました」
次の瞬間から、第1連携戦術
「岩石蒸気、増大。
敵の不可視レーザー光と思われるもの、出力を増したと思われます。
再びコリジョンコースからのズレ角、増大中」
「2回目噴射から、1分経過します。
スラスター3回目噴射します。
3、2、1、噴射、1、2、3、4、噴射停止。
コリジョンコースに戻りきれません。
4回目の噴射の軌道計算を至急!」
「再計算データ、でました。送ります」
「データいただきました。
スラスター4回目緊急噴射、準備にかかります」
「小惑星弾、全機能正常。
全センサー、引き続きアクティブ。
「再度、姿勢制御噴射、今。
自転停止」
「4回目緊急噴射、どうぞ」
「スラスター4回目噴射します。
3、2、1、噴射、1、2、3、4、噴射停止。
残存噴射体6%。あとは、姿勢制御のみ可能です」
「小惑星弾、コリジョンコースに戻りました」
「岩石蒸気、増大中。
小惑星弾、再びコースから外れようとしています。
このままだと対象惑星には当たりますが、大気に弾かれて突入回廊に入れません」
「小惑星弾、自転状況はどうか?」
「再び加速中。
まもなく、アンテナ可動範囲を越えます」
「姿勢制御噴射、今。
自転停止」
「残存噴射体5%を切りました。
姿勢制御スラスターも、あと6回の使用で限界です。アンテナ姿勢制御、3回を残すのみです」
オペレーター士官たちの多数の声が飛び交う中、ダコールの声が響いた。
「姿勢制御放棄。
アンテナがこちらを向いたときのみ、データのやり取りをする。
そのかわり、自転の周期を読んで、残存噴射体5%を進路維持に使え」
「それでも、目的地に到達できません」
「構わない。
目的は敵の手をできるだけ出させることだ。4弾目は、そのための捨て駒として使用する」
士官たちの手指が再び動き出す。
「了解。
演算完了」
「演算結果を小惑星弾側のAI制御に転送し、あとは向こう側の自律モードで、残存噴射体5%の使用の最適解をもって命令を実行します」
「結構。
データは、可能な限り回収しろ」
バンレートの声も飛ぶ。
「了解」
「岩石蒸気さらに増大。
敵不可視レーザーの出力、さらに上がったものと推測」
「敵惑星からの通信波、レーダー波は検知しているか?」
「まったく検知できません」
その報告に、ダコールは唸り声を上げた。
「……どうやって、照準を定めているんだ?
光学的にか?」
「その可能性が高いでしょう。
ですが……」
「そうだ。
とてもではないが、光学的観測のみで小惑星弾を発見するのは無理だ。
10km先の1mmの球だぞ。
しかもその一点になんらかの誘導もなしでレーザーを当て続けるなど、技術的に不可能だ。
小惑星弾は軌道修正のために不規則に動いていて、しかも光速でも情報ラグが生じる距離だぞ」
つかの間、第1連携戦術
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あとがき
謎の技術レベルなのですw
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