バビータの夢

@vavita_dream777

やさしいせかい

「うちの子は優しい子になるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ。2歳になるまでにこの薬を投薬をし続ければ、頭の中にある悪意を司る神経が育たずに優しい子になりますから」

この薬が新生児たちに投薬されるようになってン十年、親がこの心配をするのは世代関係なく通じるあるあるになっている。

悪意そのものが無くなったために投薬世代の逮捕は事故以外ではなくなり、非投薬世代ももうこんな優しい世界では犯罪を犯そうとする人は殆どいない。

久米田も例外なく治療を受けた一人だ。優しい久米田氏は人を幸せにしたいという気持ちで芸人になった。もちろん親も優しいため、夢を追いかけるのを快く了承してくれた。

舞台に立ち、持ち前のネタをする。そこに面白いかどうかは関係ない、観客は舞台の芸人を傷つけない為に笑うのだ。

 「私は人を幸せにできているのでしょうか?」と久米田は先輩に聞いた。「見てみろよ、お客さんは笑っているぜ」優しい先輩は答える。久米田最近考えたネタを先輩に披露した。

「そのネタはすごく面白いし、君にもそんな意図は微塵たりともないとは思うけど、それでみんなが幸せになるのは難しいかもしれない」

優しく諭された久米田はそのネタを如何にみんなを幸せにできるように誰も傷つけることのないネタにできるか必死で考えた。

 次の週、久米田は舞台に立った。先輩に諭されたネタを作り直し、完成させたのだ。観客は相変わらず笑ってくれて、舞台袖の先輩も腕を組みうなずいてくれた。

ここは優しい世界、もうすぐで非投薬世代が絶滅し、誰も傷つかない世界が完成するのだ。

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