第8話 アーヴァー級宇宙戦艦、第2連携戦術戦闘艦橋
暗い部屋には、かすかに電子機器の唸りが響いていた。
計器の示すデータ表示のほのかな明かりだけが、オペレーター士官たちの顔を照らしている。
ここは、アーヴァー級宇宙戦艦の第2連携戦術
アーヴァー級は、旗艦クラスの戦艦として作られ、乗員は3000名を超える。
その構成は、艦および艦載機、傘下艦隊の空間戦闘時に用いる旗艦艦長を中軸とした第1、第2戦術
監視衛星からの画像を見つめていた、女性士官が報告の声を上げた。
「コード T1P1への小惑星弾の命中を確認。
小惑星弾搭載カメラからの映像も確認済み。
監視衛星による戦果評価に入ります」
「着弾に際し、どれほど些細なものでもよいが妨害行為はあったか?」
そう聞く総作戦司令ダコールの声は、囁きと言ってよいほど小さかった。
これにより、部下たちは必然的に緊張を保ち、耳を澄ませるのだ。
「
「次弾も、コリジョンコースのまま正常。
こちらも進路への妨害を認めず」
「三弾目、四弾目も妨害を認めず、コリジョンコースのまま。スラスター噴射回数も規程内」
「結構。
最終弾、発射準備整っているか?」
「
鉄性小惑星の捕獲と、その重量重心点及び帯磁中心点の解析は共に完了。スラスター取り付けも終っています。
空間磁気カタパルトのみ未構成」
「では、最終弾発射準備にかかれ。
空間磁気カタパルト、構成。
作戦目的は、対応不可能な複数回の攻撃の後に、最大版図の首都を壊滅させ、烏合の衆となった残りの各版図の元首相手に有利な交渉に入ることだ。
したがって、最終弾のミスは許されない」
ダコールは、そう作戦目的を伝えた。
これは、ダコール個人の考えに依るものだ。
軍である以上、無条件に従えと命令することもできる。だが、
それに、非常時には指示が出し切れないことも想定できるし、彼らの中から艦隊司令や方面軍を任される総作戦司令も出るかもしれない。人材は育てねばならぬし、一朝一夕で育つものでもない。
「了解。
小惑星弾誘導磁気カタパルト、動力回路接続」
「動力回路接続、よろし」
「対消滅炉、限界出力の54%」
「磁気回廊構成確認」
「各磁気放射機、安定。放射量全機誤差規定内」
「小惑星弾取り付けスラスター、噴射体充填101%。
各軸線ごとに試噴。3軸とも誤差規定内。
最終チェック完了。噴射体充填100%」
「作戦指定座標、読み込み完了」
「目標座標、最終確認せよ」
「指定座標につき、2名の士官による最終ダブルチェック完了。齟齬なし」
「カタパルト、構成完了。
指定座標へのエイミング完了。
全プロトコル、パーフェクト。
司令のタイミングで、いつでも射出可能です」
「射出」
ダコールの命令は、平坦で静かだった。
威勢のいい語調は不要だ。無意味な高揚も要らない。個人の武勇で戦う時代は終わったのだ。
合理で作戦を立て、たんたんと補給任務をこなし、機器のメンテナンスに努め、オペレーションを素早く完璧に行う。それを積み上げれば、勝利は確実にやってくる。それが宇宙での戦いと、ダコールは作戦司令として考えている。
「動力回路切断。
完了プロトコルに入れ」
「了解」
「これから後、3時間ごとにコースの確認と微修正を行え。
僅かでもコース逸脱が見られた場合、即報告せよ」
「了解。
異常事態が生じたら報告します」
「以降の作戦指揮権は副司令に預ける」
「副司令兼旗艦艦長、作戦指揮権、受け取りました」
「総司令、退室」
「退室」
その復唱に合わせて、ダコールは立ち上がった。
今ごろ
命じた茶は、3RS(Resource recycling and resynthesis system)で合成されたものではなく、自ら持ち込んだ高級品茶葉だ。淡い紫色の水色が美しく、香り高い。
そして、ダコールは椅子に倒れ込むように座り、紅茶の湯気を吸い込む。
背中から生えていた、逆だった棘が抜けていくような気がする。
ダコールは目を瞑り、無意識に作戦案の再確認をしていた。
今回のターゲットの星は、その文明過程にて他の星と著しく異なる点があった。偵察衛星の送ってきた情報の分析によれば、農業は窒素肥料合成の段階に達していない。工業は
なのに、なぜか全体しての生産量は不釣り合いに大きい。
例えば……。
都市の出す熱源総累計量は、偵察衛星の赤外線観測で簡単に累積量の測定ができる。
そして、それは人口と文明レベルで1つの方程式で表すことができる。
だが、この惑星では、文明レベルによる想定値から大きく逸脱した数値が測定された。当然地熱ではないし、想定される薪や炭、石炭までを燃やして得られる熱量レベルではない。
全住人が冷暖房を前提とした空間に生活し、3食温かいものを飲食し、毎日風呂に入っている生活を実現できるぐらいの大きさなのだ。
最低でも薪を燃やして得られる20倍の熱量となると、核分裂炉の存在の想定までが必要になる。そして、そのような炉は人家から一定の距離を離すのがセオリーであり、炉の熱源が別に観測されて然るべきである。
炉と都市の熱源が一致するというのは、なかなか通常の文明ではありえない。
また、これだけの人口があるなら、都市交通機関もあって然るべきだ。ところがそれは観察されていない。
このような齟齬が、この惑星では全地域に渡って無数にある。
文明の個体差という解釈で、容認される範囲を超えていた。
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あとがき
艦隊側です。
直接攻撃してこないのには、理由があるのです。
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