21 彼のためにも
「後は、君が知っているとおりだ。ミレーユは意識を失って二日間目が覚めなかった。そして、その後目覚めると、ミレーユは君に……ユリアナになっていた」
淡々と話すジェイクの言葉を私は黙って聞いていた。
「意識を失う前のミレーユは記憶喪失になっていた。だから俺は慎重に声を掛けたんだ。そして話をしているうちに徐々におかしなことに気付いた。それは記憶喪失なんてレベルじゃない。完全に中身は別人のように思えるほどに」
「そうだったのですか……」
「ああ、そうしたら突然鏡を見せてくれといい出したから渡せば悲鳴を上げて気を失ったのだから。あのときは本当に驚いたよ。そして極めつけは名前を名乗ったときだ。ユリアナと名乗ったときに確信した。中身が全くの別人になってしまったということをね」
「……本当にすみません……」
私はもう謝ることしか出来なかった。
「何故謝るんだい?」
「そんなのは決まっているじゃありませんか。どのような経緯があって、こんな事になってしまったのか分かりませんが。私は貴方のミレーユの身体を奪ってしまった別人ですよ? しかも十年も前に死んでしまった……いわば私は幽霊のような存在なのですから」
自分の声が震えているのが分かる。
万一、何らかの形でこの身体から追い出されてしまった場合……私の魂の居場所は無くなってしまう。
そうなると、私はどうなってしまうのだろう? この世をあてもなくさまよい続けるだけの存在になってしまうのだろうか?
未知への恐怖で身体まで震えてきた。
「大丈夫か? 随分震えているじゃないか。それに顔色も悪い」
心配そうに声を掛けてくるジェイク。
「すみません……あまり気分が良くなくて……すみませんが、少し休ませて頂けても良いですか?」
これ以上彼と話をするのは辛かった。
「ああ、勿論だよ。横になったらどうだ?」
「はい、そうします」
私は荷台の一番奥に移動すると、そのままジェイクに背を向けて横たわった。
「着いたら起こしてあげるよ」
背後からジェイクが声を掛けてくる。
「お願いします」
失礼だとは思ったが私は背を向けたまま返事をした。
ジェイクは優しくて親切だ。そして私を気にかけてくれている。
けれど彼が心配しているのは私ではない。この身体のミレーユなのだ。
きっと、さぞかしこの身体から出て行って貰いたいはず。だとしたら、私はこれ以上ジェイクに迷惑を掛けるべきではないのかもしれない。
以前ジェイクは私に危険な真似はやめてもらいたいと言って来たことがある。
それは私がヘマをして、この身体に何かあった場合を心配して言っていたのだろう。
だとしたら、やはり私は……もう報復などということは考えず、身を引いた方が良いのだろう。
幸いベルンハルト家の騎士たちは集まり始めている。生き残りの騎士たちを全員集めた暁には、あとのことはエドモントにまかせて彼をリーダーとして……一族の恨みを晴らして貰ったほうが……
そんなことを考えているうちに、馬車の揺れもあいまって……私はいつしか眠りに着いてしまっていた――
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