16 隠れ家での朝

 その後は特に夢を見ることもなく、私は眠りに就くことが出来た。



どれくらいの時間が流れたのかは分からない。けれど、私はふと目が覚めた。

瞼をこすりながらベッドから起き上がると、辺りに美味しそうな匂いが漂っていることに気づいた。


「何の匂いかしら……?」


ベッドから下りて、部屋を出ると既にテーブルには席に着いたラルフとエドモントの姿があった。


「あ、おはようございます。ユリアナ様」

「お目覚めになりましたか?」


エドモントとラルフが交互に声を掛けてくる。


「ええ、起きたわ。ところで……今は何時なのかしら?」


ここは深い洞窟の中に作られた隠れ家。当然陽の光が差すことは無いので、時間がさっぱり分からない。


「今は午前7時を過ぎたところですね。朝食にしようとしていたのですが、お二人はよくお休みになっていたようなので、先に頂いておこうかと思っていたのです」


ラルフが答えた。


「そうだったのね。でも、もう大丈夫。起きられたから」


「それでは我々と一緒に食事にしますか? グリーンスープを作ったのですよ」


「ありがとう、エドモント。でも、私達だけ先に頂くのはジェイクさんに悪い気がするの。少し部屋に行って彼の様子を見てくるわ」


「分かりました。では我々も待っていますね。どうぞ行ってらして下さい」


「分かったわ」


エドモントに返事をすると、私はジェイクの部屋へ向かった。




「ジェイクさん……?」


部屋を覗くとベッドに横たわっているジェイクの姿があった。眠っているのだろうか……?


ベッドに近づいていくと、唸り声が聞こえてきた。


「う……うぅ……」


見ると、ジェイクは額に汗をにじませながら苦しげに唸っている。


「ジェイクさん? 大丈夫ですか?」


慌てて声を掛けながら、身体を揺すると彼は薄目を開けた。


「う……」


「大丈夫ですか? 酷くうなされているようでしたけど……?」


すると、何故かジェイクはベッドに横たわったままじっと私を見つめ……ポツリと呟いた。


「ミレーユ……?」


「え……?」


「良かった……助かってくれて……」


虚ろな目でジェイクは私を見つめ……右手を伸ばして私の頬にそっと触れてきた。


「ジェイクさん……? ミレーユって誰ですか?」


「え……?」


私の言葉にジェイクは目を見開いた。


「す、すまない! 寝ぼけていたようだ!」


慌てて飛び起きると、ジェイクは私を見て苦笑いした。


「いえ、それは大丈夫ですけど……それより、エドモント達が朝食の用意をしてくれたのですが……どうされますか?」


「ああ、先に戻っていてくれるかな? 俺も準備が出来たらすぐに行くから」


「はい、分かりました。では先に行ってますね」


それだけ告げると、私は部屋を後にした。


それにしても今のは一体何だったのだろう?



もしかすると、ジェイクは……この身体の持ち主のことを知っていたのだろうか……?


けれど、何故かそのことをジェイクに確認する気にはなれなかった――


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