3 炎の魔法

 その夜、私達はこの食堂の二階に宿をとることにした。


私だけは一人部屋で、ジェイクたちは三人同室だった。


「それではユリアナ様、今夜はごゆっくりお休み下さい」


私の部屋の前でエドモントが声を掛けてきた。


「ええ。そうさせてもらうわ」


「おやすみなさいませ、ユリアナ様」


ラルフも声を掛けてくる。


「ええ、おやすみなさい」


「ユリアナ、戸締まりはしっかりしろよ。何かあったらすぐに部屋まで呼びに来るんだ」


最後に声を掛けてきたのはジェイク。


「はい、分かりました」


まるで保護者のようなセリフに笑みが浮かぶ。


「何かおかしいか?」


「いえ、何もおかしくありません」


「そうか……?」


そしてジェイクは首を傾げながら自分たちの部屋へと入っていった。

そこで私も扉を開けて部屋の中へと入った。



パタン……


「ふぅ……」


部屋に入ると、早速鍵を掛けて中へと入った。ありがたいことにこの宿屋は大きな水瓶に水がためられている床がタイル張りの洗い場が設置されていた。


『ウィスタリア』地区を出発してからまだ一度も汚れた身体を洗っていない私には都合が良かった。


「この水瓶の水で身体拭くことが出来るわね……」


けれど、できればお湯に浸かりたいのが本音だった。


「でも仕方ないわね。今は戦時下だし、贅沢は言えないわ」


それに私は女騎士だった。戦場では何日もお湯に浸かれない日々を送ってきたのだ。


「でも、この水瓶…中に入って浸かれそうね。中身が水なのが残念だわ」


せめてお湯だったら……


その時――


「え?」  


突然右腕が光り輝き、手に怪しげな紋章が浮かび上がる。


「な、何!? これは! キャア!!」


突如、自分の右腕に炎がまとわりついた。


「イヤアア!! あ、熱……え?……熱く……ない……?」


炎にまとわりつかれた右腕は少しも熱さを感じさせない。


「一体これは……? もしかして、この水……お湯にできないかしら?」


けれど、どうすればお湯に出来るのか全く分からない。そこで試しに右腕を水瓶の中にいれてみることにした。


「こんなことすれば、きっと炎は消えるでしょうね」


ところが予想に反したことが起きた。


「え……? ま、まさか……!」


驚くことに水の中でも炎は消えることはない。それどころか……


「お湯になってきている……」


水瓶の水はお湯に変わってきたのだ。しかも段々熱くなってきている。どうしよう?どうやって火を消せば良いのだろう?


「お……お願い! 消えて!」


駄目でもともと、叫んでみた。すると、それまでまとわりついていた炎が一瞬で消えた。


「き……消えた……?」


水瓶の水はすっかりお湯になっている。


「一体何が起こったの……? でも……」


私は服を脱ぐと、そっとお湯の中に足を入れた。




「ふ〜……久しぶりのお湯は気持ちいいわ……」


この身体で目覚めて初めて浸かるお湯は本当に気持ちよかった。


「それにしても……まさか、この身体の持ち主が……魔法を使えたなんて……」


魔法を使える人間はこの世界にほんの僅かしかいない。


「ますますこの身体の持ち主のことが気になるわ……」


お湯を身体にかけながら、ポツリと呟く。



そしてその夜、再び私は不思議な夢を見た――

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