4 過去の夢?

 血なまぐさい匂いで我に返った。


そこは大広間で、天窓から差し込む満月の光によって青白く照らされている。


『ここは……?』


何故、私はこんなところにいるのだろう? それに頭がぼんやりして記憶が曖昧だった。


『確か……私は自分の部屋で眠っていたはず……』



そして何気なく手元を見たときに……


『ヒッ!!』


思わず悲鳴を上げた。驚いたことに、右手には血に染まった剣が握りしめられていたのだ。


『キャアッ!!』


驚いて剣を落としてしまった。


カラーンッ!


大広間に音が響き渡る。


『な、何……? 一体これは……?』


自分の身に何が起こっているのかさっぱり見当がつかなかった。薄明かりの中、目を凝らしてみると、人が床に倒れているの様子がかろうじて見えた。

私はゴクリと息を呑むと、ゆっくりと倒れている人物に近づき……



ピチャ……


足元に何か生暖かい、液体を踏みつけてしまった。


『え……?』


目を落とすと、それは真っ赤な血溜まりだったのだ。


『キャアアアアアアアッ!!』


私は激しく絶叫し……そして血溜まりの中に倒れているのが、自分の父であることに気づいた。


『え……? お、お父様……? お父様っ!』




そのとき――



『悲鳴が聞こえたぞ!』

『こっちだ!!』


何者かの声と同時にバタバタと足音がこちらへ近づいてくる。


そして、通路の奥から駆けつけてきたのは近衛兵たちだった。


『あ! あなたは……ミレーユ姫様ではありませんか!』


『何故ここにいるのです!? 北の塔に幽閉されていたはずでは!?』


『待て! 何か……様子がおかしい……あ! あれは……陛下!』


『大変だ!!』


近衛兵たちは、父に駆けつけ……首を振った。


『なんてことだ……亡くなられている……』


「まさか……ミレーユ様か!?』


近衛兵たちが一斉に憎悪の目を向ける。


『違う!! 私じゃないわ!!』


『何が違うというのです!!』


『そのように血まみれの姿で……しかも、足元には剣が落ちているではありませんか!!』


1人の近衛兵が私の足元に落ちていた剣を指差す。


『そ、そんな……ほ、本当に何も覚えていないのよ……』


ガタガタ震えながら訴えるも、誰も聞き入れてくれない。


『ミレーユ様、国王陛下殺害容疑で捕らえさせて頂きす』


その言葉と同時に近衛兵達が近づいてくる。


『イヤ……こっちに……来ないで!』


捕まったら……今度こそ逃げられない!

私は右手を差し出した。するとその手に紋章が浮かび、怪しく光り輝く。


『気をつけろ! 炎の魔法だ!』


『しまった……! 拘束具が外れている!』


近衛兵たちのたじろぐ声が聞こえてくる。


『私は……これ以上、戦争に加担するのはイヤよ!』


叫ぶと、右腕から火柱がほとばしる。


『ぎゃあああ!』

『熱い! 火が!』

『こ、この……魔女め!』


炎に包まれる兵士達の悲鳴を聞きながら、私は背を向けるとその場を走り去った――




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