1章

1 見知らぬ場所での目覚め

 苦しい……息が出来ない……誰か助け……


「ハッ!」


 突然私は目が覚めた。目覚めて最初に見えたのは見たことも無いほど粗末な木の天井だった。

 

「え……?ここは何処……?」


 確か私は崖の上から川に転落して、そのまま水の中へ沈んでいったはず……。


「ひょっとして助かったのかしら……?」


 不思議なことに矢の刺さったはずの胸の痛みは全く感じられない。首だけ動かして辺りの風景を眺め、ここがとても粗末な小屋だということが分かった。

 おまけに寝かされているベッドも固くて寝心地が良くない。いつも自分が使っているベッドに比べると雲泥の差だ。


 ゆっくり身体を起こし、私は自分がとても粗末な服を着ていることに気づいた。

ゴワゴワした布地のブラウスに、エプロンドレス。これでは屋敷で働いているメイドも方が余程上等な服に思える。


「それにしても、一体ここは何処なのかしら?」


 ここは天井も壁も床も全て粗末な木材でできている。部屋の中央には四角いテーブルに2脚の椅子。壁の右側には暖炉が備えてあり、パチパチと炎の爆ぜる音が聞こえてくる。

 小屋の中の窓は小さな小窓が扉のある壁と暖炉の壁側に2つ着いている。私が寝ている部屋の奥に、もう一つ奥へ続く部屋が見える。

 

「ここに、私が寝かされているということは、きっとこの家に住んでいる人が私を助けてくれたってことよね」


 身体も動かせそうだし、私はベッドから起き上がることにした。


「靴は……え?こ、これ?!」


 ベッドの足元に置かれた靴は粗末な皮の靴だった。


「服は濡れてしまったから、乾かして貰っているかもしれないけれど……何故こんな貧相な靴が置いてあるのかしら?」


 私が履いていた靴はヒールのある赤い革靴だったはずだ。


「ひょっとすると、靴は川の中で脱げて流れていったのかもしれないわね。とりあえずこの靴を借りましょう。サイズが合えばいいけど……え?」


 履いてみると驚いた。まるでずっと履きなれていたかのように足にしっくり馴染んでいる。


「どういうこと?何故こんなに足に馴染んでいるのかしら?」


 いくら考えても理由が分からない。けれど、今はそんな些細なことはどうでもいい。


「暖炉の火が燃えているということは人がこの家にいるか、近くにいるはずだわ」


 とりあえず、この部屋には人の姿は見当たらない。


「あの奥の部屋にでもいるのかしら?」


 ギシギシとなる木の床を踏みしめて歩き始めた時――。



 ガチャッ



 背後で扉が開く音が聞こえた。驚いて振り向くと、そこには銀の髪の青年が籠を持って立っていた。


「あ?ようやく目が覚めたんだな?」


 青年は気さくに話しかけながら笑みを浮かべた――。

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