3 疑問
「それでは私が着ていたドレ……い、いえ。服はどうなったのでしょうか?」
思い切って尋ねることにした。
「ああ、あの服だね……うん。一応洗濯して畳んであるけど……かなりボロボロの服だったね。だから君が今着ている服もこの卵をくれた女性の物なんだよ。お古で良ければと言ってね、くれたんだよ」
「え……?」
その言葉に私は耳を疑った。一体どういうことなのだろう?
「あ、あの……川に落ちた時、私が着ていた服というのを……見せて頂けますか?」
不安な気持ちを押し殺しながら、私は尋ねた。
「いいよ。今持ってきてあげるよ」
青年は立ち上がると、床に置かれた木箱へ向かった。そして蓋を開けると、畳まれた服を持って戻ってきた。
「まだ着られることも無いと思うけど……この服のことだろう?」
彼が差し出してきた服を見て私は息を呑んだ。
「う、嘘……?」
それは服と呼ぶにはあまりにお粗末なものだった。枯れ草のようなゴワゴワした素材の服は、まるで囚人服のようにも見える。
すると彼も同じようなことを考えていたのか、尋ねてきた。
「君……ひょっとして囚人だったのかい?それとも奴隷として売られていく最中だったのかな?それで逃げ出して……川にでも転落したのかい?」
彼は少しだけ険しい顔で尋ねてきた。けれど、もはや私は質問に答えるどころではない。
「あ、あの……ほ、本当に……わ、私はこの服を着ていたのですか……?」
「そうだよ。え……?もしかして覚えていないのかい?」
先程の険しい顔から、今度は心配そうな表情で彼は私を見つめてきた。
「そ……そうかも知れませんね……。や、やっぱり目覚めたばかりだからなのかもしれません……」
私の心臓はドクドクと脈打ち、とても冷静ではいられなかった。今、目の前に座る人の良さそうな青年は嘘をついてるのだろうか?
「大丈夫かい?顔が真っ青だ」
「そ、そうでしょうか?でも確かに少し気分が悪いかも……」
「よし、ならリラックス出来るようにお茶を入れてあげるよ。丁度ハーブティーをこの間作ったばかりなんだよ。待っていてくれるかな?」
「ありがとうございます」
すると彼は柔らかな笑みを浮かべると、再び部屋の奥へと消えていった。彼の姿が見えなくなると、私はため息をついた。
「はぁ……」
そして何気なく窓の外に目をやると、オレンジ色の空が見える。
「ひょっとして今は夕方なのかしら……」
それにしてもあれから2日も経過していたなんて……。
私は家族には秘密で屋敷を出てしまった。唯一、私の行き先を知っているサムは……。
「サム……ごめんなさい……」
無数の矢が突き刺さって雨に濡れながら息絶えていたサムの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
彼の家族に何とお詫びをすれば良いのだろう?
とりあえず、お茶を1杯だけ頂いたらここを出て後日お礼に訪れよう。
そこまで考えていた時、彼がトレーにカップを二つ乗せて戻ってきた。
「お待たせ、熱いうちに飲みなよ」
そして私の前にお茶の入ったカップを置くと、再び向かい側の椅子に座った。
「ありがとうございます……」
お礼を述べて、カップを手にし……私は息を呑んだ。
「う、嘘でしょう……?」
「え?どうかした?」
彼が再び尋ねてくる。けれど、今の私にはもはや彼の質問に答える余裕は無かった。
「だ、誰っ?!」
カップの水面に浮かぶ顔は私では無かった。
「そ、そんな……!」
ガチャーンッ!!
思わずカップが手から離れ、床に落ちて派手に割れる。
「おい?!どうしたんだ?!怪我は?!火傷はしていないかっ?!」
彼が立ち上がり、私の左手首を掴んできた。
「か、鏡は……?」
「え?鏡?」
「鏡はありませんかっ?!」
「あ、ああ。鏡ならあそこに……」
彼が指さした先には楕円形の鏡が壁に取り付けてあった。
「!」
私は急いで鏡に駆け寄って覗き込み……。
「キャアアアアアッ!!」
とうとう耐えきれず悲鳴を上げてしまった。
「どうしたんだっ!」
背後で彼の声が聞こえる。
「そ、そんな……私の顔じゃ……無い……」
そして、そのまま意識を失ってしまった。意識を失う直前に見たのは、彼が私を抱きとめる姿だった――。
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