18 あの日の夜のこと

「俺が放っていた密偵は女性で、侍女としてミレーユの側に置いていた。あの日はミレーユを幽閉されていた塔から救い出して、俺が馬を連れて城の外で待つことになっていたんだ。それが……事件が起こってしまった」


「事件……? それは私が見た夢……?」


「詳しいことは良く分からないが……多分ユリアナが見た夢の内容と同じなのだろう。あの夜は密偵の手引でミレーユは西門から逃げ出す手配になっていたんだ。俺はじっと門の前で待っていたのだが、いくら待ってもミレーユはやってこない。そのうちに城の内部で激しい炎が吹き上がるのをこの目で見た」


炎……夢の中でミレーユは自分を捕らえようとした近衛兵達に炎を放っていた。その炎をジェイクは目撃したのだろう。


「騒ぎは裏門の方から聞こえてきていたので急いで裏門へ向かった。すると城の騎士達が一斉に森へ向かって走っていく姿が見えたんだ。その様子を見てすぐに気づいた。恐らく彼らはミレーユの姿を追っているのだろうと。だから俺は背後から騎士たちの足を攻撃して、彼女を追えないようにしたんだ……」


ジェイクが眉をしかめる。


「そして闇の中、ミレーユの姿を追っていくと川に出た。丁度月明かりで河原は明るく照らされていたので必死で彼女の姿を捜した。すると遠くの方で川に近付く人物を見つけたんだ。そしてそのまま……その人物は川に落ちてしまった」


「!」


その話に私の肩が跳ねた。ジェイクの話と私が夢で見た内容は一致する。



「ミレーユ姫は森の中をさまよい歩き続けたので、喉がカラカラだったのです。そして川を発見しました。彼女は水を求めるために川へ向かい、川の水をすくって飲もうとしたときに、自分の両手に真っ赤な血がついてることに気付きました」


ポツリと呟くジェイクに私は夢の話をする。


「以前も同じことを話してくれたよな? あの話を聞かされたとき……驚きで平静を装うのに苦労したよ」


ジェイクは苦笑いを浮かべる。


「俺は必死で馬を駆けさせ、川に流されていくミレーユの姿を追った。そして運良く川の中に倒れていた巨木に引っかかり、流されていくのを止められたんだ。そこで急いで川の中に入り、意識の無いミレーユを助け出した。その後、あの隠れ家にそのまま連れて行くことにした」


「そうだったのですか……ではその後、二日間意識を失っていたミレーユ姫がふたたび意識を取り戻した時、目覚めたのは私だったというわけですね?」


「いや、いきなりじゃない」


するとそこで否定するジェイク。


「え? そうなのですか?」


「ああ。ミレーユはあの隠れ家に向かう途中で、目を冷ましたんだ。記憶を失った状態で……」


ジェイクの声は絶望に満ちていた――

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